イングリッシュ・ナショナル・バレエ「海賊」

7/14のイングリッシュ・ナショナル・バレエの「海賊」公演(@東京文化会館)を観てきました。

バレエ団の芸術監督とダンサーを兼務しているタマラ・ロホが、どんな踊りを魅せてくれるのか、そして衣装が素晴らしいと聞いたので確認してみたくて。

「海賊」のあらすじ。海賊の首領(コンラッド)が、奴隷商人(ランケデム)からパシャへ売られてしまった恋人(メドーラ)を頑張って取り戻す。二人の蜜月もつかの間、手下の裏切りでメドーラがパシャの元に戻され、またまた頑張って取り戻し、晴れ晴れとした気持ちで航海に向かう。大海原に向かったものの、難破して、辛くもコンラッドとメドーラの二人が無人島らしきものに漂着して終わりという、終わり方としてはどうなんだというバレエです。ストーリーを楽しむというより、踊りを楽しむバレエですね。

三連休前日の平日夜公演だからか、1階席はほぼ満員でしたが上の階は空席が多かったですね。

が、そんな客席の寂しさをものともせず、ダンサーが熱演してくれて良い公演でした。

まず衣装。安っぽさが微塵もない衣装でした。スタイルが良くてしっかりしたテクニックを持つダンサー揃いで、ボブ・リングウッドが手掛けた衣装がはえること!女性陣の衣装がキラキラとして綺麗でしたが、パシャの衣装が特に豪華でした。男性ダンサーの衣装も色合いがきれい。

主要ダンサーの踊りも素晴らしかったです。

奴隷商人ランケデムはブルックリン・マック。何年も前にNBAバレエ団のガラ公演で観た時はテクニックはすごいけれど、力任せに踊っている部分があるかなと思ったものでした。が、昨日はテクニックと端正さが融合した、変に力の入っていない余裕のある踊りでした。イングリッシュ・ナショナル・バレエに所属しているのではなく、今回は客演なんですね。

コンラッドはリード・プリンシパルのイサック・エルナンデス。スタイルが良く、安定したテクニックのあるダンサーでした。ロホとの息もピッタリ。

メドーラのロホ。回転系のテクニックが相変わらず素晴らしかったです。芸術監督との兼任、しかも年齢も年齢なのでどの程度踊れるのかと怖いもの見たさでしたが、しっかり不安を払拭してくれました。余裕を持って軽々と回転し続け、しかもテクニックを誇示しすぎない。ロホはクレバーなダンサーで、ガラでは観客を楽しませるようにテクニックの限りを存分に見せてくれるのですが、全幕公演では全体の流れやバランスを考慮して「どうよ!」と言わんばかりのテクニックの見せ方はしません。そして表現力もあるダンサーです。甲の高い足先が誘うように表現力に富んでいて、魅了されました。

が、回転系では余裕を見せていたロホですが、ジャンプが重かったような気がします。ロホがジャンプが得意という認識は元々ありませんでしたが、やっぱり14日の公演では重かったかな。ジャンプのような瞬発力を要するものは、加齢による衰えが早めにくると言いますが、そのせいなのか?梅雨なのにやたらと暑い東京の気候と芸術監督との兼任で、疲れがたまっていたのか?

そしてコンラッドの忠実な部下、アリを演じたのはファースト・ソリストのセザール・コラレス。昨日の公演はすべて彼に持っていかれました。

ピルエットの回転が驚くほど速く、いつまでも回っています。ピルエットをコントロールして減速していき、止まるまでまったく軸がぶれませんでした。ジャンプは大きく高く、このジャンプで終わりだよね、というところで、さらに余裕をもってジャンプを追加してきます。

コラレスの踊りに客席は大盛り上がり。彼の踊りで会場の温度が上がりました。コラレスが盛り上げた舞台を受けて、ロホもダブル・トリプル回転のフェッテを披露し、会場の温度をさらに上げます。コラレス、ロホ、エルナンデスのパ・ド・トロワは観客に大満足感を与えて終わりました。

ググってみるとコラレスは2013年のローザンヌコンクールで入賞した、まだ若いダンサーなんですね。パリ公演でも大喝采を浴びたダンサーだとか。来年8月に行われる世界バレエフェスティバルにロホと一緒に呼ばれるんじゃないかと期待してます。

そしてカーテンコールでもコラレスが一番大きな拍手を貰っていました。満席とは言えない会場でこんなに大きな拍手がなるのか、と驚くほどの拍手の大きさでした。

何回ものカーテンコールがあり、ふと気づくとダンサーの列の中に、ロホの姿が見えません。あれ、と思っていると、舞台の袖から黒いロングドレスを身に着けたロホが、通訳さんを連れて登場。マイクを持ち、何か観客に伝えたいことがあるようです。

バレエ団にとって大切な演目である「海賊」で、今日、あるダンサーを顕彰したい、と。

これはまさか・・・と思っていたら、「セザール・コラレスプリンシパルに任命します。」と発表がありました。次の瞬間、会場から割れんばかりの拍手が!バレエ団の同僚ダンサーからの温かな祝福と、観客の熱狂的な拍手に包まれ、コラレスは呆然としていたようでした。隣にいたブルックリン・マックが祝福のハグをし、喜びに言葉もないコラレス。感動的な場面に立ちあえて、一観客の私も嬉しかったです。公演前は何の前触れもなかったので、ロホはどの時点でコラレスプリンシパルに任命しようと決意したんでしょうね。

その他のダンサーも簡単に。ギュルナーラ役のローレッタ・サマースケールズは美しい容姿で、甲が特に美しく、回転系が得意のようでした。パシャ役のマイケル・コールマンは、女好きだけど憎めないキャラクターで、彼の演技に会場から笑いが起きました。オダリスクの一人、金原里奈さんは可愛らしい個性のダンサーでした。15日はギュルナーラにキャスティングされていて、期待の若手ダンサーなのですね。

かなり前にイングリッシュ・ナショナル・バレエの来日公演(確か「白鳥の湖」)を観たことがありますが、可もなく不可もなくという感じで当時の公演はあまり印象に残っていません。今回の来日公演でゲストも含め、良いダンサーに恵まれた勢いのあるカンパニーだと印象が変わりました。ロホの芸術監督としての手腕が高いのでしょうね。