2/26マノン(@新国立劇場)

新型コロナウイルスの影響で、急遽2/26で千秋楽(?)になった「マノン(@新国立劇場)」。2/26開幕前に劇場に到着した時点では、情弱なのでこの日で終わりになるとは思いもしませんでした。小野さんのマノンが観られて良かったです(感涙)。

2/22初日のメモが長くなってしまったので、今回は絶対短くすると決意のメモ。

この日は感染拡大防止の観点から、イベントの中止等の要請が政府からアナウンスされた日でした。それだけでも不穏な空気が漂っていますが、定刻になっても幕は上がらず。どうしたことだろうと思っていると、この日のレスコーの愛人役の寺田さんが降板し、代わりに木村さんがレスコーの愛人役を踊るとのアナウンスがありました。

開演前のロビーには当初の予定通り、寺田さんがキャスティングされているキャスト表が掲示されていました。ということは開場前に降板が決定していたわけではなく、開演前のそんなに時間が無い時点で降板が決定されたと推測されます。この日のレスコー役の渡邊さんと代役の木村さんは、全幕主役で何度もペアを組んでいますが、短時間で合わせるのは大丈夫なのだろうか?マクミラン振付のパ・ド・ドゥって、結構難しいし。

どうなることだろうと待ち続け、20分弱の遅れで幕は上がりました。

まずは1幕。

渡邊さんのレスコー。これは・・・、もしかしてサイコパス系の人物?冷酷で、周りの人間は自分の都合の良いように利用するタイプの人物に見えます。木下さんのレスコーより、ダークさ加減が上です。普段のダンスールノーブルを演じているときの好青年の渡邊さんは、一体どこへ行ったのか?

小野さんのマノンは、明るくてチャーミングな少女。騒がしくざわざわとした街に馬車から降り立った瞬間、周囲が明るくなったような気がしました。主役登場に合わせて照明が明るくなっただけではないと思います。

一方の福岡さん演じるデ・グリューは、世間知らずで真面目な青年風。ムンタギロフ演じるデ・グリューのマノンとの出会い演出のわざとらしさに比べ、もう少し自然な出会いシーンです。

自然な流れで好意を募らせ合い、最初のパ・ド・ドゥに移行します。福岡デ・グリューは誠実な感じがするし、小野マノンに魔性はありません。きれいでうっとりする部分あり、恋人同士のいちゃつきが微笑ましく見える部分あり。

恋人同士は情熱の高まりに身を委ね、場面はデ・グリューの下宿へと進みます。父への手紙を書くデ・グリューに近づく小野マノンは、女性らしさが増しているものの、いたずらな女の子の雰囲気もあり、絡みつくような色気はありません。

寝室のパ・ド・ドゥも素敵です。1幕の登場シーンでは田舎から出てきた青年といった風情の福岡デ・グリューでしたが、マクミランの振付の魔術のせいか、マノンもデ・グリューもすごい美女・美男に見えてくる不思議。

デ・グリューが手紙を出しに行くのを見送って、ベッドに勢いよくダイブする小野マノン。米沢マノンも結構勢いよくベッドに飛び込んでいたので、ここはこういう演出のようです。恋人を得て浮き立つ思いと、まだマノンが成熟した女性ではなく供っぽさが残っている少女であること表しているんでしょうかね。

一人待つマノンの元に、兄レスコーとムッシュGMがやってきます。レスコーはムッシュGMに妹を売る気満々、小野マノンは最初乗り気ではありません。ですがムッシュGMをものにすれば豪勢な暮らしが出来ると兄に言い含められて、狙いを定める目つきになります。

この時代は女性の自立なんて考えられない時代で、近親者の男性の言うがまま従うしかなかった女性像が見えてきます。自分の魅力を試してみたくてムッシュGMを誘うのではなく、兄の指示に従っているマノンです。

見たこともないきらびやかな宝石や、触ったこともない滑らかな衣服に魅せられ、ムッシュGMの囲い者になるマノン。ですが、デ・グリューの下宿を去る前に、心残り気にベッドを見やります。デ・グリューに対する愛は残っているけれど、ひもじい思いはしたくない、愛を捨てることはしょうがないことと、自分に言い聞かせるような風情でした。

マノンが待つ部屋に一刻も早く戻りたかったデ・グリュー。室内を見ると誰もいない。と、そこへ潜んでいたレスコーが現れ、マノンが去ったことを承知しないデ・グリューと一悶着あります。が、他人に暴力をふるって意のままにすることに抵抗感がないレスコーは、力でねじ伏せてデ・グリューに無理やり承知させます。レスコーはやはりサイコパスかもしれない。

1幕の他の登場人物について。

この日の物乞いのリーダーは速水さんです。踊りは観ていて気持ちのいいテクニックですが、見た目は髪の毛をぼさっと広がっていて本当に不潔そうです。ちょっとそばに寄ってほしくない感じ。カーテンコールでは劇中の汚い物乞いリーダーのまま通し、ゴシゴシと自分の手を衣装で拭ってから隣のダンサーと手を握っていました。

2幕の娼館のパーティ。

豪華に着飾ったマノンは、本来の年齢(っていくつなんだろう?)より大人っぽく見えます。多くの男性の視線を受けるに相応しい華やかさがあります。ですが男性陣の注目を浴びても、何も感じていないようです。敢えて感じないようにしているのかもしれません。

と、そこへデ・グリュー登場。小野マノンは福岡デ・グリューが近付こうとしても避けます。視線も合わせません。兄に言われた通りムッシュGMの囲い者になって、この世界で生きていくと決めている心を揺らがせないように。デ・グリューと視線を合わせたら、恋しい気持ちが溢れ出てきてしまうから。

 マノンに避けられても、めげないデ・グリュー。マノンと二人きりになり、マノンをかき口説くチャンス到来です。米沢・ムンタギロフ組と小野・福岡組ではシーンによってそれぞれ演じ方が違いましたが、このシーンも少々違うように見えます。

米沢・ムンタギロフ組はお金の魔力に魅せられて揺るがないマノンと、哀れに見えるほど懇願するデ・グリューでした。小野・福岡組は、デ・グリューを前にして恋心で揺らぐマノンと、マノンの恋心と良心に訴えかけるかのようなまっすぐな瞳を向けるデ・グリューという感じでした。福岡デ・グリューはマノンに懇願していないし、哀れさは漂っていません。このデ・グリューは、マノンに自分に対する恋心が残っていることが分かったのかも。なんとなく、マノンを責めている感じも受けました。

カードのいかさま行為の部分は省略します。次のシーン、デ・グリューの下宿。マノンの腕に嵌められたブレスレットのシーンです。なおもブレスレットを身に着けているマノンを責めるデ・グリュー。このシーンの小野マノンは、ハッとして、自分がいつの間にか変わってしまっていたことに気づくマノンといった感じでしょうか。やはり小野マノンと米沢マノンのアプローチの仕方は違う、と思います。

いかさま行為がバレて、ムッシュGMに射殺される兄の姿を見て半狂乱になるマノン。サイコパス風の兄でも、大切な存在であることに変わりはないようです。

2幕の他の人物について。やはり注目してしまうのは、レスコーの愛人役の木村さんでしょう。1幕のダンスシーンでこれは!と思い、2幕のダンスシーンでよくぞ踊りこなしてくれました、と。惜しみない拍手を送りたいダンサーです。

3幕。船から降りてきたデ・グリューの顔には既に泥メイクが施されていますね。最後に沼地のパ・ド・ドゥが控えていて、看守の部屋のシーンから沼地のシーンまでの短時間で泥メイクをするのも大変ですから、やむなし。そういえば、ムンタギロフは泥メイクはしていなかったような気がします。

港や看守の部屋シーンはサクッと省略して、沼地のシーン。ボロボロのマノン。横たわり、雷に打たれたかのようなポーズをとる恋人たちのシーンはハッとします。

いつこと切れても不思議じゃない感じでのマノンですが、頼りになるのはデ・グリューだけ。視力もきかなくなってきて意識も遠くなっていく中、デ・グリューだけがリアルなものとして感じられるのでしょう、マノンにとっては。

一方のデ・グリューですが、やっとマノンを独り占め出来て、何だか嬉しそうじゃないか?マノンを支えたい気持ちはもちろんあるのでしょうが、誰にも邪魔されず、愛しいマノンと二人だけのこの状況が嬉しそうに見えてしまうのです・・・。

 マノンは最後の命の炎を燃やします、デ・グリューと一緒にいるために。小野マノンにとってはデ・グリューはかけがえのない存在なのですね。そして短くも激しい一生の幕を閉じて、終幕です。

小野マノンは感情のままに動くタイプではなく、こういう風にしか生きられない時代や社会の仕組みから生まれた女性といった感じでした。

小野さんも米沢さんもそれぞれのマノン像を作り上げてくれて、お二人のマノンを観られて良かったとしみじみ感じたところで、今回のマノンメモは終了です。

 

2/22マノン

街を歩いていたら、「マノンカフェ」というチョコレートを売っているのを見かけました。マノンか・・・。新型コロナウイルスの影響で千秋楽を待たず閉幕した「マノン(@新国立劇場)」でしたが、初日からもう1か月も経ってしまったのだなと感慨深いです。というわけで、2/22「マノン」をメモ。米沢さん、ムンタギロフ熱演のマクミラン「マノン」でした。

さてさて、「マノン」は冒頭、マノンの兄であるレスコーが真っ暗な舞台の中、一人スポットライトを浴び、微動だにせず座った状態で始まります。これから始まる物語に、グッと観客の視線を集めるオープニングがうまいです。

舞台全体にライトが当たって、庶民や娼婦、物乞いなど種々雑多な人々が集う宿屋の中庭があらわになります。そんなところにマノンが馬車で登場します。

米沢さんマノンの初登場シーンは、普通のティーンエイジャーの少女に見えます。兄レスコーを全面的に信頼して、裏社会のことなど全く知らない少女です。頼りにする兄のせいで、この後いっとき豪勢な暮らしをすることも出来るものの、転落の人生を歩むことになるのですが。一方、木下さんのレスコーは計算高くて快楽的な小悪党のよう。

中庭にいる男性陣はマノンの美貌に目を止めますが、その中にムンタギロフ演じる神学生デ・グリューがいます。マノンの気を引きたくて、わざとらしく後ろ向きに近づき、偶然を装ってぶつかります。ぶつかった瞬間マノンが落とした持ち物を拾い上げて出会いを演出するという、古典的な手段です。やれやれ・・・。

この出会いでデ・グリューの存在を認めたマノン。バレエでは言葉ではなく踊りで求愛を表現しますが、この場面の求愛のダンスは、激しく踊るようなものではなく、ゆっくりとした動きで一見簡単そうに見えますが、勢いをつけられないので見た目以上に難しそうです。ムンタギロフのラインの美しさが強調されます。

そしてデ・グリューの思いを受け、マノンとデ・グリューのパ・ド・ドゥが始まりますが、美しい場面なのに悲恋の予感しかありません。何といってもこのシーンに流れる音楽が、「エレジー(悲歌)」なんだもの。ロマンチックで美しく見える表面に隠された、裏側の悲しみや寂しさを感じてしまいます。

底に流れる悲恋の予感は別として、このシーンで舌を巻いたのは米沢さんのマノンの造形です。会って間もないデ・グリューに、心底楽しそうに一切の遠慮なくもたれかかる。身のもたれ方、首の傾け方が、何か色っぽいのです。小悪魔とはちょっと違う。魔性の女?

米沢さん演じる魔性の女というと、ホフマン物語ジュリエッタとか、カルミナ・ブラーナのフォルトゥナとか、どこにでもいるのではない滅多にいない系の役柄を思い浮かべます。が、今回のマノンは一見普通っぽく、どこにでもいる美少女のようにみえるけれど、何かが違う。ここら辺が、宿屋の中庭にいた男性陣が反応した所以かもしれない、と妙に納得感がありました。米沢さんはどこの引き出しからこんな人物像を引き出してきたのでしょう。

宿屋の中庭のシーンでは、物乞いのリーダーの福田さんの踊りが冴えてて良かったです。そして物乞いの一員の井澤諒さんの踊りも美しくて目を引きました。

デ・グリュー下宿の寝室。ベッドから身を起こして、父への手紙を書いているデ・グリューの姿を認めたマノン。甘い余韻に浸っているという感じでしょうか、米沢マノンはなまめかしい。ガラでよく目にする「寝室のパ・ド・ドゥ」が始まりますが、良いですね。ムンタギロフのデ・グリューと米沢マノンが絶世の美男・美女に見えてきます。

デ・グリューが手紙を出しに行って、一人残されたマノン。そこへ兄のレスコーとマノンを見初めたムッシュGMがやってきます。兄に促されムッシュGMと相対する米沢マノンですが、ムッシュGMが自分に夢中なさまを目にしてアイデアが閃いたようです。

兄に「ちょっと黙って見ていて」とでも言うように、自らムッシュGMに誘い掛けます。自分の魅力がどの程度ムッシュGMに有効なのか、試してみたくなったのでしょうか?マノンの誘い掛けにたまらなくなったムッシュGMが、マノンを押し倒そうとするのを制止する兄レスコー。途中から積極的に先導してムッシュGMを誘うようになった米沢マノン。

マノンは豪華な服や宝石にうっとりして、デ・グリューへの想いなんてどこかに吹き飛んで行ってしまい、ムッシュGMの手を取ります。レスコーは妹を高く売れて大喜び。この兄にして、この妹あり!

マノンが去ったあと、下宿に戻ってきたデ・グリュー。いるはずのマノンの姿がなく、呆然とします。レスコーが手切れ金を握らせようとしますが、マノンのとりこになっているデ・グリューは断固拒否します。そんなデ・グリューをレスコーが締め付けて、無理やり承諾させます。あまり痛そうに見えない控えめな暴力シーンでしたが、デ・グリュー役のムンタギロフが必死さがあり、かなり痛そうな表情で演じていて、役柄に入り込んでいました。

2幕、娼館でのパーティーシーン。黒っぽい豪華なドレスに、豪華な宝石を身に着けたマノン。本人は満足気な様子ですが、アンダーグラウンドの人間になったにおいがプンプンします。男性の手から手へ、モノのように受け渡される踊りは、マノンの人生を想起させます。でも美味しいものを食べられて、美しいドレスと宝石に囲まれた生活に何の不満も感じてないことが見て取れます。

娼館を訪れ、そんな様子のマノンを目にしたデ・グリュー。人々がいなくなった隙を見て、マノンに訴えかけます。現状に不満のない米沢マノンは、デ・グリューの訴えに耳を貸そうとしません。「何を言ってるのかしら、この男」という感じです。

それでもめげないムンタギロフのデ・グリュー。身を投げ出して、「戻ってきてくれ」とマノンに懇願します。バレエダンサーとして恵まれた容姿(とテクニック)を持つムンタギロフですが、この場面のデ・グリューは観ていて哀れになってきました。

自分を投げ出して懇願するデ・グリューがマノンも哀れに感じたのでしょうか、心を動かされ、カード詐欺をするようそそのかします。米沢マノンは、その時々に自分の中に沸き起こった感情に突き動かされるタイプとお見受けします。豪華な宝石が素敵、とムッシュGMになびく。デ・グリューが自分たちの愛を思い出すよう訴えても、今の生活の方が素敵だわと無下にする。一方でデ・グリューが哀れに思えてくると捨て置くことができず、復縁しましょう、となる(でもムッシュGMからもう少し搾り取ってからね、というのは忘れない)。とらえどころのない女性です。

デ・グリューは言われるままカード詐欺に加担しますが、手慣れていないので、手口がバレバレです。娼婦たちに見つかり、ムッシュGMも知るところとなります。

混乱の中、一目散に場を抜け出し、再びデ・グリューの下宿で愛を確かめ合うマノンとデ・グリュー。ですが、マノンの腕には豪華な宝石が散りばめられたブレスレットがしっかり装着されています。怒るデ・グリューに、宝石を手放す気がさらさら無いマノン。すっかり変わってしまった(とデ・グリューが思っているだけで、元々享楽的で豊かさに目がないという点ではぶれていない)マノンに呆然とするも、マノンとは離れられないデ・グリュー。

そんなところへ、手錠をかけられケガをしたレスコー、警察を伴い、恐ろしい表情をしたムッシュGMがやってきます。ムッシュGMのレスコーに対する仕打ちに、猛然と反発するマノンで、肉親の間に流れる絆は相当強いもののようです。結果的に、マノンの目の前で兄は怒れるムッシュGMに射殺され、マノンは警察に連行されてしまいます。マノンの運命は急転直下、待て3幕!というところで2幕は終了です。

2幕の主人公以外の部分について。2幕にはマノンとデ・グリューのパ・ド・ドゥと対比させるための、へんてこパ・ド・ドゥがあります。踊るのはレスコーとレスコーの愛人です。

レスコー役の木下さんは典型的なダンスールノーブルからは外れたタイプのダンサーで、演技力はあるし踊りはうまいので、レスコーの酒瓶片手の酔いどれダンスはお手の物だろうなと予想していましたし、実際そうでした。

一方で初日のレスコーの愛人役は、いつもはキラキラオーラ満載の木村さんです。マノンの方が向いているダンサーだと思いますが、マノンは人物造形もパ・ド・ドゥもとにかく難しい役柄(ついでに相手役を出来るダンサーがいなさそう)なので、今回キャスティングされなかったのは納得です。でも、レスコーの愛人かぁ、どんな風になるんだろうと期待と不安が半々でした。

が、よく演じ、踊っていたと思います。変顔の面白さ、マノンよりも年かさでちょっとスレた感じ、呆れつつも放っておけないDV男レスコーに対する純な気持ちが感じられました。木村さんはコメディエンヌとしても才能がありそうなので、ロパートキナが楽しそうに踊っていた「ザ・グラン・パ・ド・ドゥ」もイケるのではないでしょうか。

踊る紳士役は速水さんの踊りが、群を抜いて良かったです。高級娼婦同士の張り合いシーンは初演・再演時に比べ、女の醜い爭い感がおとなしめでしたかね。以前はバシッと音が聞こえる勢いで相手を押しのけていましたので。

3幕。青空の新大陸、アメリカの港で幕は上がります。明るい日差しがあふれ、港を行く人々にも活気があります。そんなところへ、無造作に切られたざんばら髪の売春婦たちが船から降りてきます。うつむき、汚れた服に汚れた身体、栄養状態も悪そうでフラフラしています。希望に満ちて新大陸で暮らしている人々と、流刑地に罪人として送られてきた人々との対比が悲しい。

流刑者群に少し遅れて、ざんばら髪のマノンとそれに寄りそうデ・グリューが降りてきます。マノンにはもう感情が無くなったようにも見えます。そんなマノンに目をつけたのが看守。敏感に看守の視線を感じ取ったデ・グリューは、看守の目に留まらないようにマノンをかばいます。いかにも好色でだらしなさそうな看守というのではなく、

次のシーン。執務室で静かに仕事をこなしている看守。そこへ部下たちがマノンを引きずってきます。引っ張って連行するのではなく、何の反応もないマノンの両腕を持ってズルズルと引きずり、執務室に届け終わったらサッサと帰っていきます。マノンが引きずられた後の床は、きれいになっていることでしょう。バレエの主役でこんな扱われた方をされるヒロインは、マノン以外にいるだろうか、いやいない(と思う)。

気づいたら看守の執務室に連れてこられていて困惑するマノン。マノンをじっと見つめ、ブレスレットをチラつかせ、自分のものにならないか取引を持ち掛けます。マノンの眼前にあるのはデ・グリューと復縁したときにも手放さなかった、あの豪華なブレスレットです。マノンは看守の申し出を拒みますが、無力な流刑者のマノンは看守に凌辱されてしまいます。(ついでに書くと、凌辱シーンも初演・再演時に比べ、控えめな表現になっていました。)お子様には見せられない、なにもここまでやらなくてもという話の流れですが、人間の暗部を描くのがマクミランの真骨頂。はずしちゃいけないシーンなのだろうな・・・。

マノンの危機を知って、看守に執務室に飛び込んでくるデ・グリュー。熱いデ・グリューは看守とやり合い、看守を刺し殺してしまいます。マノンと出会ったデ・グリューは、神学生だった頃と大きく離れて行ってしまいましたね。マノンと出会う前の自分からは、人殺しまでしてしまう現在の自分の姿は想像もつかないことでしょう。

さぁ、クライマックスの沼地のシーンがやっときました。ルイジアナの沼地に逃げた2人。悪夢にうなされるマノン。走馬灯のように過去の出来事が想起しては消えていきます。

逃げなきゃと立ち上がりますが、マノンはもう瀕死の状態で、デ・グリューはマノンが行くところなら地の果てまでもついていくという感じです。意識がはっきりしなくなり、ふらふらとデ・グリューから離れる。残ったわずかな意識は、それでもデ・グリューを求める。

この場面は、ボロボロの状態のマノン役ダンサーが空中でピルエットを2~3回転し、それをデ・グリュー役ダンサーがキャッチする振付が見どころ。まさしくフィギュアスケート(ペア競技)の振付にインスパイアされた、マクミランの振付の妙が光るパートです。

何回か繰り返される空中ピルエット・キャッチの振付ですが、米沢マノンの空中ピルエットの回転速度が速くて鋭く、鮮烈な印象を受けました。「マノンは最後の命の炎を燃やしている。死のうとしていない、生きようとしている!」生きようとしている印象は受けましたが、それは真実の愛に気づいてデ・グリューと生きようとしているのか、それともデ・グリューの存在云々は関係なく、生にどん欲なだけなのかは分かりませんでした。

そしてだんだんとマノンの命の炎が消えかかっていくのに従い、動きも弱弱しくなっていき、ついには儚くなってしまいます。マノンの表情は穏やかで、苦悶の跡はありません。デ・グリューはマノンの亡骸を抱きしめ、号泣しているシーンで終幕です。

米沢マノンとムンタギロフのデ・グリューが予想以上に良かったので、ちょろっと書こうと思ったメモが長くなってしまいました。書くのに疲れた・・・。

 

高御座と御帳台

東京国立博物館で特別公開されている「高御座と御帳台」を見に行ってきました。

最初は三が日に行ってみたのです。1/2の11時過ぎに現地に到着したところ、入り口に90分待ちの表示。構わず博物館敷地内に入ると、冬の寒空の下、長蛇の列が出来ていて、90分待ちの表示は伊達ではありません。うーん、これはちょっと・・・、ということでその日は見るのを諦めました。

そんなこんなで、日中より比較的人出が少ない金・土の夜間開館時に行くことにしました。

夜間開館中は、待ち時間ゼロ!スムーズに入れました。しかも見学者が少ないので、混雑時にスタッフの方から言われがちな(今回言ってるかどうか不明ですが)「立ち止まらず歩きながら観覧してください。」なんてことも言われず、ゆっくりと好きなだけ観覧できます。

さて、高御座と御帳台ですが、実物を目にし、言葉が出ません。ただ、ただすごいのです。日本工芸の粋が集まった、本物の持つ迫力に圧倒されました。

高御座は上皇陛下の天皇即位時に、テレビを通して目にした記憶がうっすらあります。が、テレビを通して見るのと、実物をガラス越しとはいえ目の当たりにするのでは、迫力が違います。多くの人が並んでも見たくなる気持ちが分かります。

入館時にもらえるカラーの冊子によると、「大正天皇即位に際して製作された」とありますが、全然古びていません。朱や黒の漆はつやつやとし、鳳凰の像や数多く付けられた飾り金具はきらきらとしています。絵や彩色ははっきり。全面に有職文様が入った紫色のとばりは、さすがに大正時代のものではないでしょうが、高貴な紫色ってこれなんだねと思わせてくれます。パーツごとに各職人のかたの匠の技が散りばめられていて、この高御座・御帳台の制作に携わったすべての職人の方に敬意を感じます。

ガラス越しですが、ぐるーっと高御座・御帳台を前から横から斜めから、後ろから見られます。どの角度から見ても、美しくてすごいのです。仏像等も背面も見たい性分なので、後ろから見られるのは嬉しい。ちなみに後ろは黒漆の階になっていて、階の上に緋毛氈ならぬ、朱色に白い丸模様(真円ではない白丸の中心にさらに色付きの丸がある)の毛氈らしきものが敷かれていました。あの毛氈(?)に描かれた模様は、何かの吉祥文様なのでしょうか?

高御座・御帳台の隣の展示室には、即位礼に使われる伝統的な装束や威儀物という道具類も展示されていました。装束等はガラス越しの展示ではなく、かなり接近して見られるものまた嬉し。装束の織りが美しいです。

空いていたのでもう一度と、結局二周して高御座・御帳台を見てきましたが、本物のすごさは言葉に尽くせません。展示物をより良く見せるトーハクのライティングの技が、ここでも遺憾なく発揮されているということもあるとは思いますが、一度見ておいて損はない特別公開展でした。

 

 

12/21ソワレくるみ割り人形

12/21(土)ソワレ、木村渡邊ペアが主役のくるみ割り人形(@新国立劇場)に行ってきたので、メモ。

今回新国立劇場くるみ割り人形は、12/14ソワレのみ観に行くつもりでした。が、1階席では雪の国のコールドバレエの美を堪能しつくせなかったので、急遽追加して見やすいとは言えない席での観劇です。

シュタルバウム家のパーティーで注目してしまうのは、やはりルイーズとその崇拝者との関係です。この日は青年役の速水さんがルイーズにべた惚れという感じで、他の2人を押しのけて情熱的に迫っていたのが印象的でした。ルイーズ役の池田さんは、リフトされている時のポーズがきれいだったかな。

ねずみたちとの戦いの場面では、井澤さんのねずみの王様が弾けていました。ねずみの被り物を被って顔が隠れていると、よりいつもとは違うキャラを演じやすいのかもしれません。

木村さんのクララは乙女。ねずみたちを怖がっているようで、自分が積極的にやっつけてやろうというようには見えません。でも自分側が劣勢に立っているとみるや、自分も何かしなくては!と勇気を持って加勢するという感じでしょうか。

 雪の国の場面。この日は上の方の階から観たので、コールドバレエのフォーメーションの美しさにうっとり。その美しさの裏で、それぞれ個性のあるダンサーが、個性を抑えて全体の美を追求するには、どれほどのリハーサルを積み重ねたのでしょうか。

雪の国の美しさに感動して、1幕は幕を閉じます。

この日は1幕が下りた後の、客席からの拍手がもの凄かった!ソワレ公演は終演が遅いせいもあり、子供連れの客はマチネ公演よりぐっと少なめです。その分、ある程度の年齢がいった若い人や大人の観客が多く、拍手にも「いいもの観たー!」といった熱が入っていたのかもしれません。

そのさまは、拍手の音とその反響音がすごくて、劇場を揺るがすというか、それが圧となって下りている幕を動かすんじゃないかと思ったほどです。(実際は動かない)14日ソワレ(小野・福岡ペア)終演後のスタンディングオベーションもすごかったですが、21日ソワレ1幕終了後の拍手の方が大音量でした。休憩中は、初めて雪の国の群舞を観たらしき若い人たちが、興奮して感動を話している姿もあちこちに。

2幕のディベルティスマンは、アラビアの踊りの本島さんがダントツ。嫣然とした笑みで、その存在感は女王のよう。衣装は古代エジプト風ではないけれど、もしかしてクレオパトラって、こんな感じ?中国の踊りの奥田さんも良いです。奥田さんは、その役に求められるものを、過不足なく表現できるダンサーだと思います。

ディベルティスマンに続く、花のワルツの女性メインダンサーは、飯野さんと柴山さんです。飯野さんの音の取り方が好きなので、飯野さんばかり観ていました。思ったことは12/14ソワレの感想を訂正というか、飯野さんは音楽に合わせているレベルではない。飯野さんの内側には音楽が流れていて、踊りで音楽を表現しています。回転のしかたやポーズを決めるまでの所作を音楽の調子を表現しています。オケの音が聞こえなかったとしても踊りからどんな音が演奏されているのか分かる感じ、と言いましょうか。

木村さん演じる金平糖の精と渡邊さん演じる王子のグラン・パ・ド・ドゥ。

見ためはバッチリの二人ですが、一時は渡邊さんにはもう少し小柄なダンサーの方が合うのではないかとも思っていました(長身の女性ダンサーは、リフトするの大変そうですし)。どんどん進化する2人にそんな懸念は払しょくされていきましたが、もう完全にバランスの良いペアです。

渡邊さんの良さは、軽やかなジャンプなどのテクニック面、クラシックバレエの男性主役を演ずるに適した容姿といったところがパッと浮かびます。ですがそれらに加えて最大の魅力は、女性ダンサーと共に物語の世界を作っていこうとするところだと、個人的に思っています。物語の世界観を考えて演じることが好きそうな木村さんと、そういった面でも相性が良いと感じています。

女性バリエーションは、木村さんの長い手足が映え、可愛らしさと美しさ、輝きがあります。輝きだけでなく、音を捉えてくるくると正確に破綻なく踊ります。

コーダは多幸感に溢れています。細かなポジションチェンジで、うまくフィニッシュできるのかとどのペアを観てもハラハラするのですが、うまい具合にフィニッシュです。

こんな感じで、12/21ソワレくるみ割り人形の観劇メモは終了です。

 

 

 

 

12/14ソワレくるみ割り人形

12/14ソワレ、小野・福岡ペアのくるみ割り人形(@新国立劇場)に行ってきたので、メモ。

シュタルバウム家のパーティーの場面。

ルイーズ(クララの姉)を巡る恋模様が展開されます。詩人と青年、老人(スコットランド人の扮装をした人物)がルイーズに言い寄りますが、詩人と青年に気おされて、老人はルイーズ・詩人・青年の3人の輪の中に入れない感じです。

老人役の福田さんが、3人と少し離れたところで自分もその輪に入りたいと思いつつ、オタオタと入り損ねています。そんなオタオタしているところに、不意にルイーズが近寄ってき、すかさず手を取りエスコートする老人。とエスコートしたのもつかの間、また若者たちにルイーズを取られてしまう。なんてことない場面の人間模様が面白い。

ルイーズを巡る恋模様では後手に回りがちな老人ですが、仮面をつけて踊る余興での踊りはすごい。福田さん演じる老人の踊りはキレキレ。音楽の盛り上がりに合わせてキレキレの踊りを披露する姿には、3人の輪の中に入れずにいた年老いた人物の面影はありません。

パーティーが終わり、時計が12時を回って、クララは夢の中。ねずみの王様率いるねずみたちとの戦いが始まります。

主役の小野さんはこの場面で初登場します。小野さんのクララはちょっとお転婆風。ねずみたちを怖がってばかりいる女の子ではありません。対する奥村さん演じるねずみの王様は、クララ側の兵士(←弱い・・・)を馬鹿にしきっています。おちょくって、馬鹿にした感じの踊りが小憎らしい・・・。

ねずみの王様にやられて倒れるくるみ割り人形くるみ割り人形の仮面って、オペラグラスでよく見ると、結構すごい顔をしています。

倒れたくるみ割り人形ドロッセルマイヤーの魔法で甥に姿を変え、クララとパ・ド・ドゥを踊り始めます。この時のパ・ド・ドゥは、2幕で王子と金平糖の精に姿に変わって踊るグラン・パ・ド・ドゥとは、踊りの趣が違います。何というか、クララの高まる気持ちを精一杯、憧れの甥にぶつけるような感じと言いましょうか。周りは見えていない、自分の気持ちをストレートに表現した踊り。リフトも激しく、疾走感があります。若いなぁ、気持ちの高ぶりが伝わってくるなぁと感じます。

続く雪の国は、コールドバレエの美を堪能できる場面です。ですが、失敗した、この日は1階席で観ていたので、群舞のフォーメーションの妙が見づらかったのです。群舞の美を堪能するには、上方の階の方がおすすめです。すべてがすべて、1階席が素晴らしいわけではありません。

そんな雪の国の場面ですが、雪の結晶のソリスト(?)の飯野さんが素晴らしい。この音の時はこのポーズでいてもらいたい、このポーズはこの瞬間までどこまでも伸びるようにキープしていて欲しい、上げた脚は重力に従ってバッと落ちるように見えるのではなく自分で収めているように下ろしてほしい、といった点、音の捉え方がことごとく自分の好みに嵌っていました。

2幕はディベルティスマンが続きます。

アラビアの踊りの木村さん。巫女のように見えたり、男心を翻弄する悪女のようにも見えたりします。衣装は「アラジン」のルビーと同系統ですが、あの時の色気とはまた別の雰囲気。

ちなみに、今回は隣の席に外国の方(何となく舞台関係者っぽい)が座っていて、気に入ったダンサーには惜しみない拍手を送っていました。その外国の方が気に入ったらしきダンサーは2幕で2人いて、一人目は木村さん。カーテンコールの時も、舞台に登場した木村さんに大きな拍手を送っていました。

さて、謎の存在、蝶々。この日の蝶々は奥田さんです。相変わらず良く分からない存在、かつ、どういった見方をすればいいのか分からない踊り。だと思っていましたが、もしかしたら奥田さんの蝶々は、この踊りの本質を見せてくれたのかもしれません。

蝶々の振り付けは、緩急を楽しむもの、ふんわりと柔らかい踊りから瞬時に素早い動きに移る妙を楽しむもの、かな?ただ、パッパッと一つのポーズ、次のポーズと素早く移るものではなく、素早い動きの合間にゆったりとした柔らかな動きを挟む。ただし、次の素早い動きを予定してゆったりした動きをおざなりにするのではなく、ゆったりとした部分はあくまでゆったりと、だけど次の踊りの音と動きに遅れない。

花のワルツで舞台を盛り上げ、次は金平糖の精になったクララと王子のグラン・パ・ド・です。

今日も小野さん演じる金平糖の精はキラキラだ、アラセゴンに上げた脚の美しいこと!と、主役2人の踊りを堪能していました。で、あれ?アダージョの途中で、小野さんはもしかしたら脚を痛めた?続く踊りで、何となく、片方の脚の動きがもう一方と違い、慎重になっているように見えました。

アダージョに続き、王子のバリエーションが始まります。福岡さん演じる王子は、ジャンプの着地で5番に収めるべきときは、きっちり5番に収めます。これ見よがしではなく、嫌みの無い踊りは観ていて清々しいです。オケの音に合わてコントロールする踊りのフィニッシュも、好感度高し。また隣席の外国の方の話になりますが、2幕でこの方が気に入っていたダンサー2人目は、福岡さんです。

小野さん、脚大丈夫かなと思いつつ観た、金平糖の精のバリエーション。少し慎重になっているかなとは感じましたが、はた目には分からない感じです。いつもだったらもう少し回転していた気がする、少し控えめにも感じる・・・(心配)。

コーダ。福岡さんのマネージュは若々しく、速く舞台を疾走します。舞台を一周しても、はっきりとした感じで速度が落ちません。イーグリング版くるみ割り人形のグラン・パ・ド・ドゥはかなりハードだと思いますが、最後にこれだけのクオリティは、さすが!の一言です。小野さんは笑顔で輝かしく踊ります。脚を痛めたと感じたのは気のせいかな、うーん・・・。

1幕のパ・ド・ドゥのクララに比べ、2幕のグラン・パ・ド・ドゥの金平糖の精の踊りは、しとやかで輝きがあり、幸せに溢れていて、その輝きや幸せを観る者に届けるような感じです。金平糖の精の幸せオーラが舞台に満ち、劇場を包んでいきます。1幕で観た、感情の奔流のような激しいリフトはなく、呼吸を合わせた難しいリフトをスッと決めます。

この日はカーテンコールまで面白かったです。

皆、手を繋いでカーテンコールを行いますが、ねずみの王様は隣の王子と手を繋ぎたい。ですが、ねずみの王様が手を伸ばしてくると、王子はにこやかな笑顔のままサッと避けます。手を取ろうとすると、王子は手を隠して絶対手を取らせません。しょんぼりする、ねずみの王様・・・。

指揮者のバクランさんが舞台上にあがり、オケに対する盛大な拍手が沸き起こります。そしてバクランさんも出演者と一緒にカーテンコールに応えます。位置したのは王子とねずみの王様の間です。ということで、やっとねずみの王様は手を繋いでくれる人(バクランさん)が現れました。良かったね、ねずみの王様。

ロメオとジュリエット26日マチネ&27日

「ロメオとジュリエット(@新国立劇場)」は26日マチネと27日も観ているので、軽くメモ。(アップしたと思っていたら、していなかったので今頃・・・)

26日マチネは木村・井澤ペア。27日の千秋楽は米沢・渡邊ペアです。

まず、26日から。

木村さんのジュリエットは、等身大。どこかの架空の国のキラキラしたお姫様ではなく、リアルなティーンエイジャーの女の子です。登場シーンははつらつとして、いたずらっぽい感じもして可愛いのですが、幼すぎではない。

対する井澤さんのロメオは、見た目が良く、冒頭ロザラインに求愛しているけれど、ものすごい情熱をもっているわけでもなさそう。自分のありったけを見せて、何としてでもロザラインの歓心を勝ち取ろうという風には見えません。

そんな2人が出会い、恋をする。

恋を謳歌するバルコニーのパ・ド・ドゥでは、小野福岡ペアとは違う魅力を発揮していました。

まず、井澤ロメオが感情を解き放った。これまでの古典の主人公での井澤さんは、感情表現が控えめでした。

ですが、今回のロメオとジュリエットでは閉じ込めていた感情を解放していました。感情を解き放った井澤ロメオは、無敵なのではないのかと思います。頼もしい笑顔で両手を広げられたら、ジュリエットは一目散にその胸に飛び込んでいきたくなるでしょう。木村ジュリエットは輝く笑顔で応えます。

バルコニーのパ・ド・ドゥは高難度のパ・ド・ドゥです。リフトを多用し、一歩間違えれば大惨事。なにしろ、両者とも初演(井澤さんは前回ロメオにキャスティングされていたものの、ケガで降板)ですから、どこかで破綻しないか、破綻しないまでも簡略版になるのではないか(他の演目で、どうしても振付をこなせなかったらしく、簡略版を踊るキャストを観たことがあります)、ドキドキしながら観ていました。

で、木村井澤ペアは、小野福岡ペアの安定感・流麗さはないものの、予想以上に良かったです。よくぞここまで作り上げていったと感動しました。初めての恋って感じも良いですね。

何といっても井澤ロメオが包容力があって頼もし気でした。木村さんは初々しく、女性らしさも加わって可愛らしかったです。ここでも、木村ジュリエットは等身大のティーンエイジャーに見えました。

ロメオが追放され、残されたジュリエットはパリスとの結婚を迫られます。

この場面、それぞれのジュリエットの対比をすると地味に面白いです。激しい小野ジュリエットの意思に対し、木村ジュリエットは拒絶はしますが、激しい意思表示は見せません。

恋をして若干大人の女性に近づいたとはいえ、まだティーンエイジャーの身、両親に激しく抵抗することにとまどいがあるのか、元々の性格から意思表示がやんわりとしたものなのか?

終盤の霊廟の場ですが、今回は4階から観ていたので、照明が暗い中では登場人物の表情がよく観えません。床に倒れるロメオの存在に気付いた場面のジュリエットの表情を観ようと、オペラグラスをあちこちに向け、ジュリエットの姿をとらえました。が、時すでに遅く、ジュリエットの細かな感情の動きを観ることはできませんでした、残念・です。細かな感情の動きを拾うには、4階席はつらい・・・。

ロメオの死を受けて、腹(しつこいが、胸ではない)に刺した短剣を勢いよく抜く木村ジュリエットの姿が印象的でした。あの勢いで抜いたら、出血多量。ロメオの元に何としてでも行く決意だったのかもしれません。

さて、千秋楽の27日。主役キャストは米沢渡邊ペアです。

米沢さんのジュリエット、渡邊さんのロメオ、福岡さんのティボルトが気になります。

米沢ジュリエットは感情表現が控えめ。対する渡邊ロメオは、3キャストの中で最も若く、ティーンエイジャーっぽいです。特に表情が若く、喜びや怒りを隠しません。初日の大人っぽいパリスと同一人物には思えない人物像です。舞台メイクもパリスの時のがっつりメイクに比べて、素顔に近かったのではと思います。

この2人の演技・踊りで微笑ましいなと思ったのは、人がはけた舞踏会の2人だけの場面。いたずらっぽくロメオがジュリエットの首筋にキスをすると、くすぐったげに明るい笑顔で反応するジュリエット。この戯れの場面が、年若い恋人同士っぽくて、可愛かったです。バルコニーのパ・ド・ドゥもスムーズに見えました。米沢さんがどのパートナーとも米沢渡邊ペアも相当初役とは思えませんでした。

悪ガキトリオについて。マキューシオは木下さん、ベンヴォーリオは速水さんです。

木下さんのマキューシオは、見た目もチャラくて、ティボルトのおちょくり具合が良いです。速水さんは、音を取るタイミングが渡邊さんと同じなのかもしれません。何回かロメオ・マキューシオ・ベンヴォーリオの3人が並びで同じ振付を踊る部分がありますが、渡邊ロメオと速水ベンヴォーリオのタイミングが合っていました。二人の並びが、観ていて気持ちの良い踊りでした。そして速水さんのベンヴォーリオはおとなしめなキャラには見えず、どこかチャラい。この物語の中では最後まで生き残っていても、いつかどこかで刃傷沙汰を起こしそう。遠くない未来、ロメオやマキューシオとこの世でないどこかで、また悪ガキトリオを結成しそうです。

福岡さんのティボルトについて。26日マチネのティボルトは中家さんで、威圧的な感じでした。福岡さんのティボルトは、ロメオたちに比べて、大人っぽく、余裕がある感じです。

27日の舞台上の剣をふるう闘いの場面で、誰よりも剣の扱いが上手だったのが福岡ティボルト。これがマキューシオに負け、ロメオに殺されてしまうなんて、ちょっと考えられません。

物語の進行上、マキューシオに負けてしまうのは必然。で、散々マキューシオにおちょくられて、「この小僧!」と頭に血が上って冷静さを欠き、結果負けてしまうという設定なのかと。そして辱めを受けた仕返しに、卑劣なやり方でマキューシオを刺し殺してしまう。

マキューシオを殺された怒りでロメオは剣をとります。ロメオの心情はどうだったんでしょうね。

ティボルトとのいさかいをやめるようマキューシオを止めている時、ロメオは複雑な表情をしていました。舞踏会で正体がばれた後も、相変わらず嫌なものを見るような視線でティボルトを見ていました。ちょっとやそっとじゃ解けないわだかまりがありそうな感じ。

ジュリエットと秘密の結婚をした後も、表面的な態度とはうらはら、心の底の底では、まだティボルトへの対抗心やわだかまりがあったのではないかと勘繰ってしまいます。理性で押さえいたものは、ちょっとした感情の高まりで容易に吹き飛んでしまう。そして、自分の死をも恐れないロメオの気迫に押され、ティボルトは刺殺されてしまった、という設定を考えてみました。刺された後のティボルトは、絶対一矢報いてやると、最後まで剣を取りに向かっていたのが恐ろしかった。

ジュリエットの寝室で一夜を過ごすロメオ。ジュリエットを両手でゆるく抱きしめるようなポーズで寝ていたのが印象的でした。こういったちょっとした所の違いは、ダンサーの裁量に任されているみたいですね。

ロメオが去った後、一人部屋に残されるジュリエットのたたずまいも、2パターンあるのでしょうか。米沢ジュリエットは呆然と、心ここにないという感じで立ち尽くしていました(今年テレビ放映されたロイヤル高田さんのジュリエットも同じ)が、小野ジュリエットと木村ジュリエットは悲しみをこらえるようにベッドに横たわっていました。

心ここにないジュリエットは、パリスへの拒絶も静かな拒絶でした。

話しは飛んで、霊廟での場面。ジュリエットの亡骸(本当は仮死状態)を揺さぶり、引きずってロメオの遣り切れない気持ちを表現するところです。人形のように全く反応せず、なされるがままのジュリエットですが、この場面の米沢さんの動きがスムーズでした。

横たわったジュリエットの亡骸を、ロメオが持ち上げる場面。ここはロメオ役ダンサーが力づくでジュリエット役ダンサーを持ち上げるのではなく、男性ダンサーが持ち上げやすいように女性ダンサーがタイミングを合わせて飛び上がっています。ただし、あからさまに女性ダンサーが飛び上がっているように見せないのがポイント。亡骸の設定の女性ダンサーがあからさまに飛び上がったら、まるでゾンビですから。ここの場面の米沢さんの動きがスムーズで、渡邊さんが持ち上げやすいように飛び上がっているはずなのですが、そう見えません。悲しみのロメオのなすがままに、くたっとなっている力の抜け加減も、今回の3人のジュリエットの中では一番だったかも。全編を通して、米沢さんのジュリエットは自分から強く発するタイプではなく、受け止めるタイプのジュリエット(深窓令嬢タイプ?)だったのかもしれません。

 とういうわけで、ロメオとジュリエットの鑑賞メモは終了です。

 

和田バス停から陣馬山へ 

毎年春・秋は陣馬・高尾スタンプハイクに参加することにしているので、今回も参加しました。

台風19号の影響で、路線バスで陣馬高原下まで行くことは出来ません。そんなわけで今回は、藤野駅から神奈川中央交通の路線バスで和田バス停まで行き、和田第二尾根コースから陣馬山に登ってみることにしました。

藤野駅発の和田までのバスの本数は少ない。絶対乗り遅れることは出来ません。事前にバス停の場所をチェックし、駅に到着したら急ぎ足で改札に向かいます。

改札出たら、階段を降りたすぐ右手にバス停があり、既にバスは停車しています。(目的のバスはあれだ!)と思い、すぐさま乗り込んでセーフです。

ちなみに駅を出たら、陣馬山への方向を示す道標があり、がっつり歩きたい人はバスを使わず登山口まで行っているようです。

バスに揺られて5分ほどで陣馬登山口バス停に到着します。ここで降りる登山者もいますが、ここからだと和田バス停からより少々時間がかかり、標高が低いのでより登ることになります。

今回の登山口がある和田バス停はさらにその先、藤野駅から14分位バスに乗ったところです。徐々にバスが坂道を上がって行って、陣馬登山口バス停より和田バス停の方が標高が高いところにあるのが分かります。バスで標高をかせげるのは良いです。乗用車なら和田峠まで車で行けるそうですが、バスは和田バス停まで。バスが行き来できる道幅が、和田バス停の先は無いためとか。

和田バス停に到着すると、「ゆずの里ふじの」というお店(11時オープンらしいので登山開始時には閉まっていました。)があり、トイレもあります。

登山口までの道標はないかなとキョロキョロしましたが、探し方が悪かったのか、見つかりません。早くも道迷いの予感。ですが、今回は心強い味方がいました。

味方って、スマホのアプリ?いえ、違います。バスの車内で「どこまで行くの?」と声をかけてくれた登山が趣味の年配の方がいました。陣馬山には色んなルートから登っていて、今回は台風の被害が少なそうな和田第二尾根から登られるとのこと。ルートが同じなので、ご一緒させていただくことになったのです。私ひとりだったら、登山口を探して、しばらく和田バス停近辺をウロウロしていたことでしょう。

和田第二尾根コースの登山口は、和田バス停から和田峠方面に向かう舗装道路を徒歩5分ほど行った先。民家の間の坂道に、陣馬山登山口の表示があります。

民家の間の道なので、ここ入っていいの?という感じですが、ご一緒している方のお話しでは良いのだ、と。民家の住民に見咎められることもなく、ずんずん登山道を進んでいけました。

民家を抜けると、広葉樹の中の登山道になり、最終的には陣馬山の清水茶屋の裏手に出て、陣馬山山頂に至ります。

今まで陣馬山には、陣馬高原下バス停からしか登ったことがありません。陣馬高原下から陣馬山に行くには、①和田峠経由(舗装道路を和田峠まで登る)、②新道登山口から(ほぼ針葉樹林の中の登山道)、という2つのルートがあります。和田峠まで舗装道路を延々登るのも、新道登山口から急登を含む針葉樹の林の中を延々登るのも、正直、面白くありませんでした。

が、この和田第二尾根コースは、広葉樹の中の比較的なだらかな道で楽しいです。最初の方に急登が少しありますが、山頂に至るなだらかな階段が一番きついかなという感じです。

台風19号による影響もあまりなかったようです。登山道には新しめの土が盛られたところが数か所あり、道を補修したらしきところもありましたが、ぬかるんでいたり削られていたりするところはありませんでした。落ち葉もあまりなく、道幅は広くてとても歩きやすい。広葉樹が季節感を感じさせてくれるところも良いです。

楽しく歩いていたら、山頂に到着。今までの陣馬山登山の中で、一番楽しく登れました。苦行のような針葉樹林の中の急登を経験しないことが、こんなに楽しいことだとは!広葉樹に彩られた登山道なら、春のスタンプハイクの時も楽しく登れそうです。ひとつ問題なのは、陣馬高原下に行かないとスタンプをゲットできないことです。楽しさを取るか、スタンプを取るか・・・。

なお、ご一緒した方の今回の目的の第一は、陣馬山に登った証明写真を撮ることだったそうです。藤野で定めている15名山があり、証明写真を撮ってコンプリートすると缶バッジを貰えるのだとか。陣馬山の記念写真と言ったら白馬の像。ですが証明写真は白馬との記念写真ではダメで、藤野15名山の標柱と一緒に撮る必要があるようです。

藤野15名山の標柱って山頂のどこに?目立ちませんが、「かながわの景勝50選陣馬山」の石碑(?)の隣に、ひっそりと「藤野15名山陣馬山」の標柱が立っているのです。教わって初めて気づきましたが・・・。

陣馬山を登ったら、景信山、小仏城山を経由して高尾山まで縦走です。今回は陣馬山への良いルートを見つけたというメモでした。