2/9ホフマン物語(@新国立劇場)

2/9新国立劇場ホフマン物語を観てきました。ということで、記録。

オペラ劇場の幕があがると、さらに緞帳(?)があり、そこには男性の横顔と英文が書かれています。相変わらず咳止め薬を飲んでいるので眠たい眼で英文を見ると、韻を踏んでいるので韻文だと分かります。内容は分かりませんでしたが、SHELLEYとあります。帰宅後、ググってみるとパーシー・シェリーという詩人の「愛の哲学」という詩だということが分かりました。ホフマンの心情を表した詩なんですね。 

詩よりも気になってしかたがなかったのが、詩の横に描かれた男性の横顔です。手塚治虫風の絵のように見えてしかたありませんでした。ブラックジャックベートーヴェンを足して2で割ったように見えます。幕が代わるたびにオペラカーテンが開くとこの緞帳が下がっているのですが、見るたびに「やっぱり手塚風に見える。」と思ってしまいます。スコティッシュバレエの舞台装置でもこういう絵柄なんでしょうか?

プロローグは活気のある街で若者が楽しそうにしている中に、ナイスミドルとは言い難い野暮ったい初老の男性、ホフマンがいます。「どうして華のあるラ・ステラがこんなパットしない男と・・・」と不思議になります。

ホフマンの友人役3人は溌溂と明るく、観ていて気持ちのいい踊り。なかでも普通の明るい庶民の若者役をやらせると、奥村君はピカイチだと思います。それにしても、ホフマンとホフマンの友人3人の見た目年齢が違いすぎるのですが。年の離れた友人ということ?

ホフマン物語では悪魔が重要なキーパーソンです。ことあるごとにホフマンを付け狙い、その恋心を弄んでコケにしてきた存在。新国立劇場初演時は、マイレンさんが怪演してうまくはまっていた役柄です。初日の悪魔役は12月のシンデレラで王子役だった中家君。12月のダンスールノーブル役から、今回はかなり濃いキャラクターへ転身です。

プロローグ・エピローグではオペラ歌手ラ・ステラに気がある(ふり)をしているリンドルフ議員に扮しています。議員らしく、そこら辺の庶民とは違う端正なたたずまいですが、胡散臭さが漂っていました。

一幕では、プロローグの議員ルックとは違い、マッドサイエンティスト風の奇抜な恰好です。黄色いタイツに、変な振付。天才と何とかは紙一重的なキャラです。端正さを振り切ったアホっぽい振付を楽しそうに踊っていて、シンデレラでのダンスールノーブルの面影はなし。

悪魔に翻弄されるホフマンは、観ていて可哀そう。スパランザーニにもらった変なメガネをかけて、人形のオリンピアを生身の人間だと思って恋をする。周りの人にはカチカチカチとした機械仕掛けの人形に見えているのに、メガネをかけたホフマンには分からない。ホフマンをうまく騙せて、スパランザーニ(悪魔)は大喜び。ついでにホフマンに真実を知らせて、驚愕する姿を見てまた大喜び。

オリンピアの池田さんは、この部分ではホフマンから見えてる生身の人間風に、ここの部分では周りの人から見えている人形風にと、踊り方をシーンによって変えているように見えました。

 

二幕の悪魔は、バレリーナを夢見る病弱な少女アントニアをみる医者ドクター・ミラクル。一幕とはうってかわり、重々しい態度で信頼感を漂わせているけれど、やはり胡散臭さも。

一方ホフマンは、アントニアの父の元で音楽を勉強している身です。ホフマンがピアノを弾いていると、小野アントニアが近寄ってきて、二人は良い雰囲気。二人のこぼれる笑みが幸せそうです。

ドクター・ミラクルの催眠術でアントニアはバレリーナになった気になり、幻想の世界でホフマンと踊ります。

この幻想の世界が美しい。舞台上部から吊られた薄い布地のドレープが柔らかで、ライトの色で色調が変わり、オーロラのようです。コールドの踊りが幻想的な空間の中で、クラシックバレエの美しさを彩ります。

アントニア役の小野さんは音楽をたっぷり使い、つま先、指先をどこまでも伸びるかのように、音の余韻まで表現します。時には柔らかく、また時には強く踊ります。幻想の中のホフマンは、恋が成就している人間の幸福感、喜びが踊りに結びつき、若々しく健康な感じ。

幸福な時間もつかの間、幻想の世界から現実の世界に戻ります。アントニアが苦し気な様子になっても、スパランザーニに強要されて、ホフマンはピアノを弾く手をやめることがきません。「もっと、もっと弾くんだ!」と迫るスパランザーニの魔力でホフマンが操られているよう。催眠をかけられているアントニアも踊りの足を止めることができません。

そして限界を突破したアントニアはこと切れてしまいます。目的を達成した悪魔はいつの間にか姿を消して、残ったのはアントニアの亡骸と呆然としたホフマン。2人の姿を目にしたアントニアの父はホフマンをなじります。悪魔にいいようにやられて、ホフマンは散々な目にあい続けています。

三幕は、「シェエラザード」のような、トルコ風の薄暗く怪しい空間。今度はダーパテュートという役柄になった悪魔のサロンです。

ダーパテュートはトルコ風の衣装に、変な髪形。怪しさと邪悪さ、ホフマンを堕落させてやるという意思が漂っています。

そのサロンに、十字架を首から下げたホフマンが訪れます。観てると、信仰生活に入ろうとした男が、なぜあんな所に足を踏み入れるんだという突っ込みをしたくなります。そんなことを言ったら、話は進みませんが。

ここで悪魔の命を受けた高級娼婦ジュリエッタが、ホフマンを堕落させようと誘惑します。ジュリエッタ役は米沢さん。あの手この手で男性を翻弄し、陥落させようとするジュリエッタは、役作りとしては「白鳥の湖」のオディールに似ています。ですが、ジュリエッタはもっと官能的。蛇のような目で、ホフマンを狙います。

煽情的な赤い色の丈の長い衣装。衣装のスカート部分の合わせからのぞく脛や腿が色っぽい。ホフマンと踊るときの、アラセゴンドに上げた脚から徐々に衣装がめくれて脛が見えたときは、ドキッとするほど色気がありました。普段のクラシック・チュチュでは腿も脛も丸見えなわけですが、特に色気は感じません。男性陣が大好き(?)なチラリズムの色気が、今回のジュリエッタで分かった気がしました。

こんな色気のある女性に迫られて、ホフマンは陥落するわけです。が、わずかに残った正気で十字を作り、悪魔とその一味を退けます。ホフマンが悪魔に初めて打ち勝ちました。

エピローグになり、 プロローグの続き。ここでも、またホフマンは悪魔にしてやられます。恋人のラ・ステラは悪魔の仮の姿であるリンドルフ議員と去って行ってしまう。そして、ホフマンが絶望したような、諦めたような姿で一人舞台に残って、終幕です。可哀そうな人です・・・。

ホフマン物語は終わり方が暗いのであまり好きな作品ではありませんが、主要な役の小野さん、米沢さんを一度に観られるのは嬉しい。そして、手を変え品を変え、様々な衣装と髪形の悪魔を観られるのも楽しい。マイレンさんの悪魔ははまり役でしたが、中家君の悪魔も良かったですね。