ジゼル

今日から日記始めます。

といっても毎日は書かないだろうな。気ままに続けていきます。

 

初めの日記は今日のことではないのですが、先週観たバレエの感想です。

観たのは6/24(土)13時開演「ジゼル」(@新国立劇場)。

主演のジゼルは新国立劇場バレエ団プリンシパルの米沢唯さん、

相手役のアルベルトは井澤駿君(ファーストソリスト)です。

ジゼルのストーリーはざっくりいうと、身体の弱い村娘ジゼルが、村人のふりをした貴族の男性と恋をし、恋人の身分と婚約者の存在を知りショックで亡くなる。死後ウィリという妖精になって、ジゼルの墓参りに来た恋人を死ぬまで踊らせようとする仲間のウィリ達から一晩中守り抜き、朝日とともに消えていく、という男性に都合のいい内容になっています。

米沢さんのジゼルは、軽やかでピュアな感じの村娘。テクニックに定評のあるダンサーなので、踊りを観ていてヒヤヒヤするところがなく、物語の世界に集中することができました。(これがテクニックに心配のあるダンサーだと、踊りが失敗しないか気になって応援モードになり、物語の世界に入るどころじゃなくなります。)心臓が弱くて思いっきり踊ることはできないけど踊ることが大好き、そして恋人のアルベルトのことも大好きということが伝わってきます。

一方、井澤君のアルベルトはジゼルのことを好きなことは好きなんだけど、真剣な恋ではないような?一緒にいるときは優しいけど、その時だけ。プレイボーイという役作りをしていたようにみえました。

そう感じたのは次の二点が気になったからです。

一点目は、ジゼルに思いを寄せる森番のハンスに身分をばらされ、アルベルトがジゼルに釈明する場面の演技が、なんか軽くて真剣さがない・・・。動揺を笑顔で隠し、「あんな男の言うことを信じちゃいけないよ~。」と、純真なジゼルを丸め込んでいるような感じで、真剣な恋の相手に誠実に向き合っているようには見えない。

二点目はジゼルの狂乱の場でのジゼルとの向き合い方です。身体が弱く周囲の村人からも大切に扱われて、おそらく酷い目にあわされたことがない故に、他人を責めることもなくピュアに育っただろうと感じさせる米沢ジゼル。それゆえ裏切りに対してアルベルトを責めるのではなく、自分の精神を壊してつらい現実に対処したのだと思わせるジゼルでした。そんな精神を壊したジゼルに向き合ったアルベルトは、尋常でない目つきで自分を認識しないジゼルを、奇異なものを見たとショックを受けたような表情で、愛している女性に向ける目ではなかったし、心配しているようにも見えませんでした。

狂乱のはて、ジゼルが亡くなり、母親をはじめとして村人が悲しむ中、アルベルトは動揺して悲しみの感情も出さないまま、一幕終了。

日本人が演じるアルベルトは大体ジゼルに純愛を捧げていて、真剣に愛していたという役作りをすることが多いのですが、井澤アルベルトはそう見えませんでした。でも純愛を演じたつもりだったのかなあ??

二幕は月夜に森の中のジゼルの墓参に向かうアルベルトが登場します。ジゼルの死を悼むためユリの花束を抱え、ユリの花束をジゼルに見立てて頬を寄せる仕草があったのですが、この頬を寄せかたが本当に愛しい女を想っているようで、一幕と様子が違うぞ。

「君はそんなにジゼルを好きだったっけ?」とツッコミを入れたくなります。

初めは遊びで始まったけど、自分の軽はずみな行動がとんでもない結果を招いてしまったという後悔の日々の中で、自分の中でジゼルの存在が次第に大きくなっていき、愛しさがこんこんと湧いてきてジゼルに対する思いが一杯になったのだろうか??

井澤アルベルトの演技はともかく、ウィリ達に仲間入りすべく召喚された二幕の米沢ジゼル登場シーンは、つむじ風が起きそうな回転、空を切るジャンプで、生前こんな風に身体の心配をすることなく踊りたかったというジゼルの思いが伝わってくるようでした。

その後ジゼルとアルベルトが邂逅し、パドドゥの米沢ジゼルはふわーっと風に乗っているよう。ジゼルはアルベルトを一切恨んでおらず、自分のことを想ってくれるアルベルトへの恋心も決して強い調子ではなくふわーっと漂います。

ジゼルとアルベルトが二人だけの密な時を過ごしている一方で、森番ハンスは深夜の森でウィリ達に捕まります。死ぬまで踊り続けさせられて、挙句の果てにウィリ達に沼に突き落とされるのですが、ハンス役の中家君が、踊りの中で苦しさを表すのが上手く、踊りもつま先までキレイでした。このハンスを沼に突き落とした後の、ウィリ達の退場シーンの足取りが軽やかで晴れ晴れとしていて「女の敵をやっつけてやったわ」とでも言っているかのようで、この作品を見ると毎回このシーンが怖くなります・・・。

ウィリ達に見つかったアルベルトもハンス同様、死ぬまで踊り続けるようウィリのリーダー、ミルタに強制されますが、そこへアルベルトの命乞いをするジゼルが登場。ミルタ率いるウィリ達が納得するよう二人で踊り続けるのですが、井澤アルベルトのアントルシャ、最後まで元気すぎたような。そして連続ブリゼの終わりの方でやっと苦しそうな演技になり、個人的な好みではもう少し踊りの中で演技が見られるといいと思いました。

なんだかんだ言ってますが、終わったら今日もいい舞台を見たなと満足しました。

主役だけでなく、ペザントの奥村君ははつらつとして、観ている方が楽しくなる踊りだったし、24人のウィリ達がアラベスクをしたまま交差して移動する場面(なんて言うんだろう?)は震えるほど美しかったし、いつの間にか背景の月夜が朝ぼらけに変わっていたのにもハッとしたし、東京フィルハーモニーの演奏も素晴らしかったです。バレエ公演の演奏で、金管の音が不安定になるのが東フィルの通常運転だと思っていましたが、今回はそんなことなく、物語を盛り上げてくれていました。ペザントパドドゥの出だしの音が変な感じがしたのは気のせいかもしれません。静かな場面で声のようなものが聞こえてきたのは、指揮者のバクランさんのオケへの指示の声だったのかな。