アラジン(@新国立劇場)

アラジンの初日(6/15)に行ってきました。

「アラジン」は、アラジンと魔法のランプを基にしたビントレー元芸術監督振付の作品です。公演リーフレットの「見どころ」の部分が作品の性質を端的に表現していて、「エンターテインメント性と芸術性が見事に調和した作品」です。

全編通して見どころ満載ですが、特に1幕は、宝石たちによるディヴェルティスマンオンパレードの洞窟の場面が豪華です。

個人的に印象に残ったところを、書いておきます。

まずは1幕。

人で賑わう市場の場面に登場するアラジン役の福岡さん(※今回から全員「さん」づけで統一することにしました)。やんちゃでいたずら好きだけど、憎めないキャラクターです。友人2人(木下さん、原さん)と合流し、3人が気の合ういい仲間同士という雰囲気が出ています。3人の関係性がいい。市場のシーンの踊りは、ビントレーさんらしく、細かなパを入れています。流してしまいそうなところも気を使ってステップを踏む必要がありそうです。

マグリブ人にそそのかされたアラジンは、魔王のランプを探す旅に出ます。砂漠の嵐に巻き込まれ、何とか洞窟に到着するアラジン。洞窟では宝石たちの踊りが始まります。

が、洞窟の前に忘れてはならない、砂漠でのシーンの女性ダンサーの動きがきれいでいて、ちょっと怖くもあります。女性ダンサー8名は「砂漠の嵐」という役名で、アラジンが砂漠で遭遇した砂嵐を表現したものです。アラジンを翻弄して、砂の中に飲み込んでしまうそう。そんな砂漠の嵐ダンサーズの衣装は一見、裾が切れ離しのぼろきれのように見えますが、そんな衣装を着用していても、美しいスタイルと基礎のしっかりしたクラシックバレエのテクニックが楽しめます。

「アラジン」最大の見どころ、洞窟の宝石たちの踊り。多彩な振付でどれも面白いのですが、特に印象が残ったものを挙げると、エメラルドの速水さんとルビーの木村さん。

エメラルドは女性2人男性1人の踊り。バヤデールの黄金の仏像のようなポーズが随所にあって、インド風です。速水さんは外見からは俺様タイプで押し出しが強そうに見えます。が、舞台では組んで踊るダンサーとの調和を乱さず、自分だけ目立とうとはしていません。見た目から受ける印象って、あまりあてになりませんね。速水さんはテクニックが半端ないので、どうしても目立ってしまうという感じです。ピルエットを連続して回り続けて、軸が傾き、フィニッシュがぐらつくかなと思っても、ピタッと止まる身体能力の高さが目を引きます。指先まで動きがきれいで、どこかノーブル。

エメラルドでは男性ダンサーを挟んで、女性ダンサー2人が上げた脚を交差させるキメのポーズがいい。「アラジン」のエメラルドは蛇のイメージとどこかで読みましたが、キメのポーズは蛇が巻きついたオブジェのように見えます。

ルビーは女性と辮髪(?)の男性のデュオ。色気とムードがある踊りです。観る前は、若い木村さんには難しいのではないかと思っていましたが、予想に反して色気がありました。高くリフトされて、パッと腕を大きく開くと、真っ赤な大きな花が咲いたように見えます。手足の長いダンサーが踊ると、空間の切り取り方が大きくて見栄えがします。

木村さんと組んでいる男性ダンサーは渡邊さんでしたが、辮髪姿とアラブ風衣装でいつもの面影はありません。男性ダンサーがバリバリ踊るというより、難しいリフトで女性ダンサーをきれいに見せるのが仕事というポジションです。

ランプの精ジーンの力で、洞窟から自宅への帰還を果たしたアラジン。王宮のそばでプリンセスの輿が通るのを見かけます。一同平伏した中、輿の中からプリンセスが姿を見せます。

小野さんのプリンセスは、ひょこっと顔を出してから輿を下りてきます。ここらへんがプリンセスの性格を表しているように見えます。この王女様、王宮の外の暮らしが見たいんだろうな、ちょっとした冒険心があるんだろうなといった感じです。

好奇心旺盛なアラジンは周りの人々が平伏しているところ、プリンセスの気配を感じて起き上がり、プリンセスの姿を見つめ続けます。プリンセスの気を引きたくてリンゴを投げて、いきなりこんなことをする男性にプリンセスはびっくり。一同平伏しているなか、立ち上がって動いているのは2人だけ。2人だけの時間が流れます。

プリンセスが乗り込んだ輿が出発して、平伏していた民衆は立ちあがり、日々の暮らしへと戻っていきます。その中でアラジンが一人だけ、微動だにせずにいます。瞳だけはずっとプリンセスが乗る輿の行方を見つめ続けて・・・。先ほどのプリンセスとアラジンだけが動いていたシーンとの対比が鮮やかです。客席に背を向けたアラジンの背中が、プリンセスに心奪われ、時が止まったのかのよう。背を見せているだけなのに、アラジンの心情がどのようなものか、雄弁に物語っていました。

2幕は結婚式の場が印象深いです。

イロモノキャラ(?)を滅多に踊ることのない井澤さんがジーンを踊ります。前回のアラジンで初めてキャスティングされていましたが、その回は観劇しなかったので、観るのは今回が初めてです。ジーンはテクニック抜群のダンサーが踊る役という認識でしたが、井澤さんもなかなか良いです。王子キャラでは絶対出てこない振付をこなしていて、いつもの正統派王子のかけらもなく、同一人物には見えません。あれだけ外見を変えていると、ダンサー側もいつもと違う自分を出しやすくて良いのかも。

配役の権限を誰が握っているのか知りませんが、誰が井澤さんにジーン役を振ったのでしょうか?ダンサーには様々な踊りを踊らせることが栄養になるといった趣旨の、ビントレーさんのインタビューを以前読んだことがあります。ビントレーさんが井澤さんを選んだのだとしたら、正統派王子とはまったく違う役柄を井澤さんに経験させたかったのかもしれません。どんな風に演じるのか面白いですし。

そして、ジーンのお付きの集団ダンスが圧巻です。クラシックバレエでは見られないような動きがたくさんあって面白く、機敏で、常に動き続ける運動量の多さ。ジーンダンサーズの女性ダンサーは、初演の頃からソリスト以上のダンサーを配役していたはず(うろ覚え)で、これを踊り切るには体力、テクニックともに必要そうです。観ていると気分が高揚してきます。

結婚式のパ・ド・ドゥ。リフトが相当難しそうです。抱え上げたすぐ後に、男性ダンサーが片腕離してリフトしたままポーズをつけたり、女性ダンサーが飛び込んでいって男性ダンサーが抱え上げ、すぐさま回転しながら女性ダンサーを下ろしたり(女性ダンサーは着地後すぐアラベスクのポーズを取ります)。息のあった小野・福岡ペア。一人ひとり踊るときは、福岡さんはキレッキレ。小野さんは初々しく、そして少し元気というか、お淑やかなだけでない姫でした。完璧に理想的な姫ではなく、オーロラ姫やオデット姫とは踊りの感じが違います。

3幕。マグリブ人にさらわれたプリンセス。密かに助けに来たアラジンと打ち合わせ、マグリブ人を誘惑して睡眠薬入りの飲み物を飲ませようとします。誘惑の際の踊りはアラビアンな感じで、なまめかしい。プリンセスは誘惑ダンスを踊っている一方、杯に睡眠薬を入れるよう合図を送ってアラジンに催促します。ブルカを着て変装しているアラジンは、ずっこけたりしながらも睡眠薬を入れるのに成功。睡眠薬を催促するプリンセスの様子やなまめかしい誘惑ダンスをみていると、そのうちアラジンはプリンセスの尻に敷かれそうな気がする・・・。

アラジンの命令下に戻ったジーンの力を借りて、マグリブ人をやっつけ、さあ、故郷に戻ろうという際に登場するのが魔法の絨毯。一般的には、魔法の絨毯で空を飛ぶ演出のところが、3幕の見せ場でしょうか。かつての上演時は、ここのシーンで客席から拍手が沸き上がった日もありました。

アラジン・プリンセスが王宮に戻り、踊るパ・ド・ドゥは、しみじみと幸せをかみしめるような踊り。結婚式の時の幸せいっぱい、高揚感あふれる踊りとは違います。

2人のはからいでジーンは自由の身になります。大団円を迎えて、ドラゴン・ダンス。(ビントレー版「アラジン」は、アラブが舞台でアラジン親子は中国からの移民ということになっています。それでときに中国テイストが出てくる。)ドラゴン・ダンスはいいとして、一緒に踊っているジーンダンサーズの踊りが、どうも盆踊りに見えてしょうがありません。踊りの一つ一つのポーズはカンフーのポーズに似ているので、中国風なのでしょうが。

というわけで、いろいろなテイストのダンスが観られて、大人も子供も楽しめる「アラジン」は、今回も楽しかったです。芸術監督が代わっても、ダンサーの世代交代が進んでも、新国立劇場バレエ団で上演し続けて欲しい作品です。