(いまさらの)アリス雑記

新国のアリスは計3回観て、そのうち2回は小野さん主演日でした。比較的記憶に残っている小野さん回について、感激の記憶が忘却の彼方になる前(すでにかなり忘却しつつある・・・)にアリス雑記。

小野さん演じるアリスは元気で明るい女の子。庭師のジャックにほのかな恋心を抱いているようで、二人の仲は見ていて微笑ましく、良い感じです。福岡君演じるジャックは、アリスとは所属する階級が違うことを感じさせる庶民感。身に着けているものだけでなく、所作や佇まいからも上流階級の人間ではないことが分かります。といってもアリスが恋心を抱くぐらいだから、下卑た感じはなく、すっきりとした若者です。

大らかで浪漫を感じさせる旋律に合わせて踊る2人のパ・ド・ドゥは、看板ペアの面目躍如でとてもスムーズです。観ていて安心感があります。そして元気で明るいアリスは、ジャックとのパ・ド・ドゥでは、乙女になる。恋する女の子の幸福感を感じさせます。

アリスは上演中、ほぼ出ずっぱり。テクニックや演技力だけでなく、相当体力が必要とされそうです。米沢さんと小野さんの2キャストで連日よく上演したなと思いますが、さすが新国立劇場バレエ団の2大看板女性ダンサー。最終日に観た小野さんも疲れは見せず。日本のバレエ団で短期間に4回ずつ主演を務めるなんてことは(わたしの知る限り)あまりないので、疲れは蓄積していても充実感も感じた舞台経験だったのでは、と勝手に推測しています。

アリスが訪れた家の前で女王からの招待状のやり取りをする魚の召使とカエルの召使の場面。魚は井澤(兄)君でカエルは福田(兄)君。くしくも(?)同じバレエ団で兄弟で踊っているダンサーのお兄さんコンビ。両者ともテクニックに不足はないダンサーなので、高度なテクニックをさらっと簡単そうに見せて、楽しさとコミカルさを客席に届けます。

魚とカエルの楽しい場面から一転、家の中は公爵夫人、公爵夫人があやす赤ん坊、そして怖ーい料理女がいます。料理女はソーセージを作っています。一見何でもなさそうな家の中が、狂気をおびた料理女によって、場面は次第に凄惨な雰囲気に変わっていきます。この家の登場シーンで「Home Sweet Home」と書かれていたわけですが、こんな凄惨な場面が「Home Sweet Home」なのか。イギリス人らしいブラックユーモア?

米沢さん主演日に観た、本島さんの料理女が本当に怖かったです。さすが演技力抜群のダンサー。今回のアリスでの本島さんは、ハートの女王も料理女もまったくハズレがない。

マッドハッターはどうしてもロイヤルのスティーブン・マックレーと比べてしまうので、割愛。マッドハッターって、ローザンヌバレエコンクールのフリーダンスでタップダンスを踊り、観客・審査員ともに度肝を抜かして最高賞をかっさらっていったマックレーのための役だと思う、つくづく・・・。

群舞で目につくダンサーがいると思うと、木村優里さん。頭に数字の飾り(なんの数字かは失念しました)をつけたトランプの群舞でも、色とりどりの明るい花の群舞でも「あれは木村さん!」と一瞬で目に入ってきました。華があるって、舞台人として本当に最大の武器です。

ルイス・キャロルで、白ウサギで、終幕で現代青年(役名は不明)役の木下君。踊りは間違いなく美しくうまいけれど、白ウサギ役はどうなのだろうと開幕前は思っていました。ルイス・キャロル/白ウサギはスレンダーで長身、演技力があってユーモアも表現できるダンサー、ロイヤルのエドワード・ワトソンのイメージが強いので。

観劇した結果、ルイス・キャロル/白ウサギは、木下君の当たり役かもと思いなおしました。ルイス・キャロルのときはアリスと同じ階級に住む新しもの好きそうな青年、白ウサギのときは落ち着きなくワタワタとして可笑しみがあり、終幕の現代青年はすっきりと爽やか(っぽい)。

木下君はシンデレラで道化役を演じているので、ユーモアが必要とされる役を演じたことが無いわけではありません。が、道化役を安心して任せられるダンサー不足で木下君にお鉢が回ってきたのか、道化タイプではないのではと思いながらシンデレラの道化役を観ていました。で、今回の白ウサギは、そんな思いを払しょくしました。ユーモアとダンス技術の確かさ、ルイス・キャロルと白ウサギと現代青年の役柄の演じ分け。存在感があって、かといって存在を主張しすぎない。名ストーリーテラーだったのでは?

もっと書き残しておきたかったこともあるような気がしますが、今回はこれで終わりです。やはり記憶が鮮明なうちに書き残しておかなくては、と反省・・・。