眠り3回目

無線Wi-Fi親機設定の予備日として空けておいた日曜。Wi-Fi設定がサクッと終ったので、空いた日曜日は新国立劇場の「眠れる森の美女」を観に行きました。

この日は木村・渡邊組の日です。今回の眠れる森の美女は初日(米沢・井澤組)、2日目(小野・福岡組)と続いて、3回目。といっても初日は前日の寝不足で、2幕の幻影の場から目覚めのパドドゥまで寝落ちしてしまったので、見足りない気分で3回目に臨む。

最終日を観ての簡潔な感想は、「3回観た中で、デジレ王子は渡邊君が一番良かった。」

3キャストとも全然別の席で観たので、まったく同じ条件での感想にはなりませんが、渡邊君は身体にキレがあり、演技面でも物語を感じさせました。ジャンプは軽いし、ピルエットは軸がブレない。そして演技からは台詞が聞こえるようでした。

幻影の場でリラの精からオーロラ姫の幻影を見せられ、「なんて美しい人なんだろう」と心に姫の姿をしっかり刻む。もう一度オーロラ姫の姿を目に焼き付けようと振り返ってみると、既に姫の幻影は消えている。姫の姿を見せてくれるよう、リラの精に懇願する姿が、作りものじゃない自然さを備えていました。

オーロラ姫の幻影を目にする前後で、踊りの質も違います。随行の狩りの貴族たちと離れ、ひとり物思いにふけって踊る姿は、憂いを抱えている人物。憂いを抱えているときは憂いがサマになる。そして、オーロラ姫の幻影を目にした後に踊る姿は、自分の欲するものが明確になり、喜びと内に秘めた情熱を持つ人物。表面は静かだけれど、内面から情熱がにじみ出てくる。演技と踊りが分断されているのではなく、自然に物語の中の人物の雰囲気が漂っています。艱難辛苦(?)を乗り越えて実物のオーロラ姫にまみえると、やっと会えたという感慨深さと一瞬でも目を離したくないほど惹かれているデジレ王子の心の動きがこちらにも見えてきます。

最終日のリラの精は寺田さんです。個人的には寺田さんのリラの精が一番好き。カラボスと対するとき、決して険しい表情は見せず、終始穏やかな表情。カラボスが作った緊張感高まる場面を、一瞬で春の柔らかな空気に変える。笑みをみせた穏やかな表情だけれど、カラボスの横暴に一歩も引かない内面の強さや高潔さ。

そして幻影の場では、冷静にデジレ王子の人品を見極める。デジレ王子を完全に見極めるまで、王子がオーロラ姫の幻影に近づくのを優し気な表情で何度も阻止するリラの精。寺田さんのリラの精は、柔らかくて強い、毅然として聡明でした。何より容姿が美しいのもポイント高し。

オーロラ姫は、木村さん。木村さんは舞台人に最も必要な「華」を持っている、天性の主役ダンサーです。華がなければ、どんなに上手くても容姿が美しくても誰も見てくれません。といっても木村さんはテクニックも強い。

オケの速い音に合わせて、音に遅れることなく、破綻することなく素早いパで舞台を一周する。オケの音が速いので、踊りが音に外れてしまうかとハラハラしながら見ていましたが、ダンサー側の要望で速いリズムだったのかもしれません。ローズアダージオではアティテュードバランスの強さをいかんなく発揮していました。

木村さんも渡邊君もフレッシュなダンサーなので、2幕の目覚めのパドドゥが初々しい。何度も舞台を踏んで主役を演じて円熟した踊りや演技をモノにする一方、ともするとフレッシュさは失われていくことがあるので、今しか見られないだろう2人のフレッシュさを味わいました。2人の目覚めのパドドゥを見た若い女性は、キュンっとするのではないでしょうか。

他のダンサーについて。群舞で同じ踊りを踊っていても、ダンサーによって違いがありますね、当然ですが。オーロラ姫の友人役、研修所出身の益田さんと加藤さん。並んだ2人の同じ踊りが、加藤さんは「シュッ、ピタッ!」、益田さんは「ふわっ、ピタ」。ちょっとした違いですが、生身の人間だからどうしても踊りに個性が出てしまうのが面白い。

中家君の式典長。貴族のする化粧というより歌舞伎役者の白塗りに近い。白塗りの白さ加減が強くて、周囲から浮きまくりです。なまじ長身で体格が良いものだから、3幕冒頭のマントを翻して舞台中央を歩く姿なんて、特撮ヒーローものの悪役が登場したように見えます。人類の範疇に入っていない感が強い。

フロリナ王女の池田さんは、回転系が安定しています。この日も男性ファンに大人気で、声を限りに叫んでいるようなブラボーが多かったです。色白、童顔でかわいらしいから人気があるのも分かります。