2/10ニジンスキー(@東京文化会館)

2/10ハンブルクバレエ団の「ニジンスキー」を観ました。いつもの癖で、事前にあらすじを読まずに行ったので、1幕はまだしも、2幕は(何の場面だ?)という感じで詳細が良く分からなかったです。

1幕は自然に始まります。舞台と客席を仕切る幕は無く、最初から1幕冒頭のセットが客席から見えます。セットがきれいで素敵。舞台上に1台のグランドピアノが置いてあります。ピアニストの男性が本番前の練習のようにピアノを弾き始めたところから、バレエ「ニジンスキー」の始まりです。

1幕はニジンスキーの華やかな前半生。ハンブルクバレエ団ダンサーたちが次々と繰り出すダンスの洪水が、圧倒的で見ごたえあり。そんなダンスの合間、ニジンスキーとディアギレフの関係性、ニジンスキーとロモラの恋愛が語られていきます。

薔薇の精ではディアギレフと悩まし気に踊り、黄金の奴隷登場シーンではディアギレフに抱きかかえられての登場。二人の関係性が、単なるバレエ団の創設者と所属ダンサーの関係ではないことが暗示されています。黄金の奴隷はその魅力でハーレムの女性を虜にする存在ですが、ディアギレフに抱きかかえられ、ディアギレフの首に腕をまわして身を委ねているさまは、黄金の奴隷自身がディアギレフに魅せられているよう。ディアギレフ役のイヴァン・ウルバンがスタイルのいいイケメンダンサーだから、絵になります。

ロモラと出会った場面で出てくるのは、「牧神の午後」の牧神。「牧神の午後」では牧神はニンフに興味を持ち近づいていくわけですが、ここで牧神が出てくるということは、ニジンスキーがロモラを女性として興味を持ったということ。

2人の関係を知ったディアギレフは激怒。舞台奥の壁がバンという音がして倒れます。ディアギレフが壁の後ろを歩きながら、大きな音を出して壁を一枚づつ倒していく。おびえるニジンスキー

ディアギレフとの関係を修復しようと、ディアギレフに抱きつくニジンスキーですが、ディアギレフの態度はそっけない。からみついているニジンスキーを投げ捨てます。プライドの高いディアギレフには、裏切ったニジンスキーは決して許すことができないということか。

2幕はニジンスキーが精神の均衡を崩してからの後半生。暗い色調の2幕は、ニジンスキーの暗闇の中の精神世界を観ているようでつらい。音楽も血の日曜日を題材にしたというショスタコーヴィチの「1905年」が流れ、得体のしれない暴力が蔓延しているような不穏な感じです。

軍服の上着をまとって踊る人々の群れの中に、心を持ってしまった人形ペトルーシュカが加わって一緒に踊っていました。これは何のメタファーなのでしょうか?不格好な動きでたどたどしく踊る姿は、抗えない時代の波に否応もなく巻き込まれていく人間の象徴?

精神病のニジンスキーの傍らに寄り添い、最後まで付き添っているのはロモラ。重そうにニジンスキーが乗る橇を引いてますが、決してニジンスキーを見捨てることはありません。それでもニジンスキーは正気の世界に戻ってきません。

物語の最後は、床に敷かれた赤い長い布と黒い長い布で十字が作られています。その赤い長い布を自ら身体に巻き付け、黒い長い布も身体に巻き付けながらニジンスキーは踊ります。布が巻き付くほどに身体の自由は失われ、それでもさらに布を巻き付けます。ニジンスキーの目には狂気が宿っています。何の踊りなのか分かりませんが、自分で自分を戒めているよう。

なりきりタイプのダンサー、アレクサンドル・リアブコ演じるニジンスキーは、実は2幕が見どころなのかもしれません。その憑依ぶりに観ていて息苦しくなってきますが。

舞台が終わって、カーテンコールのリアブコはすべてを舞台で出し切ったような、放心したような、まだ現実の世界に戻り切っていないような感じです。客席のハンブルクバレエ団ファンは熱い声援と拍手でリアブコの熱演を称えます。実は上方の階は結構、空きがありました(椿姫の初日は「大入り」の掲示がありましたが、この日はさすがになし)が、客席は熱い。ノイマイヤーも加わった何度も続くカーテンコールで、最終的に1階席の観客は9割がた、スタンディングオベーションでバレエ団を迎えていました。