ニューイヤー・バレエ(@新国立劇場)

新国立劇場の「ニューイヤー・バレエ」(1/12、1/13)を観てきました。

個人的には楽しみましたが、「火の鳥」といい、「ペトルーシュカ」といい、新年のっけからめでたさがまったくない・・・。以前3月頃に中劇場でやっていたトリプル・ビルとして上演する方が相応しかったのではと思いますが、トリプル・ビルの枠が無くなってしまったようなのでニューイヤー・バレエでやるしかないのかもしれません。

さて、最初の演目は「レ・シルフィード」です。

10年に一度位の頻度でしか観ない演目だったのに、12月のマリインスキー劇場バレエの来日公演で2回、今回のニューイヤー・バレエで2回。1か月ちょっとの間に4回も観るなんて、どうしたことか!

12日はメインのシルフィードが小野さん、詩人が井澤君。小野さんはふわっと軽やか、重力を感じさせません。そして井澤君もアントルラッセが軽い。

(この詩人の軽やかさはシルフィード達につられてのものなのか。いや、もしかしたら詩人は生身の身体でシルフィード達と戯れているのではなく、精神だけがシルフィード達の元に飛んできているゆえ、軽やかなのか。)などと感じました。

小野さん・井澤君のペアを観ることはあまりありませんが、この組み合わせも安定感があって悪くありませんでした。ですが、井澤君の高身長は、長身の女性ダンサーと組まないともったいない気がします。

13日はメインは木村さん、渡邊君です。このペアは、シルフィードと詩人は恋人同士という設定に見えます。寄り添う姿に愛を感じる。

この日は上の方の階から観ていたので、コールドのシルフィード達のフォーメーションがよく見えました。左右対称に展開して、美しい。舞台上に描くフォーメーションをじっくり観られるのは上の階ならでは。こんな形を描いていたのか、と存分に楽しみました。新国立劇場バレエのコールドは本当に質が高いと感嘆。

両日同じ役を演じた寺田さんは調子が良さそうだったし、細田さんはポールドブラが優雅でした。

休憩挟んで、2演目めは中村恩恵さんが新たに振り付けた意欲作、「火の鳥」です。

この作品、フォーキンの火の鳥の世界観とは全く違います。事前に物語の設定が書かれたあらすじを読んでいないと、「???」になると思います。あらすじを読んでいても、何を表現しているのか観ていて分からない部分がありましたから。

あらすじによると、主な登場人物は火の鳥、独裁者の王の息子(王子)、反乱軍のリーダー、政治批判をしたかどにより処刑された王の元側近である人物の娘。王子は父王の権力をさらに絶対的なものにするため、一方反乱軍は王を倒すため、それぞれ火の鳥の羽根を入手しようとしているという設定です。

舞台の中央にショートカットで着の身着のまま、はた目からは性別も定かでないような娘(12日は米沢さん、13日は五月女さん)が一人うずくまっているところから始まります。家族も家も失い一人ぼっちになった娘は、生きる気力もなさそうです。そんな娘を見つけた反乱軍のリーダー(福岡君)が、行き場のない娘を男装させて、反乱軍に迎え入れます。リーダーは力強さだけでなく、包容力もある。

一方で火の鳥を探し、見つけた王子(井澤君)。火の鳥は木下君。赤い羽のついたガウン状の衣装に、ヒールの高さが20㎝という赤いハイヒールを履いています。

この王子と火の鳥が相対する場面が何とも妖しい・・・。

フォーキン版火の鳥は、やんちゃな王子が火の鳥を捕まえます。そして逃してもらいたい火の鳥が、交換条件として自らの羽根を王子に差し出すというもの。

対して恩恵さん版は、火の鳥は王子に捕まりません。王子の方が火の鳥に幻惑され虜になっています。そして優位に立っている火の鳥の方から、何の交換条件もなしに羽根を王子に渡します。中性である(と思われる)火の鳥の、雌の部分が王子に興味を示して反応したということでしょうか。火の鳥を演じている木下君が男性なので、女性性を出して王子に迫る(?)場面が、妖しさいっぱいです。この場面、女性ダンサーが火の鳥を演じても普通で面白くなさそうなので、男性ダンサーが演じて正解。

王子が火の鳥を羽根を手に入れたことを知った反乱軍。リーダーに救われた娘も、反乱軍の一人として加わっています。反乱軍の一人一人に設定があるそうですが、舞台を観た感じでは分かりません。王子が手に入れた羽根について善後策を講じた結果、反乱軍は女装をして羽根を奪うことに。襟元に巻いていた赤いスカーフをまちこ巻きのように巻き、クネっとしたポーズをして女装完成です。ここは、フォーキン版では捕らわれの乙女たちがリンゴを転がして遊んでいる場面の音楽が使用されていました。どことなくコミカルな音楽なので、反乱軍が女装して女性らしいポーズの研究をしているコミカルな場面と合っています。反乱軍と共に踊る五月女さんの身体能力が高い。五月女さんの方が米沢さんより少年っぽさを感じました。

反乱軍の思惑など知らない王子は、帰路で女性の一群(女装した反乱軍)に遭遇します。そして男装してさらに女装した(つまり本来の性に戻った)娘に目を止めます。うまく王子を騙して羽根を奪って来いとでも言うように、反乱軍の仲間から王子の前に突き出される娘。娘は最初乗り気ではなく、王子が娘に興味を示すと手で遮り、顔を伏せます。しかし徐々に本来の姿を解放するかのように、踊りが柔らかく滑らかでのびやかになっていきます。その結果、見事、娘は王子から羽根を奪うことに成功。といってもずる賢く、王子を騙して手に入れるという感じではありません。

つづく。