5/6白鳥の湖(@新国立劇場)

小野さんと福岡君の白鳥の湖を観てきたので、ちょっとメモ。

GWの最終日ということで、家族連れや普段バレエは観ないらしき(聞こえてきた会話から推測)人たちが、けっこう来場してたような感じです。一方、キャンセル待ちらしき人の列がチケット売り場近くに出来てました。小野さん主演の日は、たまにキャンセル待ちの列が出来ていることがありますね。新国立劇場の日本人バレエ団員主演の日でもキャンセル待ちの列が出来るんだ、と胸が熱くなります。(といっても、そもそも公演日数が少ない。)

さて、主演の小野さん。やはり音楽性があり、音の嵌め方が極上です。リハーサルで音合わせをしているといっても、その都度人間が奏でている音楽なのですから、毎回まったく同じとは限りません。それを自身の動きをコントロールして、きっちりと合わせてきます。ちょっとしたステップも、オケの一音一音を細かくとらえます。

2幕のオデットのヴァリエーション、オケが同じフレーズを4回繰り返しオデットが4連続ピケターン×4をする部分。フレーズが繰り返されるごとにオケの音が強くなっていきますが、そのオケの音の強弱に合わせて、小野さんの踊りも強さを帯びてきます。オケの音を踊りで表現し、オケの音を全く無駄にしません。演技に関しては、福岡ジークフリードとの間に愛が見える。愛を深めていく過程で、柔らかく王子のサポートを受けるパ・ド・ドゥは淀みがなくてうっとりしてしまいます。

3幕の小野オディールですが、妖艶さや邪悪さとは無縁のオディールです。王子を騙そうという気はあるのでしょうが、小悪魔っぽいというか、いたずらが好きで人の注目を集めるのが好きな生身の人間のような人物造形です。オデットの高貴だけど儚げなで現実感が薄い存在感とはまったく違います。

もう少し言えば、小野オデットは男性に守りたいと思わせるタイプ、小野オディールは振り回されるけど自分のものにしたいと男性に思わせるタイプでしょうか。たおやかな白い花のようなオデットと、大きく真っ赤な花のようなオディール。小野オディールは笑顔がこぼれまくり。オデットの笑顔なんて、2幕では皆無でした。

ところで、相手役の福岡君。踊りは悪くはないけど絶好調というわけでもなさそうでしたが、佇まいが高貴で演技も良かったです。2幕では優しくオデットの心を解きほぐす。

3幕の冒頭は、心ここにあらず。昨夜のオデットとの出会いを反芻しているのでしょうか。といっても色ボケしているわけではありません。物思いにふけっているようでも、高貴さは失いません。

花嫁候補がひとしきり踊りを披露すると、王妃が満足げな笑みを浮かべ「選りすぐりの姫ばかりで、どの姫もこの国の妃になるには不足なし。さあ、気に入った姫を選びなさい。」とばかりに王子を促しますが、6人の美姫を前にしても王子は眉一つ動かさない。一人ひとりの姫と対面すると礼儀正しく接し、姫君たちを辱めるような強い拒絶はしないけれど、決して笑みは浮かべない。

そんなところで登場したオディール。魅力的な笑みを浮かべ、昨夜とは雰囲気が違うオデット(本当はオディール)に戸惑う王子ですが、オディールの巧みな演技で「これはオデットだ。」と脳内補正。

小野オディールの存在感、踊り、すべてが魅力的で、(これは持っていかれるわ)と思います。下手にいる王子に向かって、上手から高速ステップを踏みながら近づいていくオディールのさまは、猛禽類が獲物を狙っているように見えました。これは逃げられない・・・。

嘘の誓いをさせられたことが露見すると、福岡ジークフリードはオデットの元に行かなくては、と森を目指します。演出によっては、どうしようと母王妃に泣きつき、そして乱れた心のまま森へダッシュするものもあります。が、福岡ジークフリードは混乱しつつもオロオロしたりせず、オデットの身を案じて森に向かったように見えます。この王子の人物造形の要は、誠実さでしょうか?関係ないですが、福岡君の指に絆創膏が巻いてあったのが目に入りました。舞台の途中で怪我した?

舞踏会に招かれた客の踊りでは、やはり細田さんのルースカヤ。丈の長い衣装のすそ捌きと、回転すると意外に大きく広がるすその遠心力で、結構踊るのが大変そうだと思います。ですが、最初から盛り上がる曲や踊りではないので、その大変さが伝わりにくいかもしれません。フィニッシュに向かって回転に次ぐ回転。よく衣装が邪魔にならないものです。盛り上げて、踊りは終了。うまく纏めていて、細田さんの上手さが光ります。

4幕はオデットとジークフリードの愛の強さが伝わってきました。小野オデットの許しと福岡ジークフリードの誠実さがポイントです。

ロートバルトとの戦いが終わり、夜が明けます。小野オデットは朝日が射しても、人間の姿のままの自分の姿に驚いています。悪魔の呪いが解けた!小野オデットの顔が喜びに輝きます。終始儚げな表情だったオデットの顔が、生き生きとしていきます。傍らには愛するジークフリードがいて、明るい未来が待っていそう。と、希望を持たせたところで、幕。

愛が見えるいい舞台でした。マンネリかと思っていた白鳥の湖ですが、実はオペラ劇場では約3年ぶりの上演(こども劇場は除く)だったので、かなり楽しめました。小野・福岡組の舞台はやはり満足度が高いです。