ロメオとジュリエット26日マチネ&27日

「ロメオとジュリエット(@新国立劇場)」は26日マチネと27日も観ているので、軽くメモ。(アップしたと思っていたら、していなかったので今頃・・・)

26日マチネは木村・井澤ペア。27日の千秋楽は米沢・渡邊ペアです。

まず、26日から。

木村さんのジュリエットは、等身大。どこかの架空の国のキラキラしたお姫様ではなく、リアルなティーンエイジャーの女の子です。登場シーンははつらつとして、いたずらっぽい感じもして可愛いのですが、幼すぎではない。

対する井澤さんのロメオは、見た目が良く、冒頭ロザラインに求愛しているけれど、ものすごい情熱をもっているわけでもなさそう。自分のありったけを見せて、何としてでもロザラインの歓心を勝ち取ろうという風には見えません。

そんな2人が出会い、恋をする。

恋を謳歌するバルコニーのパ・ド・ドゥでは、小野福岡ペアとは違う魅力を発揮していました。

まず、井澤ロメオが感情を解き放った。これまでの古典の主人公での井澤さんは、感情表現が控えめでした。

ですが、今回のロメオとジュリエットでは閉じ込めていた感情を解放していました。感情を解き放った井澤ロメオは、無敵なのではないのかと思います。頼もしい笑顔で両手を広げられたら、ジュリエットは一目散にその胸に飛び込んでいきたくなるでしょう。木村ジュリエットは輝く笑顔で応えます。

バルコニーのパ・ド・ドゥは高難度のパ・ド・ドゥです。リフトを多用し、一歩間違えれば大惨事。なにしろ、両者とも初演(井澤さんは前回ロメオにキャスティングされていたものの、ケガで降板)ですから、どこかで破綻しないか、破綻しないまでも簡略版になるのではないか(他の演目で、どうしても振付をこなせなかったらしく、簡略版を踊るキャストを観たことがあります)、ドキドキしながら観ていました。

で、木村井澤ペアは、小野福岡ペアの安定感・流麗さはないものの、予想以上に良かったです。よくぞここまで作り上げていったと感動しました。初めての恋って感じも良いですね。

何といっても井澤ロメオが包容力があって頼もし気でした。木村さんは初々しく、女性らしさも加わって可愛らしかったです。ここでも、木村ジュリエットは等身大のティーンエイジャーに見えました。

ロメオが追放され、残されたジュリエットはパリスとの結婚を迫られます。

この場面、それぞれのジュリエットの対比をすると地味に面白いです。激しい小野ジュリエットの意思に対し、木村ジュリエットは拒絶はしますが、激しい意思表示は見せません。

恋をして若干大人の女性に近づいたとはいえ、まだティーンエイジャーの身、両親に激しく抵抗することにとまどいがあるのか、元々の性格から意思表示がやんわりとしたものなのか?

終盤の霊廟の場ですが、今回は4階から観ていたので、照明が暗い中では登場人物の表情がよく観えません。床に倒れるロメオの存在に気付いた場面のジュリエットの表情を観ようと、オペラグラスをあちこちに向け、ジュリエットの姿をとらえました。が、時すでに遅く、ジュリエットの細かな感情の動きを観ることはできませんでした、残念・です。細かな感情の動きを拾うには、4階席はつらい・・・。

ロメオの死を受けて、腹(しつこいが、胸ではない)に刺した短剣を勢いよく抜く木村ジュリエットの姿が印象的でした。あの勢いで抜いたら、出血多量。ロメオの元に何としてでも行く決意だったのかもしれません。

さて、千秋楽の27日。主役キャストは米沢渡邊ペアです。

米沢さんのジュリエット、渡邊さんのロメオ、福岡さんのティボルトが気になります。

米沢ジュリエットは感情表現が控えめ。対する渡邊ロメオは、3キャストの中で最も若く、ティーンエイジャーっぽいです。特に表情が若く、喜びや怒りを隠しません。初日の大人っぽいパリスと同一人物には思えない人物像です。舞台メイクもパリスの時のがっつりメイクに比べて、素顔に近かったのではと思います。

この2人の演技・踊りで微笑ましいなと思ったのは、人がはけた舞踏会の2人だけの場面。いたずらっぽくロメオがジュリエットの首筋にキスをすると、くすぐったげに明るい笑顔で反応するジュリエット。この戯れの場面が、年若い恋人同士っぽくて、可愛かったです。バルコニーのパ・ド・ドゥもスムーズに見えました。米沢さんがどのパートナーとも米沢渡邊ペアも相当初役とは思えませんでした。

悪ガキトリオについて。マキューシオは木下さん、ベンヴォーリオは速水さんです。

木下さんのマキューシオは、見た目もチャラくて、ティボルトのおちょくり具合が良いです。速水さんは、音を取るタイミングが渡邊さんと同じなのかもしれません。何回かロメオ・マキューシオ・ベンヴォーリオの3人が並びで同じ振付を踊る部分がありますが、渡邊ロメオと速水ベンヴォーリオのタイミングが合っていました。二人の並びが、観ていて気持ちの良い踊りでした。そして速水さんのベンヴォーリオはおとなしめなキャラには見えず、どこかチャラい。この物語の中では最後まで生き残っていても、いつかどこかで刃傷沙汰を起こしそう。遠くない未来、ロメオやマキューシオとこの世でないどこかで、また悪ガキトリオを結成しそうです。

福岡さんのティボルトについて。26日マチネのティボルトは中家さんで、威圧的な感じでした。福岡さんのティボルトは、ロメオたちに比べて、大人っぽく、余裕がある感じです。

27日の舞台上の剣をふるう闘いの場面で、誰よりも剣の扱いが上手だったのが福岡ティボルト。これがマキューシオに負け、ロメオに殺されてしまうなんて、ちょっと考えられません。

物語の進行上、マキューシオに負けてしまうのは必然。で、散々マキューシオにおちょくられて、「この小僧!」と頭に血が上って冷静さを欠き、結果負けてしまうという設定なのかと。そして辱めを受けた仕返しに、卑劣なやり方でマキューシオを刺し殺してしまう。

マキューシオを殺された怒りでロメオは剣をとります。ロメオの心情はどうだったんでしょうね。

ティボルトとのいさかいをやめるようマキューシオを止めている時、ロメオは複雑な表情をしていました。舞踏会で正体がばれた後も、相変わらず嫌なものを見るような視線でティボルトを見ていました。ちょっとやそっとじゃ解けないわだかまりがありそうな感じ。

ジュリエットと秘密の結婚をした後も、表面的な態度とはうらはら、心の底の底では、まだティボルトへの対抗心やわだかまりがあったのではないかと勘繰ってしまいます。理性で押さえいたものは、ちょっとした感情の高まりで容易に吹き飛んでしまう。そして、自分の死をも恐れないロメオの気迫に押され、ティボルトは刺殺されてしまった、という設定を考えてみました。刺された後のティボルトは、絶対一矢報いてやると、最後まで剣を取りに向かっていたのが恐ろしかった。

ジュリエットの寝室で一夜を過ごすロメオ。ジュリエットを両手でゆるく抱きしめるようなポーズで寝ていたのが印象的でした。こういったちょっとした所の違いは、ダンサーの裁量に任されているみたいですね。

ロメオが去った後、一人部屋に残されるジュリエットのたたずまいも、2パターンあるのでしょうか。米沢ジュリエットは呆然と、心ここにないという感じで立ち尽くしていました(今年テレビ放映されたロイヤル高田さんのジュリエットも同じ)が、小野ジュリエットと木村ジュリエットは悲しみをこらえるようにベッドに横たわっていました。

心ここにないジュリエットは、パリスへの拒絶も静かな拒絶でした。

話しは飛んで、霊廟での場面。ジュリエットの亡骸(本当は仮死状態)を揺さぶり、引きずってロメオの遣り切れない気持ちを表現するところです。人形のように全く反応せず、なされるがままのジュリエットですが、この場面の米沢さんの動きがスムーズでした。

横たわったジュリエットの亡骸を、ロメオが持ち上げる場面。ここはロメオ役ダンサーが力づくでジュリエット役ダンサーを持ち上げるのではなく、男性ダンサーが持ち上げやすいように女性ダンサーがタイミングを合わせて飛び上がっています。ただし、あからさまに女性ダンサーが飛び上がっているように見せないのがポイント。亡骸の設定の女性ダンサーがあからさまに飛び上がったら、まるでゾンビですから。ここの場面の米沢さんの動きがスムーズで、渡邊さんが持ち上げやすいように飛び上がっているはずなのですが、そう見えません。悲しみのロメオのなすがままに、くたっとなっている力の抜け加減も、今回の3人のジュリエットの中では一番だったかも。全編を通して、米沢さんのジュリエットは自分から強く発するタイプではなく、受け止めるタイプのジュリエット(深窓令嬢タイプ?)だったのかもしれません。

 とういうわけで、ロメオとジュリエットの鑑賞メモは終了です。