白鳥の湖(@東京文化会館)

12/8ソワレのマリインスキーバレエの白鳥の湖のメモ。

簡単な感想は、「メイちゃん良いじゃないか!」と白鳥の湖はロシア人ダンサーの十八番。

当初の予定ではスコーリクがオデット・オディール役に予定されていましたが、バレエ団来日前から主役はエカテリーナ・オスモールキナに変更。主役が変更してもチケットの払い戻しはないので、若干気落ちしながら東京文化会館に到着しました。

ですが、会場に着くと華やいでいて、何となくわくわくします。この日は会場には舞台鑑賞が趣味という感じではなさそうな背広姿の男性陣が何人もいました。証券会社が協賛しているので、その関係者のよう。証券会社から招待されたっぽい人たちも結構いたようです。

さて肝心の舞台の方は、永久メイさんが王子の友人たち(パ・ド・トロワ)にキャスティングされています。今回はどうかなと思っていると、メイちゃん良いじゃないか!

かわいくて生き生きと踊り、テクニックも不足が無い。パ・ド・トロワは「白鳥の湖」の序盤を盛り上げる場面なので、ここが尻切れトンボ的になってしまうと、その後の鑑賞のエンジンが上がっていかない。メイちゃんたちが多いに盛り上げてくれたので、「今日の舞台は良さそうだぞ」と会場の温度も上がってきました。この日の出来が本来の永久メイさんの力量だと思うので、「海賊」のときはかなり緊張していたんですね。

2幕になると観客が待ちに待ったオデットの出番です。湖の湖面をスーッと泳いでいく白鳥たちの最後に、頭に冠をのせた白鳥が現れ、舞台の袖に消えていくと、陸に上がり白鳥から人間の姿に変わる最中のオデットが登場します。

逃げつつも王子に興味を持つオデットに、追うジークフリート王子。そこに次々に白鳥たちが加わり、バレエ・ブランの世界が繰り広げられる。

ロシア人ダンサーは手足が細く長く、長い腕が白鳥の翼を表現するのに適している。プロポーションの良いダンサー勢ぞろいのコール・ドは細かく見ればそろっていない部分もあるのでしょうが、そんなことは気にならないくらい美しい。自分たちの伝統芸能の十八番を見せている自信、白鳥の湖をロシア人ダンサー以上に美しく踊れるダンサーはいないという確信のようなものが舞台上のダンサーたちから伝わってきます。

オスモールキナのオデットは繊細、憂い顔で幻のようで、男性が庇護欲を掻き立てられる感じ。

それが3幕のオディールでは大胆で開放的な女性を演じる。オデットとオディールではどちらかというとオデットの方が得意なような感じを受けましたが、かといってオディールに向いていないわけではない。バランスのいいダンサーですね。3幕の終盤でオディールがオデットでないことが判明したときの王子をあざ笑う顔は、うまく騙しおおせて可笑しくてしかたがない悪女の顔でした。

王子役のザンダー・パリッシュは前回の来日公演時に「見た目は良いのにね・・・(ため息)」だったのですが、前より良かったような気がします(あんまり注目して観ていない)。

ところで3幕の冒頭、王子の花嫁候補が王子と次々と踊り、王子の気を引こうとしますが、花嫁候補は皆同じ衣装です。以前の新国立劇場バレエもマリインスキー版の白鳥の湖を上演していたので、その当時は今の牧版と違って花嫁候補は全員同じ衣装でした。主要な役ではないし、全体の調和を考えて同じ衣装にしているのかと思っていましたが、「オデットに夢中で他の姫が目に入らない王子には、どの姫も同じに見える」という王子の心象風景を表現している部分もあるのかもと今更ながら思いました。

3幕は、ロットバルトのマントの翻し方がカッコいい。アンドレイ・エルマコフ演ずるロットバルトの表は黒、裏は赤のマントの翻し方がバリエーションがあって、毎度同じではない。マントの片側だけをバッと翻したり、両側を同時に翻してマントの下部の真ん中が左右対称にたわんだようにめくれたり。演出効果の高いマントの翻し方が教師や先輩ダンサーから伝授されているのでしょうか?

そして1、3幕ともに、道化役のダンサーの踊りが素晴らしかった。体つきがスッキリしていて筋肉が目立つタイプの脚ではないけれど、技術はかなりしっかりしていて跳んでも回転しても客席を沸かせました。良いダンサーだと思いましが、誰だったのかよく分かりません。当日入り口でもらったキャスト表には「ヤロフラフ・バイボルディン」と記載されてましたが、ジャパンアーツのサイトを見ると、キャスト表から変更があるとのことで「ラマンベク・ベイシェナリエフ」とあるものの、道化:バイボルディンの名を取り消し線で消してその横に「ウラディスラフ・シュラコフ」と記載されています。一体誰だったんだ?

4幕は静かな湖畔に佇む白鳥たちの群れに、風雲急を告げるような音楽とともに、王子に裏切られて心が千々に乱れたオデットが駆け込んでくる。傷心のオデットは弱々しい。

悔恨の王子がようやくオデットを見つけ、愛を再確認する。身を寄せ合うオデットと王子ですが、フルートの音が流れるとオデットがアラベスクのポーズで後ずさって王子から離れていく。そしてその音を振り切るようにオデットがピケターンで王子の元に戻っていく。この部分ってピロロロロロというフルートの音は悪魔の魔法を表現しているのでしょうか?悪魔の魔法で一旦王子から引き離されたものの、オデットの強い愛で悪魔の魔法を振り切って、再び王子の元に戻っていくという場面設定?

悪魔ロットバルトが登場して、魔力で傷心のオデットは瀕死の状態に。ここで王子が男を見せて、愛に力を得て悪魔ロットバルトを倒します。悪魔の呪いが解けて、王子がオデットを助け起こし、立ち上がるオデット。王子がオデットに「ほらご覧、もう悪魔に悩まされることはないよ」とでも言うように悪魔の亡骸を見せると、初めてオデットは笑顔を見せます。憂い顔から、夜明けとともに明るい表情になったオデット。オデットと王子の幸せそうな姿で幕が下りて、「白鳥の湖」は終わりです。