世界バレエフェスティバルBプロ(8/9@東京文化会館)②

今更の感もありますが、バレエフェスBプロ①の続き。

メリッサ・ハミルトンとロベルト・ボッレの「ロミオとジュリエットより第1幕のパ・ド・ドゥ」。バルコニーのパ・ド・ドゥ。バルコニー上のジュリエットの視線と、客席に背を向けて立つロミオの視線が強く絡み合っているのが分かる。ただ2人が視線を合わせているだけなのに、何かが始まる気分が高まり、舞台上の2人に目が離せません。視線って雄弁なのですね。

ボッレのリフトは、メリッサ・ハミルトンの体重を感じさせないスムーズさ。ボッレもいいお歳なんだから、走り回ってリフトの多いロミオ役はきつかろうと思っていましたが、ボッレは劣化しない。

ミリアム・ウルド・ブラームとマチアス・エイマンの「ジュエルズよりダイヤモンド」。悪くはないです。ダイヤモンドという作品を見ると、どうしてもロパートキナを思い出してしまうので、今回の2人についてのメモは省略。

アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーの「マノンより第3幕のパ・ド・ドゥ」。沼地のパ・ド・ドゥ。このシーンは、ボロボロになって死が間近のマノンをどこまでも支えてついていくデ・グリューの献身的な愛が見られるところです。コジョカルとコボーが演じると、コボーと2人ならどんなことがあっても、どこに行っても怖くないというコジョカルの強い愛が見えてきます。対するコボーはコジョカルマノンの強い愛を包むような、おおらかな愛をみせます。コジョカルって本当にコボーが大好きなんだなと再認識させられた演目です。

サラ・ラムとフェデリコ・ボネッリの「アポロ」。Aプロでもその良さが分からなかった「アポロ」ですが、相変わらず分かりません。ですが、2人が踊ったAプロの「コッペリア」よりは面白く鑑賞しました。

アンナ・ラウデールとエドウィン・レヴァツォフの「椿姫より第3幕のパ・ド・ドゥ」。物語を感じる。以下、略。

エリサ・バデネスとダニエル・カマルゴの「じゃじゃ馬馴らし」。男勝りのキャタリーナを余裕であしらうペトルーチオ。かと思うと反撃にあったりして、二人のすったもんだは、いつ見ても面白い。

アレクサンドロワとラントラートフの「ヌレエフよりパ・ド・ドゥ」。ブノワ賞を受賞した作品からのパ・ド・ドゥということで期待してました。が、衣装がシンプル、セットも特になくシンプルという具合で、どういった場面なのか良く分かりませんでした。ラントラートフがヌレエフ役なのだから、ヌレエフに関わる女性と言えばマーゴ・フォンテイン。ということはマーシャはマーゴ役か、というのは何となく分かりましたが。普通に美しい、愛あるパ・ド・ドゥでした。

マリア・アイシュヴァルトとアレクサンドル・リアブコの「アダージェット」。なんというか、染み入るような作品。アイシュヴァルトは表現力のあるダンサーだし、憑依型ダンサーのリアブコは作品の底流に流れるものを掬い取り、表現する感じ。って、自分でも何書いているのか、良くわかりません。

フェリとゴメスの「オネーギンより第3幕のパ・ド・ドゥ」。バレエ「オネーギン」の最後の場面ですが、女優ダンサー、フェリの本領発揮です。

タチヤーナの部屋を前にして、逡巡するオネーギン役のゴメス。その様は、自分を受け入れてもらえるか、恋に憶病になっている初心なティーンエイジャーのようです。かつてタチヤーナの恋を弄んだ、余裕のある青年の姿とは全く違います。一方のタチヤーナはオネーギンからの恋文に深く悩んでいます。

意を決して、タチヤーナの部屋に入るオネーギン。拒みたいのに拒みきれない、オネーギンに心惹かれ揺れる理性が見えるタチヤーナ。みっともなく這いつくばってもタチヤーナの心を手に入れたいオネーギン。二人の濃密な舞台に目が離せません。

ついに、オネーギンへの思いを断ち切り、わなわなと震えながら、オネーギンをまっすぐ見つめ、オネーギンからの手紙をビリビリに破るタチヤーナ。心破れたオネーギンは、ショック(と羞恥心?)のあまり一目散にタチヤーナの部屋を後にします。

一人、部屋に残るタチヤーナ。空を仰いで、泣き顔も隠さず、一心に泣いている。その様は、大人の女性にありがちな嗚咽ではなく、かといって慟哭というのとも違う感じです。幼い女の子が、ただ悲しいから人目もはばからず泣くような感じです。成熟した女性の顔の下に隠れていた、ただオネーギンに憧れて恋し、昔は表に出てこなかった少女の顔が、いま表に出てきて悲しんでいるような感じを受けました。

たった何分かのパ・ド・ドゥでしたが、全幕を観たかのような充実感でした。フェリの圧巻の演技に観客はそれぞれ自分なりの感銘を受けたのでしょう、お約束のような2回のカーテンコールでは収まらず、この日のキャストで初めての3回目のカーテンコール。

トリを飾るのは「ドン・キホーテ」。Bプロはコチェトワとシムキンです。あのフェリとゴメスの盛り上がりの後は、さすがの2人でも厳しかろうと思いましたが、想像を超えてきました。

シムキンのジャンプは軽く高く、ピルエットは軸が細くてブレず完全にコントロールしています。540を3連続して、思う存分、観客の熱狂を誘います。可愛らしい容姿のコチェトワもテクニックに不足なし。シムキンと最もバランスのいいパートナーは、やはりコチェトワだと再認識します。観客を熱狂の渦に巻き込むさまは、2009年の世界バレエフェス全幕プロの「ドン・キホーテ」を思い出させます。あの時の、地鳴りのような拍手に包まれた東京文化会館は忘れられません。この2人も3回のカーテンコールに迎えられていました。

長丁場で観るのが疲れる世界バレエフェスですが、この充実感はやはりすごいです。8/15のガラも1日だけのお楽しみということで、楽しかったのでしょうね。ちなみにガラは当選したのですが、用事があったため、定価以下の売買のみOKのサイトで売ってしまいました。購入された方が楽しんでくれれば、それで良いんです。