映画館で「ドン・キホーテ」

英国ロイヤル・オペラ・ハウス2018/19シネマシーズンの「ドン・キホーテ」を先日観たのでメモ。

今回のキャストは、主役のキトリは高田茜さん、バジルはアレクサンダー・キャンベル。高田さんのキトリは6月の来日公演のチケットで観る予定だから映画館で観る必要があるのかとか、上演終了時間が23時を超えているのはちょっと・・・とか考えて、散々迷った末の鑑賞です。結果は、観に行って良かった、面白かった!

このシネマシーズン、ライブ・ビューイングとは違うのですね。実際の上演のように幕間に休憩時間がありますが、解説、インタビューやリハーサル風景も上演されていました。いつだったか、まだ来日公演で「不思議の国のアリス」をやる前、TOHOシネマズ六本木(だったと思う。うろ覚え)で「不思議の国のアリス」を観たことがあります。ライブ・ビューイングと言いつつ、日本ではライブの録画上映だった気がする・・・。その時は、こういったインタビュー等は上演されていなかったような気もする・・・。今回のように振付家や舞台美術の方などのインタビュー、舞台裏が覗ける方が楽しい。

1幕上演前は、ケヴィン・オヘア芸術監督のインタビューがありました。上演が途絶えていたドン・キホーテを上演しよう、振付は何人かの候補者の中から最終的にドン・キホーテに多く出演しているカルロス・アコスタに決定されたなどといった話をしていましたが、話の内容より、芸術監督の佇まいが気を引きました。

インタビューに答える芸術監督の話す姿が、「これは見どころ満載の楽しいバレエ作品ですよ。観ないとソンしますよ。」といった雰囲気を醸し出しているのです。たとえ字幕が無くても、音声が聞こえなかったとしても、芸術監督が「絶対楽しめますよ。おすすめですよ。」と言っているのが伝わってくる感じです。全身からおすすめオーラを出されたら、期待が高まります。ロイヤルのドン・キホーテはアコスタ版に限らず、初見ですし。

作品の筋は、通常のドン・キホーテとほぼ同じです。1幕はバルセロナの広場の喧騒、キトリがバジルのと仲を父親に認められず、ガマーシュと結婚させられそうになる。2幕はジプシーの野営地と、ドン・キホーテの夢の場面。3幕は居酒屋と、キトリとバジルの結婚式です。細部がちょっと違います。

全編を通して印象に残った点をメモ。

この版はドルシネア姫が、2幕の夢の場面以外にも登場します。ですが、夢の場面に出てくるドルシネア姫はキトリ役のダンサーが踊ります。キャスト表に載っているドルシネア姫は2幕の夢の場面とは別のダンサー。

ドン・キホーテの馬が、芸術作品風。作り物の馬ですが、張りぼての馬ではなく、かといって馬の模様を描いた布を被らせた人間に馬役をやらせているわけではなく。ワラで作られたような、良く言えば芸術作品風の馬です。後ろ脚の部分に人が入っている感があるので、中に人が入っているのでしょうね。観た瞬間、なんだあれは!?と思う出来です。

演劇の国のバレエ団だけあって、みなさん役になりきって演技がうまい。特に男性ダンサーが濃い役を演じています。エスパーダのヴァレンティノ・ズケッティが濃い、ジプシーの頭領(ダンサー名不明)が濃い。

ズケッティはイタリア出身のダンサーとのことですが、試しに他の作品の画像を見るとそんなに濃い雰囲気はありません。ですがラテン男の濃さを、ドン・キホーテではいかんなく発揮しています。

ジプシーの頭領(ダンサー名不明)は見た目は金髪で、濃い感じはしません。が、踊りが濃い。なぜ上着を脱いで、上半身裸で踊る?ワイルドさの演出でしょうか・・・。

ジプシーの野営地では、本物のミュージシャンがジプシーに扮して音楽を奏でます。日本公演でもミュージシャンが出演するのか、出演するとしたら日本で調達するのか、気になります。

ガマーシュがちょっと救われる。キトリとバジルのカップルにこけにされ、散々な目にあうガマーシュ。ですがドン・キホーテの仲介(?)で、酒場女性と結ばれます。ガマーシュは最初納得していない風でしたが、金持ちと結婚できることになった酒場女性は大喜び。嫌がるキトリより、笑顔で腕を組んでくる酒場女性の方が結婚相手としては良いんじゃないでしょうか。

最後に、高田茜さんが良い。高田さんは10代の頃のコンクールの映像で、ジゼルとかグラン・パ・クラシックのイメージが強いので、キトリはどうだろうと思っていました。観たた結果、さすがロイヤル・バレエ団でプリンシパルを務めるだけあります。

動きが大きくて、機敏です。1幕が終わった後に、コーチやダーシー・バッセルが指導する高田さんのリハーサル映像が流されるのですが、「ファスター、ファスター」と指示が出されていました。上演中に目を引いた、あの機敏な動きの舞台裏が覗けるのが、映画館上映ならではの楽しみです。

登場の一連の踊りで、キトリの勝ち気でカラッとした明るい性格が表現されています。他の女の子とイチャイチャしているバジルに向かって、むくれつつも「キスしてくれたら許してあげる。」といった演技も、嫌みがなくて可愛い。

他のダンサーと並ぶと162㎝の高田さんは、決して大きくはない。ですが、踊りが大きく美しくて、とても目立ちます。大きなけがをしたことのあるダンサーなので、観ているこちらがハラハラしますが、こじんまりとした踊りはしない。キトリの快活さから一転、ドルシネア姫は姫オーラを纏います。

最後、結婚式のグラン・パ・ド・ドゥが終わった後の高田さんは、瞳が潤んでいたように見えました。鑑賞後に読んだインタビューによると、当日は高熱が出ていたといいます。終始見せてくれた素晴らしい踊りからは、そんな様子はちっとも見受けられませんでした。うっすら潤んだ瞳は高熱のためだったのでしょうか?いや、ライブ・ビューイング&映画館上映のための録画という大役を、無事終えられた安堵感からでしょう。

6月の来日公演では生の高田さんのキトリを観られるんだと、大いに満足したロイヤル・オペラハウスのシネマシーズン「ドン・キホーテ」でした。で、鑑賞後、高田さんが怪我のため6月の来日公演降板というニュースを目にしました。ものすごく残念ですが、一番残念に思っているのは高田さん本人のはず。しっかり治して、また素敵な舞台を見せてくれることを期待しています。