ボリショイ
6月は新国立劇場のジゼル公演だけでなく、ボリショイバレエのザハロワ主演ジゼルも観ています。
ボリショイバレエはジゼル(6/4ソワレ)のほか、ザハロワ白鳥の湖(6/8ソワレ)とクリサノワ&ラントラートフのパリの炎(6/14)も。
簡単に覚え書き。
ジゼル役のザハロワ、一幕では村娘というには無理があるなーと思ったものの、二幕ではさすが。ロジキンにリフトされている場面が、浮遊感があって風になびいているよう。
一番気になったのは演技でも踊りでもなく、狂乱の場のシニヨンに結った髪のほどけ方です。
新国立劇場は過去の公演でもそうですが、ジゼルが狂乱の場で倒れこんだ際、母親が介抱しているふりをしてジゼルの髪を必死にほどき、村娘役ダンサーたちが壁になって客席からその様子を見えないようにしています。
一方、ボリショイ公演は、ジゼル自身が倒れこむ過程でにさりげなくシニヨンに手をあてて、ある程度ほどける状態にしておいているように見えました。母親役は必死にシニヨンをほどいている素振りはなく、それを隠す村娘たちの壁もありません。そして力なく立ち上がったジゼルの髪は自然にゆったりとほどけていく。
ロシア人と日本人の髪質の差なのか、結い方や整髪剤の違いなのか、単に演出の違いなのか、ボリショイバレエの方が断然自然でした。新国立劇場の方は、「早く髪をほどかなきゃ」という母親役の慌てた様子が、上階からの鑑賞ではけっこう見えていました。
それとこのジゼル公演では、公演前に安倍首相のスピーチがありました。来年は日本で「日本におけるロシア年」、ロシアで「ロシアにおける日本年」で、それに先立ち今年は日本で「ロシアの季節」を行うと。
幕の前に演台が置いてあったので、はて?と思っていたら首相とロシア副首相(金髪女性)のスピーチのためだったんですね。お二人の登場で会場がどよめきました。
白鳥の湖。ザハロワの白鳥は何度見ても良いですね。日本人ダンサーの白鳥もいいですが、ロシア人の長い腕は翼をはためかせているようで、全体のラインの美しさも相まって、幻想的な美を見せつけられました。
パリの炎。今までガラコンサートでパドドゥだけで全幕は観たことがなかったので、パドドゥのイメージから革命万歳のお祭り騒ぎなバレエなのかと思っていました。
ところが、ボリショイバレエのダンサーの質の高さやダンスの楽しさを存分に楽しめるだけでなく、人が革命に身を投じていく過程やそれぞれの人々の変節も描かれていました。
革命軍に加わった青年ジェロームが処刑された貴族の娘アデリーヌの首を抱いて悲嘆に暮れている反面、やってやったぜと湧きたつ群衆との対比が物悲しく、恐ろしい。
ラストが特に怖かった。
赤いライトの中、革命軍が思いつめたような恐ろしい表情で、前進してくる。
もっと血を!
革命を阻むものは容赦せず倒していく!
革命の熱狂が、このあと社会を混乱に混乱を重ねる状態に導くさまを暗示しているようでした。
主演のラントラートフの舞台を成功させるぞ!という気合の入り方と舞台を引っ張っていく姿勢が、観ていて印象的でした。ダンサーの成長を過去の来日公演と比べられるのも、来日公演の楽しみの一つですね。