椿姫2/2(@東京文化会館)

風邪っぴきで咳止め飲み、強烈な眠気(咳止め薬は眠くなる)のなか、行ってきました2/2ハンブルクバレエの椿姫。眠かったのであまり内容を覚えていないのですが、ちょっと記録。

主役のマルグリットはゲストのアリーナ・コジョカル。小柄なコジョカルが高級娼婦をどう演じるのか期待を持って観に行きました。対する男性側主役アルマンはアレクサンドル・トルーシュ。前回の来日公演で大活躍をしたそうですが、観に行っていないのでどのようなダンサーか分からない状態での鑑賞です。

幕があがるとマルグリットの家で様々な遺品が競売にかけられています。アルマンは紫色のドレスを手に、むせび泣きます。ドレスを手に取り、なぜアルマンが泣いているのか、ここから物語がスタートです。

紫色のドレスはかつて愛したマルグリットが好んで身に着けていた衣装。亡き人を偲んで後悔の涙を流すアルマン。あらすじが分かっているのでここでアルマンに突っ込みたくなります。君さぁ、後悔して泣くくらいならもっと思いやりを持って接していればよかったんじゃない?

ある社交場で、もの慣れない若者アルマンは、社交界の華である高級娼婦のマルグリットに一目で心を奪われます。コジョカル演じるマルグリットがあでやか。言い寄る男性を軽くかわして、恋愛遊戯を楽しむ大人の女性。トルーシュ演じるアルマンは、五体投地のように全身をマルグリットの前に投げ出し、無様でもいい、自分の思いをマルグリットに届けたい、若さほとばしる情熱をストレートにぶつけます。

コジョカルマルグリットはトルーシュアルマンのことも軽くあしらおうとしますが、ふと真剣な表情になります。一切格好をつけないで、駆け引きのないストレートさで自分を求愛した男性は今までいただろうか。揺れうごくマルグリットの心。コジョカルマルグリットは、アルマンの情熱にほだされ流されて恋人同士になったのではなく、自分の意思でアルマンを選んだ知性のある大人の女性。物語が進んでいきパトロンである公爵と相対して関係を断つときの毅然としたさまは、自立した女性の姿で格好良かったです。

一方のトルーシュアルマンはとにかくストレートに自分の思いを伝える若者。自分の思いが一番だから、相手の困惑やこの恋の終着点がどうなるか、思いが至っていません。恋に盲目になった馬鹿な若者という表現がぴったりです。幸せな時は幸せをひたすら満喫。生活力のないアルマンは、愛情を注いで生活の工面もするマルグリットの苦労は分からない。一方的に別れを告げたマルグリットを誤解し、その背後に何があるのかも分からない。

第3幕の冒頭、通りで一人休むコジョカルマルグリット。アルマンと別れ、病におかされやつれた姿はとても弱々しい。くすんだ色合いのドレスで一層老け込んで見えます。2幕と3幕の間で一体いくつ年をとったのだ?という感じ。そんな明らかに生気の乏しいマルグリットを見つけたアルマンは、別の女性(オランプ)と親し気にイチャイチャしてみせます。一方的に別れを告げられ自分の純真な気持ちを弄んだ売女に見せつけてやるんだ、とばかりに。やることがほんと、馬鹿な若者です・・・。

自分を苦しめるようなマネはしないでほしいと懇願するため、アルマンの元を訪ねる打ちひしがれた様子のマルグリット。会ってしまえば互いの感情を押し込めることはできず、ガラでもよく演じられる黒のパドドゥで狂おしく愛し合う2人。束の間、愛を交わしたものの、再度去っていったマルグリットを誤解したアルマンは、舞踏会でこの前の代金だとばかりに札束の入った封筒を渡し、マルグリットを辱めます。相変わらず馬鹿な若者。

一人、部屋で日記を書き続けるマルグリット。マルグリットの死はもう時間の問題です。幻影でマルグリットの目にマノンとデ・グルリューの姿が映し出されます。ボロボロで瀕死の状態のマノンのそばには、無償の愛を捧げるデ・グリューが片時も離れずにいます。一方、マルグリットは一人寂しく死出の旅に出ることに。本当はマルグリットもアルマンにそばにいてもらいたかったのかも。でもすべて悟ったような穏やかな瞳のコジョカルマルグリットは、恋人に悲しい思い出を残して死にゆくより、いっそ憎まれてでも恋人に悲しい思いをさせたくなかったのかもしれません。といっても、アルマンが未熟すぎて馬鹿な嫌がらせや当てつけをし続けたせいで、台無し。真相を知ったアルマンは自分の心ない仕打ちを後悔して打ちのめされることになるのですが。

バレエの椿姫とオペラの椿姫の対比が会場に掲示されていて興味深かったです。オペラの方は、最後に誤解のとけたアルマンやアルマンの父に看取られてマルグリットが亡くなっていく。一方、バレエの方は誰に看取られることもなく死んでいくマルグリット。最後に和解するオペラ版より、バレエ版の方がより残された者の後悔の念が深まります。この悔やみきれない思いが、冒頭の紫色のドレスを持って泣きくずれるアルマンの姿に繋がっていくわけですね。うまく出来ている作品です。

主役以外のダンサーでは、デ・グリュー役のリアブコの技がキレキレ。加速するピルエットが見ていて気持ちよかったです。

そして、注目していた菅井円加さんのプリュダンス。若く、元気で奔放なプリュダンスで、踊りでその性格が表現されていました。現世を目いっぱい楽しんでいるタイプの女性という役柄です。公爵と決別するためマルグリットが投げ捨てた豪華なネックレス(だったっけ?)を自分の胸元にサッとしまい込む仕草に垣間みえる品性のなさも、悪びれない。

このプリュダンスだったら、今の恋人にお金がなくなったらサッサと鞍替えするだろうなと思わせます。真実の愛に目覚め、相手を思いやるマルグリットとの違いが際立ちます。生命力を感じさせる菅井プリュダンスと病み衰えていくマルグリット。マルグリットとの対比の上でプリュダンスは重要なポジションなのでしょうね。

ハンブルクバレエ団2018来日公演の初日椿姫のカーテンコールは、ノイマイヤーも出てきて、観客のスタンディングオベーション多数。カーテンコールは何度も何度も、長く続きました。