残雪の至仏山

GW尾瀬ヶ原ハイキングの翌日は、残雪期の至仏山登山です。

去年のGW至仏山登山をした知人によると、雪がある部分とない部分があったと言います。他のツアーで出会ったガイドさんによると、「尾瀬は雪が少ないから、GW期間中の早めの時期に行った方がいいね。」とのことです。

しかし、今年は違った、雪が多かった。岩が露出しているところや山頂の半分くらいは雪に覆われていませんでしたが、ルート上は常に雪の上。鳩待峠の登山口から山頂まで、雪道以外歩いていません。例年より雪が多く、さらに4月下旬に雪が降ったとのこと。快晴の空の下、雪たっぷりの至仏山登山になりました。

最初は樹林帯を行きます。木道がまったく見えず、どこを歩いているのか分かりませんが、尾瀬ヶ原同様、雪上に踏み跡がしっかりついた道があるので迷うことはありません。

雪道は、雪がジャリッとしていて何となく歩きにくい。凍結しているところはなく、アイゼンの爪をきかせるという感じではありませんでした。新雪のキュッと足下でしまる感覚もありません。そんなところを、チェーンスパイクやスノーシューで登っていく人がいます。最初からスキー板を装着して雪道を登っていく、山スキーをするらしき人もいます。ザックにうちわ状のソリをつけている人は、下りでソリを楽しむのでしょうか。

登って行くと、樹林帯の中に谷が出てきます。雪が積もった谷は、ハーフパイプのコースのようになっていて、スノーボードをする人もいるらしいです。谷の近辺を通過した時は誰も滑っていませんでしたが、谷にはスノボで滑ったらしき跡がいくつもついていました。スノボを担いで雪道を登っている人たちもいましたが、その人たちは谷には目もくれず、ずんずんと山頂目指して歩いていきます。山頂付近から滑降するのが目的のようです。

樹林帯を抜けると、視界が開けてきます。目の保護のためサングラスをしていますが、肉眼で周りの景色を見てみたい。一瞬サングラスをはずすと、視界が青い!まぶしい!真夏の快晴時の高山なんて比較にならない程、太陽光線が強いです。雪の紫外線の反射は強いと言いますが、目がどうかしてしまったのでないかと疑うくらい、周りの景色が青いです。これはまずいと、そそくさと日焼け止めを塗り、唇にもUV対策効果のあるリップクリームを塗ります。暑いのでこの日も前日同様、トップスはジップシャツ1枚でアウターは着ませんでしたが、まったく寒くありません。

至仏山に至ると、ここは山頂は巻いて、トラバースの雪道を進んでいきます。前日、尾瀬ヶ原に行く途中で、人の姿がアリのような大きさで点々と見えた、あのトラバース道です。

前日に下から見ていた時は分かりませんでしたが、このトラバース道は道幅が狭い。人ひとり分の幅しかありません。片側は雪に覆われた山の斜面で、もう片側は雪に覆われた結構な傾斜の谷になっています。落ちたらひとたまりもありません。落ちると命の危険がありますが、このトラバース道で雪崩が起きてもまず命はないでしょう。

ここは道幅が狭いので、谷側にはストックをつかないこと、ストック2本を束ねて両手で持ち、2本とも山側の斜面に突き刺すようにして歩いていくこと、というのがガイドの方のアドバイスです。ザクッ、ザクッと山側の斜面にストックを突き刺しながら歩いていきますが、谷側を見ると怖いので絶対谷側を見ないようにして歩いていきます。そういえば、登山口から小至仏山までの間でグリーンシーズンは湿原が見られるのですが、湿原はまったく見えなかったなとぼんやり考えてしまいますが、ここを渡り切るのに集中しなくては、と余計な考えは頭の中から排除です。

一般的には残雪期の小至仏山は巻いてトラバースするようですが、中には小至仏山を目指して直進して登っていく人もいます。登っているのは体力のありそうな20~30歳代ぐらいの男性のようです。

残雪期至仏山登山の最大の難所(だと個人的に思う)、小至仏山のトラバース道を抜けたら、後は至仏山の山頂を目指すだけです。前方には至仏山の頂が見え、谷側の傾斜は緩やかになってきて安心感が出てきます。グリーンシーズンは滑り易い蛇紋岩が続く山頂までの道も、今は蛇紋岩は雪の下。蛇紋岩で滑ることはありません。ということで、トラバース道を抜けたら、比較的あっさりと山頂に到達することができます。

山頂に到着すると、人が沢山。時刻は朝の9:30頃ですが、賑わっています。ツアーで来ている我々を含めて、50人は超えていたのではないでしょうか。鳩待峠登山口からだけでなく、山の鼻の方から登ってきた人もいるようです。皆、楽しそうな表情です。

天気の良いこの日の山頂からは、360°の素晴らしい眺めが広がり、眼下に尾瀬ヶ原、その向こうに燧ヶ岳、目を転じれば日光白根山、さらに目を転じれば谷川岳が見えます。湿原を蛇がのたうつように流れる川が見え、前日歩いたときは分かりませんでしたが、思っていたより池塘の雪解けが進んでいます。

山頂にいたのは20分ほど。山頂からは、次々と登ってくる登山者の姿が見えます。名残惜しいですが、渋滞を見越して、多人数である我々ツアー一行は早々に下山しなければ。

下山を開始したツアー一行の脇を、山頂でスノーボードを装着していた男性がスーッと通り過ぎて行きます。さすがスピードがあって、あっという間に姿が見えなくなりました。登山者の踏み跡が無い急な斜面を下りていくスノーボード。こんな斜面、自分だったら怖くてとてもじゃないけれど降りていけません。

さて、登りで怖かった小至仏山のトラバース。ひと一人分の道幅しかないのは変わりませんが、登りの時より怖さは減少しています。しかし、そんなトラバース道をこれから登ってくる人が続々。登りの人に道を譲るのが登山のマナーなので、もちろんここでも道を譲ります。

雪で覆われた山側の斜面を登ってトラバース道を空けますが、待機している場所が斜面で雪上。雪がズルっと滑って落ちたらどうしようと気が気じゃありません。お願い、早く行ってくださいと心の中で思いますが、本当に天気の良いこの日は、待ってましたとばかりに登ってくる人が多い。何人か通してトラバース道に戻ると、新たな登山者が登ってきてまた道を空けるを繰り返し、通し終えてトラバース道に戻ろうとすると、早いペースで歩いてくる追い越しの人とぶつかりそうになったり。結局、往きも帰りも緊張したトラバース道でした。悪天候のときはここのトラバース道は通れるものじゃなくなるそうなので、それに比べたら全然ましなのでしょうが・・・。

このトラバース道を抜ければ、後は安心して鳩待峠の登山口まで下っていけます。気分が楽になり、周りを見る余裕も出てきます。樹林帯の中をスキーで下っていく人を見かけましたが、うまいこと木を避けるものです。

無事に登山口に到着。所要時間は休憩込みで往復5時間ちょっとぐらいだったでしょうか。

天候に恵まれた2日間の残雪期の尾瀬ヶ原ハイキングと至仏山登山は、これで終わりです。それにしても、至仏山山頂からの眺めは最高でした。残雪期の至仏山が良かったと教えてくれた知人たちの言葉に、嘘はありませんでした。まぁ、それも天気が良かったから言えることですけれど。