5/4白鳥の湖(@新国立劇場)

木村・渡邊組の白鳥の湖を観てきました。

こどものためのバレエ劇場の白鳥の湖では共演している二人。こどものためのバレエ劇場を観劇するのはなんとなく気が引けるので、二人の白鳥の湖は今回が初見です。

今回は上の方の階からの観劇なので、オペラグラスが必須。1幕、ジークフリード王子役の渡邊君が登場すると、さっそくオペラグラスの出番です。周りの席の人も同様、オペラグラスを使いだします。

渡邊君は長身スレンダーでスタイルが良く、大きなジャンプが軽い。1幕最後に一人舞台に残り、物思いにふけりながら踊る姿も様になります。この場面で踊るシェネがどんどん加速していき、それがジークフリードの心の内のモヤモヤしたものが高まっていく様子を表現しているように見えました。

1幕のパ・ド・トロワは池田さん、柴山さん、木下君。熱烈なファンがついているらしい池田さんですが、池田さんの踊りの印象は、「威勢がいい。」そういう個性のダンサーなのか、元気に踊るよう指導されているのか分かりませんが、なんだか威勢がよく見えます。あっけらかんとした明るい性格の人なのかも。柴山さんはしっかりと、木下君は嫌みのないきれいな踊りでした。道化は小野寺君。超絶技巧を見せる感じではありませんでしたが、悪くない道化役でした。

どうでもいいことですが、以前は1幕の舞台の端で小芝居をしているダンサーがいたものでしたが、今回はいたかな?オペラグラスで物語の中心ばかり追っていたので気づかなかっただけかもしれません。が、けっこう小芝居を観るのが好きなので、舞台中央にいなくても自分なりの世界の演技をしているダンサーがいると面白いのです。

そして踊りや演技はさておき、何となく違和感を感じるのが舞台の遠景に見える景色です。山の上から斜面に沿って川が流れている絵なのですが、実際の山の景色だったら上流の急な斜面は侵食して崩壊しているはず。舞台装置の絵のように、山の上からのどかに太い流れが湖面に流れ込んでいく様子が見えることはないのではないか、と気になってしまいます。あの遠景は、何処かを参考にして描いた景色なのですかね?

2幕。ジークフリードの登場に続いて、オデット役の木村さんが登場します。木村さんは手足が長くて(ついでに小顔)、スタイルが美しい。腕の長いダンサーが白鳥役を演じると映えますね。

欧米出身のダンサーは小柄でも手足が長いのですが、一般的な日本人ダンサーだと、同じ位の身長の欧米人ダンサーより腕が短い傾向にあります。白鳥の羽がはばたくような腕の振りをすると、やはり日本人ダンサーにもう少し腕の長さがあるといいのに、と思ってしまうのです。そんなわけで、木村オデットはその長い腕で、白鳥の羽の美しさを雄弁に語ってくれました。(オデットは白鳥から人間に変身するところをジークフリードに見られるわけで、変身後はずっと人間の姿のはず。ですが、白鳥のように羽根をはばたかせる振りが2幕の間中、終始取り入れられているのは謎です。)

一目で心を奪われ、オデットに求愛する渡邊ジークフリード。一方の木村オデットは、優しくみつめるジークフリードの瞳を覗き込みながら、「この人なら信じられるかも。いえ・・・、やはりダメ。」と心が揺れ動いてなかなか打ち解けません。自分の愛を受け入れてくれないのかとジークフリードが諦めかけると、今度はオデットが関心を引こうとします。徐々に二人が打ち解けあい、オデットが「この人を信じよう」という心境に至ります。

バレエにセリフはありませんが、木村オデットの所作や踊りがセリフを語っていました。役柄上、笑顔をみせず、ちょっと怖い顔に見えた木村オデットですが(木村さんは、ニコニコしていないと怒っているのかと周りに思われてしまうタイプの美人顔)、オデットの心情を丁寧に演じていたと思います。また、ピタッと止まってアラベスクをキープするラインが、自然で美しかったです。こういったアラベスクのキープも、オデットが他人に頼らず毅然と生きていく性格を表しているのでしょうか。

3幕、宮殿での花嫁選び。今度は黒鳥、木村オディールがロートバルトに伴われて登場です。オディールの方がオデットを演じたときより生き生きしているように見えます。若いダンサーには踊りの難易度は別にして、オデットよりオディールの方が演じやすいとインタビューか何かで読んだことがあります。そりゃはかなげな美人より、目的のはっきりした登場人物の方が演じやすいでしょう。オディールの役目はジークフリートを自分の虜にして、ジークフリードの誓いを無にすること。オデットよりは輪郭のはっきりした掴みやすい役柄です。踊りも開放的で派手目。

意味のあるような流し目をしてジークフリードを惑わし、オデットのような素振りで渡邊ジークフリードの疑いをはらそうとします。そして、自分に魅了されるよう魅力を振りまく。木村オディールの踊りに破綻はありません。渡邊ジークフリードはジャンプはいいのですが、連続ピルエット(正式名称分かりません)が少し不安定でした。3回転(か、4回転。ちゃんと数えていなかったので、回転数は不明)ぐらいまでは安定しているのですが、それ以上になると軸がぶれてしまう。どこか身体を故障しているのか、身体が柔らかくてピルエットの軸を保ちにくいのか、あごが上がっていて回転するたびに顔がぶれるせいなのか、理由は良く分かりません。他の動きが良かっただけに、もったいなかったです。(訂正:他日キャストと比較して、渡邊君のピルエットは回転数が多かったような気がします。軸や顔のぶれがどうのというより、テクニックの見せ所として回転数を多くし限界に挑戦した結果、限界を突破したところで軸が傾いてしまったという感じです。テクニック不足とかの問題ではありません。)

見事、オディールが騙しおおせて、王子は陥落。木村オディールは王子を嘲笑し、もらった花束を投げ散らかしてロートバルトと退場です。

4幕。オデット以外の白鳥たち静かに過ごしている湖畔。そこへ悲しみにくれた木村オデットが登場です。生気が乏しく、アラベスクをする姿も弱々しい。

白鳥たちがオデットを慰めているところへ、王子が登場して二人は和解へ。

そこへロートバルトが二人の仲を引き裂こうと現れます。オデットは完全にジークフリード王子に身を委ねています。2幕ではあんなによそよそしかったのに、このオデットの変わりよう。最後の戦いに向けて、これで奮い立たなくては男じゃないぞ、ジークフリード

と、勇ましい気持ちになりますが、戦隊もののような派手なバトルはありません。二人の真実の愛攻撃(←勝手にそう呼んでいる)でロートバルトが自滅するという展開です。「やめろー、純粋できれいなものをオレに見せるなー。」とロートバルトがもがき苦しみ、湖に追い込まれて深みにはまり、消滅します。悪魔の終わりはあっけない・・・。

アンハッピーエンドではなく、ハッピーエンドで舞台は終わります。ハッピーエンドはやはり観ていて気持ちいいです。白鳥の湖はもともとアンハッピーエンドだった物語をハッピーエンドに変えた経緯から、曲調もアンハッピーエンド用に出来ているといわれますが、そういうのは解釈次第ではないでしょうか。どんな暗闇の中にいると思っていても、明けない夜はない、という感じでハッピーエンドのエンディングでもフィットしていると思うのですが。

期待の若手、木村さんと渡邊君は立派な主演を務めあげました。木村さんは、小野さん・米沢さんに続いて新国立劇場の看板になる(はずの)ダンサーですが、舞台度胸も充分。本当に将来が楽しみなダンサーです。客席は満席ではありませんでしたが、カーテンコールが何度もあり、観客も盛り上がっていた5/4の白鳥の湖でした。