3日目は五色ヶ原山荘まで行く

立山ツアー3日目のメモ。

3日目の朝は夜明け前に起きだして、4時半前から一ノ越山荘の外で日の出を待ちます。雄山を見上げると、日の出を雄山で迎えようとする人たちのランプの明かりが、登山道に点々と見えます。夜明け前の外は寒い。だんだんと明るくなってくるなか日の出を待っていると、山荘の人がガラっと窓を開け、「富士山が見えますよ。」と教えてくれました。

えっ、富士山?富士山が見える?そうです、ギザギザとした山頂部分が山の間から見えていたのです。2日目に一ノ越山荘到着後、さんざん山並みを眺めていたのですが、山頂部分だけの富士山にはさすがに気づきませんでした。もう少し下の部分まで(冠雪時だったら冠雪部分と雪に覆われていない部分の境目辺りまで)見えていれば気づいたでしょうが。言われてみれば、確かにあの上部のギザギザがある台形の形は富士山。

まだかな、まだかなと待っていたモルゲンロートですが、太陽は山の陰に隠れてしまい、一ノ越山荘そばからはっきりと見えません。そのため山の陰から漏れてくる光で、山並みにきれいに光が当たりません。そんなわけで少しだけ山並みがピンク色になったかな、という程度で諦めました。きっとこれ以上待ったとしても、もっと多くの部分が赤く染まることはないと。

一ノ越山荘の朝食は並んだ順、早い者勝ち。提供開始時間前から列を作って並んでいると、きれいにテーブル上に配膳されている朝食セットが目に入ります。個々の席には、固形燃料で加熱する鍋のようなものがセットされています。あれは何?と思っていたら、目玉焼きを焼くための浅い鍋でした。予め鍋にはミックスベジタブルがセットされていて、卵をコンと割って入れたら蓋をして焼き上がりを待ちます。時間がかかるかと思いましたが、思ったより早く焼きあがります。アツアツの目玉焼きが食べられるのは嬉しいサービスです。

3日目は初日、2日目よりは暖かい気がするものの、やはり早朝は寒い。この日は五色ヶ原山荘までの行程です。まずは2日目の縦走路から見えた富山大の施設がある、浄土山へ。道々、早朝から働くヘリが快晴の青空を飛んでいく姿を何台も見ました。救助のためのヘリではなく、物資をぶら下げて山小屋に必要なものを運ぶヘリです。物資を運んでくれているヘリを見ると、嬉しいようなありがたいような気持になります。

ここも別山同様、最初に南峰に行き、ザックを置いて北峰に向かいます。北峰には遠目から何かの遺跡のようなものが見えます。北峰に向かう途中の登山道は、霜柱が降りていました。水たまりみたいな小さな池のようなところは表面に氷がはっています。寒いはずです、8月中旬なのに霜柱に、池の表面の薄氷。

北峰に近づいていくと、ロープが張ってあって石組みの遺跡状のものの近くには、立ち入ることはできません。遺跡のようなものは慰霊碑でした。霊山で大切に守られている慰霊碑。

浄土山の次は龍王岳そばの巻き道を通ります。岩でできた龍王岳は管理された登山道がありません。そのため登頂はせず、巻いていきます。それでも自己責任で登っている人はいるわけで、踏み跡をたどって果敢に登っている人もいました。他人事ながら、大丈夫なのかと心配になります。

次の鬼岳も登頂せず、巻きます。巻くといっても、けっこう急な岩場のの道を下っていきます。金属製の梯子も下っていきます。鬼岳の巻き道は時期によっては雪渓になっているそうですが、この日の通過時には巻き道からかなり下の方にまで、雪渓は後退していました。よって、雪渓上を歩くこともなく、ゴロゴロしているけれど平坦な登山道を苦労なく歩くことが出来ました。

龍王岳、鬼岳は巻きましたが、次の獅子岳は登ります。獅子岳に登る手前にちょっとしたスペースがあるので、一ノ越山荘でもらったお弁当で腹ごしらえです。ここは他の登山者も休憩していたので、獅子岳に登る前に一休憩する定番の場所なのかもしれません。

獅子岳は久々の登りらしい登りで、山頂に着くまで地味にキツい。獅子岳への登りは花がたくさん咲いていました。クロユリがあるという情報を聞いたのですが、どこにあったのか気づきませんでした。開花時期ではなかったのかもしれません。クロユリは見られませんでしたが可憐できれいな花々に慰められながら、頑張って登り続けます。

獅子岳山頂は広くはないけれど、狭いという程でもありません。視界が開けていて気持ちが良い。黒部湖も見えます。山頂では我々ツアー一行を惑わす黄色いアゲハチョウがひらひらひらと飛んでいました。

せっかく登った獅子岳ですが、ザラ峠を下っていきます。ザラ峠までの下りがザレた急な道で、気が抜けません。ところでザラ峠は漢字で書くと「佐良峠」。一ノ越山荘に貼られたポスター(だったか?)に書いてありました。何だか納得のいかない漢字です。漢字の字面を見ると、険しい雰囲気は感じません。なぜこの漢字?カタカナの「ザラ」だと、ザレた道なんだなと見当がつきやすいのですが。

いったん下った峠ですが、五色ヶ原山荘までは登り返します。険しい登りではありませんが、もくもくと登っていきます。目を転じると、緑の植物に覆われた山肌や、一方で植物が一切生えていない赤土が露出し山肌が崩壊したような斜面が見えます。

どこまで登っていくのだろうと思っていると、木道が敷かれた道にたどり着きました。前方には赤い屋根の五色ヶ原山荘が見えます。山荘への道は、綿毛になったチングルマがたくさん生えています。その他にも高山植物の花ががたくさん咲いています。圧倒的にチングルマが多く、ここはチングルマの大群生地のようです。もう少し時期が早かったら多量のチングルマが咲いていて、さぞきれいだったことでしょう。山に囲まれてぽっかりと広がった高原は、天上の楽園のような雰囲気です。

五色ヶ原山荘で泊った部屋は2階。窓からは五色ヶ原が一望できます。何だかアルプスの少女ハイジのテーマソングを歌いたくなります(歌わなかったけど)。他の部屋からは富士山が見えました。一ノ越山荘のときのように天辺部分が見えるのではなく、一目で富士山と分かる形で見えます。

五色ヶ原山荘は、雨水などを貯めて水を使用しているのですが、お風呂があります。男湯・女湯が別々にあるのではなく、時間制で(30分交代?)男湯・女湯に変わります。もちろん石鹸などは使えませんが、山奥の高原で汗を流せるだけでもありがたいです。

流しの水は飲料水用でありません。ミネラルウォーターを購入するか、スタッフの方に頼んで無料の塩素入りの水をもらうことになります。わたしは粉末のポカリスエットを入れるので、塩素入りの水をスタッフの方にもらうことにしました。どこで入れるのかと思っていたら、スタッフの方がボトルを持って厨房に入っていきます。無料の塩素入りの水は厨房の蛇口から入れてもらうのでした。ですから宿泊者が自由に汲めるようにはなっていません。

五色ヶ原山荘の乾燥室。ここの乾燥室は、隣にある建物(発電機器などが入っている?)からダクトで繋がれて、自然風より若干温かい風が流れ込んでくる仕組みです。暑すぎることもなく、いい風が入ってくるので乾きもなかなか。

夕飯は千切りキャベツ添えエビフライ2本、もやしのナムル(?)、ナスの煮びたし、春雨サラダ、漬物、白米、玉ねぎのお味噌汁。玉ねぎのお味噌汁は苦手ですが、ここのお味噌汁に入っている玉ねぎは、じっくり火を通して柔らかく甘くなっていたので美味しかったですね。

食後はいつも通り、夕日に染まる周囲の山々を見ます。よく飽きないなと思いますが、きれいに染まった美しい山を見るのは楽しい。富士山もきれいでした。ここ、本当に天上の楽園かもしれません。

翌日の出発時間が早いので、星空観賞はお預け。チングルマが満開のときにまた来たい山荘だと思いながら、3日目は終了です。

2日目は別山、真砂岳、大汝山、雄山

立山三山縦走ツアー2日目のメモ。

1日目の雨空はどこへやら、2日目は晴れました。ガイドの方によると、3泊4日のツアーのうち、1日目以外は晴れと予想されていたので、初日の強い雨風の中突っ込んでいったのだとか。

朝食から出発まで時間があったので、小屋の外に出てみると、公衆トイレの建物の近くに立っている人たちが、ガスった谷底に向かって手を振っている様子が目に入りました。ガスが湧いている谷底では人影など見えるはずもないし、あの人たちは何をしているのだろうと近づいてみます。

すると、ガスの中に丸く虹がかかって、輝いた虹の中に影が映っています。ブロッケン現象です。みなさんブロッケン現象で映った自分の影を確認するために、手を振っていたのでした。ブロッケン現象は初めて見ましたが、神秘的です。ブロッケン現象を科学的に解明できなかった昔の人が、神や仏の姿が谷間に見えたと思っても不思議ではない、神々しさです。すかさずスマホで写真を撮りましたが、スマホ内蔵カメラの性能が良くないため、ちっとも綺麗に写らなかったのが残念。

2日目の行程は、剱御前小屋に近い別山に登ることから始まります。晴れてはいるものの風が強くて寒く、夏用のウェアの上に、雨具の上下を着て出発です。靴はまだ濡れています。別山は小屋から本当に近く(ルートタイムは30分)、あっという間に南峰に着きます。別山南峰には祠あり。雪から守るため周りを石で囲われていて、正面にまわらないと祠は見えません。

南峰にザックを置いて、身軽になって北峰にも足を延ばします。南峰と北峰の間には池があり、池の半分近くはまだ雪が残っています。池の水は日光を反射して、キラキラと輝いている。いい気分で北峰までの登山道を歩いていると、ハイマツからヒナが2羽とそのあとを追って親鳥が出てきました。雷鳥の親子(ヒナとお母さん雷鳥)です。初めて野生の雷鳥を見られました。今回立山ツアーに参加したのは、立山なら雷鳥を見られるはずという期待もあったので、目的達成!雷鳥はハイマツで食・住をまかなっているそうなので、朝ご飯を食べた後のお散歩だったのかもしれません。我々ツアー一行に気付いて慌てるでもなく、急ぐわけでもなく、ふつうにツアー一行の目の前を横断していきました。かわいい。

別山北峰に着くと、目の前に剱岳がドーン!南峰からも見えましたが、北峰からはさらに近い。ガスがかかった剱岳は、そんじょそこらの登山者を寄せ付けない雰囲気を放っています。登りたいという気にもなりませんが、どうやって登るのか見当もつきません。ツアー仲間の中には、剱岳に登る!と決意している人もいましたが、すごいなぁ。

北峰から南峰に折り返して、次は真砂岳へ。真砂岳は何故だろう、あまり記憶にありません。真砂岳の標識を撮った写真があるので行ったはずなのですが・・・。

が、山の記憶はないけれど、青空にくっきりと山の稜線がなだらかな線を描いて浮かびあがる様を見ながら、縦走路を気持ちよく歩いた記憶はあります。眼下にカールを眺めながら歩いていったなぁ。

真砂岳からザレた道を歩いて、富士ノ折立のそばを通ります。富士ノ折立はガラガラとした岩山なので、そばから眺めるだけ。登りません。

富士ノ折立からすぐに大汝休憩所があります。大汝休憩所前に休憩スペースがあり、休憩所内で休まない登山者は、ここで行動食を取ったりしています。わたしも剱御前小屋で用意してもらった昼食用のお弁当の一部をいただきました。まだ時刻は10時半ごろでお昼にはまだ早いのですが、13時頃には2日目の宿泊先、一ノ越山荘に着く予定だったのでいい頃合いかと。

剱御前小屋で用意してもらったお弁当は、おにぎり2個、チーカマ、真空パック(?)入り鮭、チーズ、ミニゼリーでした。おにぎりはコンビニで売っているような、海苔を食べる直前に巻くタイプのもの。おにぎりの包装紙には何味か書いてありません。食べてみると、初めに昆布の佃煮が出てきて、次に紫、そのあと小梅。昆布と紫と小梅が一つのおにぎりに入っていたわけで、そりゃ何味と表記しないよねと妙に納得しました。

それにしても大汝休憩所前は寒かったです。誰かが気温は5度と言ってましたが、風も強かったので本当に寒かった。この時はまだ防寒のための雨具の上下を身に着けていましたが、寒くて雨具を脱ぐ気にならず。

大汝山の山頂らしき標識が立っている場所は、岩が組み合わさった、人ひとりが立てそうもないスペースです。危ないので上まで登っちゃダメとのガイドさんの言葉で、危なくない程度のところまで岩を登り、木製の「大汝山3015m」というプレートを持って記念写真を撮るツアー仲間。他の登山者団体(韓国人グループ)も記念写真を撮りたくて並んでおり、時間がかかりそうなのでわたしはプレートだけ撮影しておしまいです。

大汝休憩所から雄山はすぐ。時間に余裕があるので、雄山山頂でお祓いをしてもらったり、御朱印をもらったり、思う存分記念写真を撮ったりしてツアー一行は雄山を満喫しました。

わたしはお祓いをしてもらうことにしました。500円払って、山頂のお社に続く道を入っていきます。鈴のついたお札のようなものをいただきましたが、このお札、雄山に行く道々で登山道に落ちているのをたびたび見かけました。細い針金がついたお札をザックに括り付けておいたら、歩いているうちに千切れて落ちてしまったのでしょう。お札をもらって意気揚々とザックにつけていたのに、いつの間にやら落としていたらショックだろうな・・・。

お社に続く道の途中で、前のグループのお祓いが済むまでしばし待機。お社までの交通整理をするための神社スタッフの方が一人。交代制でしょうが、高度感のある狭い場所で風の強い日に居続けるのは大変そうです。

前のグループのお祓いが終わって山頂からはけたら、いよいよ山頂のお社に続く階段を昇っていきます。山頂に着くと、そんなに広くはないスペース。小さなお社があります。曙のような色の衣を纏った神主さんが一人。神主さんはなれたもので、お祓いが終わった後は時間を取れないのでお祓い前に写真撮影をするよう、参拝者に促します。「雄山頂上 標高3003m」という富山県の標識があったので、すかさず撮影。ひととおり写真撮影が終わったら、参拝者は玉砂利(?)の上に座ってお祓いを待ちます。参拝者は結構みっちりと座っていて、広くはないスペースに軽く30人以上はいたと思われます。

神主さんが祝詞をあげてお祓いをしていただき、お祓いが終わったらお神酒がふるまわれます。順番にお猪口がまわってきますが、注がれたお神酒はすべて飲み干さなくてもいい。お酒がダメな人は、無理にお神酒をもらわなくてもいい。

雄山は多くの参拝者、というか登山者で賑わっていました。普通の神社にあるお守りも売ってますが、カップヌードルや軽食、ジュースも売ってます。カップヌードルを食べている人がいましたが、どうして山で見かけるカップヌードルは美味しそうに見えるのでしょうか。

雄山でゆっくりしたら、この後は2日目の宿泊地、一ノ越山荘へ。雄山から一ノ越山荘までの下りはガレた急坂です。前の人と意識的に間隔をあけて、石を落とさないように下ります。下りと登りの道は分かれている部分もあるようなのですが、登りの矢印がついた道が険しいため下山路の方を選んで登ってきてしまう人もいます。そして室堂から整備された石畳の道経由で雄山に登ろうという人の中には、ビーチサンダルでガレた道を登っている人もいました。雄山からの下山路を下り終わって、雄山を見上げると、かなりの高度感があります。

一ノ越山荘には13時過ぎに到着です。早い!今回の立山三山ツアーは1~3日目までの行動時間が短い。そのため早めに山小屋に着いて、あとはのーんびりと過ごします。登山ツアーに参加すると大抵慌ただしいものですが、ゆっくりのんびりのツアーもいいものです。

一ノ越山荘で宿泊した部屋は2階で、窓から見える景色は山側ではなく、室堂・町側。日が暮れてくるとはるか遠くに町の明かりが見えます。反対側の山側の部屋だと、槍ヶ岳や富士山などの山並みがずらーっと見えるのです。翌日の朝、モルゲンロートを見ようと夜明け前から外で待機する必要もありません。夕日に染まる山々も窓から見られます。山側の部屋がうらやましい・・・。といっても一部屋3人(定員は5人位?)で使えたので、町側の部屋もゆったりとして良い部屋でした。紙製の枕カバーは、いらないかな・・・。ちなみに一ノ越山荘のトイレはとても清潔でした。

山荘の乾燥室は、温風機のようなものはなく、自然乾燥でした。着ていたウェアはそれで間に合うとして、初日にびしょ濡れになった靴の内部はまだ湿っており、靴下も靴からしみ出た水分で濡れています。寒いものの、日差しはたっぷりある一ノ越山荘前の広場。ガイドの方やツアーメンバーは山荘前の日当たりの良いところに、靴と靴下を天日干ししています。わたしも真似して靴と靴下を天日干し。結果、夕飯前ぐらいまで数時間干していましたが、完全に乾きはしなかったもののかなり乾きました。天日はすごいな。

一ノ越山荘の夕飯メニュー。この日は、白米、お新香、ゴロゴロ野菜のシチュー、里芋と高野豆腐の煮物、一口カツ、千切りキャベツ、オレンジ一切れ。飲料水は無料で汲み放題です。室堂に近くて物資を入手しやすいからか、売店のホットココアは剱御前小屋より若干お安め。山荘内の1階トイレ前のスペースでストーブがついていたくらい2日目も寒かったので、温かいものが欲しくなります。

さて、一ノ越山荘から見られる夜空ですが、室堂から近くて辺りが完全に暗闇でないからか、思ったほど星は見えません。見えないわけではないのですが、降るような星空という感じではありません。アクセスしやすい一ノ越山荘ですが、星空だけが少し残念でした。そんなこんなで2日目は終了です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

剱御前小屋へ

立山三山縦走ツアーに参加したのでメモ。

初日の行程は、室堂から剱御前小屋まで。晴れていれば雷鳥平から剱御前小屋まで、少々急登なところはあれど、手こずるようなところはないと思うのです、晴れていれば。ですがこの日は低気圧の影響で、雨風強い日でありました。

剱御前小屋まで何とか雨が降らないで欲しいという願いも虚しく、室堂に向かうバスの中で無情にも雨は降りだしたのでした。車窓から野生の猿を見たり、称名滝を見たりで、曇っているものの楽しいバスの中。しかし、室堂に近づくにつれ、小雨から本降りへと雨は移行します。

室堂で出発前に昼食休憩を取っている間も、雨はやむ気配はありません。添乗員さんとガイドの方の会話が聞こえてきます。「剱御前小屋のスタッフから、本当に来るんですかと言われている。」と。立山に以前来たことのあるツアー参加者は、「この雨の中、剱御前小屋まで行かずとも、雷鳥荘までで良いんじゃないか。」と言っています。

そんな声がある中で、この後、天気が良くなる見込みもないので、出発時間になると予定通り出発することになりました。風に煽られないように、普段ストックを使っていない人も2本ストックを使うよう指示があり、慌ててストックの準備をします。

室堂バスターミナルを出ると、ビョービョーと強風が吹いていて、雨も強い。雨粒が顔に当たると痛い、痛い。後で聞いたところによると、普通の雨ではなく、あられが降っていたそうです。痛かったわけですね。室堂は風の吹き溜まりで、天気の良い日も風が強いそうですが、それにしても風が強い。いつもの雨天時と同じ具合で雨具のフード被っていたら、強風でスポッとフードが脱げてしまいます。フードの顔周りの紐をきつめにして脱げないように調節しなくては。

強い雨風の中を進んでいくツアー一行ですが、あまりの雨風に耐えられず、途中、雷鳥荘で小休憩をさせてもらいました。宿泊者でもない濡れそぼったツアー一行を休憩させてくれた雷鳥荘の方々、ありがとうございました。

雷鳥荘で小休憩した後も、剱御前小屋を目指して山行は続く。雷鳥荘近くで雷が一回ゴロッと鳴ったのですが、一回鳴っただけだったのでそのまま続行です。ガイドの方に後で聞いたことですが、雷が続くようだったら剱御前小屋まで行くことはやめ、雷鳥荘で宿泊することも考えたそうです。雷が鳴ったのが一回だけだったのが、良かったのか悪かったのか。雷鳥荘ならお風呂があって、冷えた身体を温められたはずということですし。

雷鳥沢キャンプ場は、激しい雨風のため、さすがにテントは張られていませんでした。(しっかり目視したわけではなく、強風の中チラ見だったので、もしかしたらテントを張っていた剛の者がいたかもしれません。)剱御前小屋に行くには、木の橋を渡っていきます。橋はしっかりしていますが、その下を濁流がゴウゴウとすごい勢いで流れているので、万一ツルっと滑って落ちないように、慎重に一人ずつ渡ります。

橋を渡れば剣御前小屋に続く登山道を、ひたすら登っていきます。しばらく行くと地形的に風の勢いがそがれる箇所に至ったのか、風が弱まった所に出たので小休憩。

小休憩をしていると、後ろから大学か高校の山岳部風の3人組が登ってくるのが目に入りました。自分たちもそうですが、何もこんな日に登らなくてもと思います。大きな荷物を背負って(テント背負っている?)、体力のある若者たちは追い抜いていきます。

風が弱い登山道での小休憩が終わったら、再び登山開始です。雨風が弱くなるのかと思ったら、またまた強風が吹きつけ続け、強い雨も容赦なしに降り続きます。

そんな中を歩き続けていると、防水グローブ(といってもテムレス)の中にいつの間にやら雨水が侵入し、手先が濡れているのに気づきます。そして強い雨のため登山靴の表面から雨水が浸透してきたのか、スパッツをつけていなかったので足を上げるたびに雨具のボトムの裾と靴の間の隙間から雨水が侵入してきたのか理由は分かりませんが、靴の中も雨水で濡れてきました。靴の中はちょっと湿ったなんてレベルではなく、歩く度にぐちゃぐちゃと入り込んだ水の音がします。靴下も完全に濡れています。(後でスパッツを装着していたツアー参加者に聞いたところ、スパッツをしてても靴の中に雨水が浸み込んで靴の内部がぐっしょりだったとのこと。)

普通の登山ツアーだと1時間に1回程度は休憩があるのですが、休憩に適した場所もなく、既に前の休憩から1時間半以上も歩き続けています。息が苦しい、喉も乾いた、でもここで休憩を取ったら、低体温症になってしまうのではないか。いや、手先足先は濡れて冷たくなってしまっているけど、その他の部分は濡れておらず体幹部分は温かいから、まだ低体温症にはならないか、でも背中は汗をかなりかいて湿っているし、などと考えながら、自分の足元1~2m先の登山道を見つめ、周囲を見る余裕もなく登り続けました。

虚ろな感じで登り続けていると、ガイドの方の「あと10分で、剱御前小屋!」との声。気力を振り絞って顔を上げても、雨で曇った前方には小屋らしき建物は見えません。参加者を元気づけようと、あとちょっとと言ってるだけではないかと疑念を抱いてしまいます。

 「あと3分!」とのガイドの方の言葉で顔を上げると、剱御前小屋の姿が目に入りました!この時は嬉しかったです、足取りが確実に軽くなったもの。ガイドの方の「あと10分」の言葉は本当でした。疑った自分の弱さが恥ずかしい。

剱御前小屋では玄関に入る前に、椅子・テーブルが置いてあるちょっとしたスペースで、雨具を脱ぎ、ザックカバーを外しました。小屋についてちょっと放心したような感じもしますが、事故も起きず、ツアー参加者はみんな無事でした。今になって思うと、初対面でお互い良く知らない人たちばかりのツアー一行で、みんなよく頑張ったなあという感じです。

剱御前小屋で通されたのは2階の突き当りの部屋。女性陣2部屋、男性陣1部屋を割り当てられました。部屋の中は常時(?)、薄い布団が敷いてあり、ザックは室内に持ち込み不可です。宿泊者が少なかったためか、一人当たり布団2セット分のスペースを使えました。広々使えて快適です。

剱御前小屋の乾燥室には、ゴーッと強力な温風を送る機器が置いてあります。常時温風が送られているわけではなく、タイマー式なのか、時間が経つと温風は切れます。強力な温風のおかげで、雨具やザックカバー、靴下をはじめとした衣類を吊るしておくと、厚手のものを除き、すぐに乾きます。乾燥室に靴を入れるとソールが剥がれやすくなってしまうという忠告がありましたが、靴も内部がぐっしょりと濡れているので自己責任で乾燥室へ。小屋のスタッフの方が2回、温風器をつけてくれましたが、靴下や靴の内部は翌日までに完全に乾きませんでした。ゴアテックスを使った靴は水の侵入に強いけど、一旦内部が濡れると乾きにくいとツアー仲間に教わりましたが、そういうものなのでしょうか。

部屋の中は暖房機器がないので暖かいとは言う程でもないのですが、小屋の談話室や入り口近くにストーブがついていて、暖かい。ホットココアを注文し、ストーブのそばでぬくんでいると、まだまだ剱御前小屋に宿泊する人がやって来ます。他人のことは言えませんが、こんな日に来るなんて、みんな何考えているんだろう。

夕食を食べたら、明日に備え早めの就寝です。この日のメニューは白米、油揚げのお味噌汁、鶏のから揚げ、きんぴらごぼう、トマト1カット、千切りキャベツ、オレンジ1カット、冷ややっこ、きゅうりが入った春雨サラダでした。食事時にお茶は出ますが、剱御前小屋では無料の飲料水はありません。500ミリリットルペットボトル(400円)か2ℓ入りペットボトル飲料水(900円)を購入することになります(お酒もあります)。

ちなみにツアー初日のこの日、写真を撮ったのが剱御前小屋の夕食のみでした。いかに写真を撮る余裕がなかったかを物語っています、トホホ・・・。

 

 

世界バレエフェスティバルBプロ(8/9@東京文化会館)②

今更の感もありますが、バレエフェスBプロ①の続き。

メリッサ・ハミルトンとロベルト・ボッレの「ロミオとジュリエットより第1幕のパ・ド・ドゥ」。バルコニーのパ・ド・ドゥ。バルコニー上のジュリエットの視線と、客席に背を向けて立つロミオの視線が強く絡み合っているのが分かる。ただ2人が視線を合わせているだけなのに、何かが始まる気分が高まり、舞台上の2人に目が離せません。視線って雄弁なのですね。

ボッレのリフトは、メリッサ・ハミルトンの体重を感じさせないスムーズさ。ボッレもいいお歳なんだから、走り回ってリフトの多いロミオ役はきつかろうと思っていましたが、ボッレは劣化しない。

ミリアム・ウルド・ブラームとマチアス・エイマンの「ジュエルズよりダイヤモンド」。悪くはないです。ダイヤモンドという作品を見ると、どうしてもロパートキナを思い出してしまうので、今回の2人についてのメモは省略。

アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーの「マノンより第3幕のパ・ド・ドゥ」。沼地のパ・ド・ドゥ。このシーンは、ボロボロになって死が間近のマノンをどこまでも支えてついていくデ・グリューの献身的な愛が見られるところです。コジョカルとコボーが演じると、コボーと2人ならどんなことがあっても、どこに行っても怖くないというコジョカルの強い愛が見えてきます。対するコボーはコジョカルマノンの強い愛を包むような、おおらかな愛をみせます。コジョカルって本当にコボーが大好きなんだなと再認識させられた演目です。

サラ・ラムとフェデリコ・ボネッリの「アポロ」。Aプロでもその良さが分からなかった「アポロ」ですが、相変わらず分かりません。ですが、2人が踊ったAプロの「コッペリア」よりは面白く鑑賞しました。

アンナ・ラウデールとエドウィン・レヴァツォフの「椿姫より第3幕のパ・ド・ドゥ」。物語を感じる。以下、略。

エリサ・バデネスとダニエル・カマルゴの「じゃじゃ馬馴らし」。男勝りのキャタリーナを余裕であしらうペトルーチオ。かと思うと反撃にあったりして、二人のすったもんだは、いつ見ても面白い。

アレクサンドロワとラントラートフの「ヌレエフよりパ・ド・ドゥ」。ブノワ賞を受賞した作品からのパ・ド・ドゥということで期待してました。が、衣装がシンプル、セットも特になくシンプルという具合で、どういった場面なのか良く分かりませんでした。ラントラートフがヌレエフ役なのだから、ヌレエフに関わる女性と言えばマーゴ・フォンテイン。ということはマーシャはマーゴ役か、というのは何となく分かりましたが。普通に美しい、愛あるパ・ド・ドゥでした。

マリア・アイシュヴァルトとアレクサンドル・リアブコの「アダージェット」。なんというか、染み入るような作品。アイシュヴァルトは表現力のあるダンサーだし、憑依型ダンサーのリアブコは作品の底流に流れるものを掬い取り、表現する感じ。って、自分でも何書いているのか、良くわかりません。

フェリとゴメスの「オネーギンより第3幕のパ・ド・ドゥ」。バレエ「オネーギン」の最後の場面ですが、女優ダンサー、フェリの本領発揮です。

タチヤーナの部屋を前にして、逡巡するオネーギン役のゴメス。その様は、自分を受け入れてもらえるか、恋に憶病になっている初心なティーンエイジャーのようです。かつてタチヤーナの恋を弄んだ、余裕のある青年の姿とは全く違います。一方のタチヤーナはオネーギンからの恋文に深く悩んでいます。

意を決して、タチヤーナの部屋に入るオネーギン。拒みたいのに拒みきれない、オネーギンに心惹かれ揺れる理性が見えるタチヤーナ。みっともなく這いつくばってもタチヤーナの心を手に入れたいオネーギン。二人の濃密な舞台に目が離せません。

ついに、オネーギンへの思いを断ち切り、わなわなと震えながら、オネーギンをまっすぐ見つめ、オネーギンからの手紙をビリビリに破るタチヤーナ。心破れたオネーギンは、ショック(と羞恥心?)のあまり一目散にタチヤーナの部屋を後にします。

一人、部屋に残るタチヤーナ。空を仰いで、泣き顔も隠さず、一心に泣いている。その様は、大人の女性にありがちな嗚咽ではなく、かといって慟哭というのとも違う感じです。幼い女の子が、ただ悲しいから人目もはばからず泣くような感じです。成熟した女性の顔の下に隠れていた、ただオネーギンに憧れて恋し、昔は表に出てこなかった少女の顔が、いま表に出てきて悲しんでいるような感じを受けました。

たった何分かのパ・ド・ドゥでしたが、全幕を観たかのような充実感でした。フェリの圧巻の演技に観客はそれぞれ自分なりの感銘を受けたのでしょう、お約束のような2回のカーテンコールでは収まらず、この日のキャストで初めての3回目のカーテンコール。

トリを飾るのは「ドン・キホーテ」。Bプロはコチェトワとシムキンです。あのフェリとゴメスの盛り上がりの後は、さすがの2人でも厳しかろうと思いましたが、想像を超えてきました。

シムキンのジャンプは軽く高く、ピルエットは軸が細くてブレず完全にコントロールしています。540を3連続して、思う存分、観客の熱狂を誘います。可愛らしい容姿のコチェトワもテクニックに不足なし。シムキンと最もバランスのいいパートナーは、やはりコチェトワだと再認識します。観客を熱狂の渦に巻き込むさまは、2009年の世界バレエフェス全幕プロの「ドン・キホーテ」を思い出させます。あの時の、地鳴りのような拍手に包まれた東京文化会館は忘れられません。この2人も3回のカーテンコールに迎えられていました。

長丁場で観るのが疲れる世界バレエフェスですが、この充実感はやはりすごいです。8/15のガラも1日だけのお楽しみということで、楽しかったのでしょうね。ちなみにガラは当選したのですが、用事があったため、定価以下の売買のみOKのサイトで売ってしまいました。購入された方が楽しんでくれれば、それで良いんです。

 

 

 

 

世界バレエフェスティバルBプロ(8/9@東京文化会館)①

今更な感もありますが、世界バレエフェスティバルBプログラムに行ってきたので、メモ。全部の演目についてメモすると長くなるので抜粋です。

オレシア・ノヴィコワとデヴィッド・ホールバーグの「眠れる森の美女」。良いじゃないですか、Aプロの「アポロ」より!「アポロ」が悪かったというより、わたしが「アポロ」という演目の面白みを分かっていないだけですけれど。ノヴィコワの弓なりに反る脚、高い甲が美しい。年齢を感じさせない可憐さの漂うお姫様でした。ホールバーグも、若々しく美しい脚のノーブルな王子でした。

ヴィエングセイ・ヴァルデスとダニエル・カマルゴの「ムニェコス(人形)」。初見の作品ですが、分かりやすくて楽しめます。

ヴァルデス演じる人形の女の子は、赤いトウシューズに赤系のスカートを身に着け、髪形はツインテールをそれぞれお団子状にして、ファニーだけどキュートな容貌。カマルゴ演じる人形は兵隊さん風で、スタイルの良さが引き立ちます。

夜になると動き出す人形の恋人たち。ファニーガール風の女の子人形は、動きもコミカル。兵隊人形のことが大好きという様子が伝わってきます。兵隊人形は、融通のきかない生真面目な感じです。2体でパ・ド・ドゥを踊りますが、朝の光が射しこんでくると、動きが鈍くなります。慌てて窓から入ってくる月の光を恋人に浴びせて、2体の幸せな時間を今一度作ろうとする。可愛くてコミカルなだけじゃない、幸せな時って長く続かないんだなぁということも感じさせてくれる演目でした。

レオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェの「ソナチネ」。これ、他のダンサーで観て寝落ちしたことありますが、今回は寝落ちせず。美しい演目でした。ピアノの美しい音と、若く魅力的な2人の舞が融合して、片時も目を離したくない。バランスが良く、雰囲気の良い2人に魅了されました。ボラックは個人的に好きなタイプのダンサーかも。

シルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコの「オルフェウス」。解説を読まないで観たので、舞台中央でヴァイオリンを持って佇んでいるリアブコが何の役柄なのか分からない。ついでに言うと、この演目が「オルフェウス」だということも忘れていたので、???と思いながら観ていました。

いつの間にかリアブコは、その昔、視覚障碍者がかけていたような黒いサングラスをかけ、アッツォーニと踊っています。サングラスをかけ、アッツォーニと手をつなぐリアブコは、視覚ではなく感覚でアッツォーニの存在を感じているように見えます。そして何だか苦悩している。物語を感じるけれど、何を表している演目だろうと上演中は思っていました。

そんな演目を、後の休憩中に作品の解説を読んで納得しました。オルフェウスが妻のいる冥界に下り、冥界を出るまでは妻の姿を見てはいけない、でも妻の姿を一目見たいと葛藤しながら、冥界の道を2人で手を引き歩んでいる場面を描いていたのだと。何も知らない状態の観客にも訴えかける、憑依型ダンサー、リアブコの表現力のすごさに感服です。

アリーナ・コジョカルとセザール・コラレスローラン・プティの「コッペリア」。コジョカルのプティ版コッペリア、似合ってました。可愛くて、踊りに余裕があり、「このダンサー、誰?」と思ったら、コジョカル。コラレスもカッコいい。

ドロテ・ジルベールマチュー・ガニオの「シンデレラ」。アシュトン版シンデレラはこの世でないどこか遠い国のおとぎ話という感じで可愛らしいですが、映画スターになるヌレエフ版は大人っぽくて近代的。ドロテがキラキラと存在感があり、まさしく映画スターへの階段を昇っていく新進スターのきらめきがありました。

タマラ・ロホとイサック・エルナンデスの「HETのための2つの小品」。ロホは劣化しない。以上。

アシュレイ・ボーダーとレオニード・サラファーノフの「白鳥の湖より第3幕のパ・ド・ドゥ」。オディールと王子のパ・ド・ドゥの場面。ボーダーのグランフェッテでダブル(トリプル?)のとき、両腕を天に向けて上げて回転するのが見もの。何回やったか定かではありませんが、フェッテの前半部分でダブル回転するときは手を挙げていたはず。ABTの白鳥の湖で、ジリアン・マーフィーが両腕を上下に羽ばたかせながらグランフェッテをやっていたのを観たことがありますが、テクニックに強いアメリカ人ダンサーはグランフェッテ時に腕の動きを加える傾向にあるんでしょうか。サラファーノフは軽くて、高い。

アリシア・アマトリアンとフリーデマン・フォーゲルの「椿姫より第2幕のパ・ド・ドゥ」。フォーゲルが若々しく、そしてアルマンの衣装が似合う。恋が成就した喜びを余すことなく情熱的にマルグリットにぶつけます。対するアマトリアンのマルグリットは病に侵されいるらしき様子が垣間見えますが、アルマンの愛情を精一杯受け止めます。このまま溺れるように幸せに浸っていられるのだろうか、という不安感ものぞかせながら。演技派な2人。

続く。

 

 

世界バレエフェスティバルAプロ(8/2@東京文化会館)

世界バレエフェスティバルAプロ(8/3)についてメモ。

暑い、長い、そして疲れた。長丁場で観るのも疲れますが、この酷暑の中、冷房きいている室内とはいえ、ダンサーもさぞ大変だと思います。

エリサ・バデネス、ダニエル・カマルゴの「ディアナとアクテオン」。明るい演目で観客のつかみはOK。ダニエル・カマルゴは540を連続して、見せ場を作っていました。

マリア・アイシュヴァルトとアレクサンドル・リアブコの「ソナタ(ウヴェ・ショルツ)」。情感のある作品です。上演された部分だけの作品なのか、もっと尺の長い作品なのか分かりませんが、他のパートがあるなら観てみたい気がします。アイシュヴァルトのファニーガラのノリの良さと、この作品でみせる情感の落差がすごい。ウヴェ・ショルツというと、木村規予香さんを思い出す。

マリア・コチェトワとダニール・シムキンの「ジゼル第2幕のパ・ド・ドゥ」。コチェトワとシムキンはバランスが良いペア。9年前の全幕特別プロ「ドン・キホーテ」のはじけた姿とは違い、情緒の世界を描き出します。コチェトワは風に吹かれるようでこの世のものではない存在感を漂わせ、一方シムキンは重力を感じさせ(動きが重たいという意味ではありません)生身の人間であることを表現します。うまい2人。

オレシア・ノヴィコワとデヴィッド・ホールバーグの「アポロ」。ノヴィコワとホールバーグは美しい。けれど、「アポロ」って、バランシンの作品の中では個人的に面白みを感じない作品です。玄人好みの作品なのかもしれません。近くの席の小学生ぐらいの子は退屈そうにしてました・・・。

サラ・サムとフェデリコ・ボネッリの「コッペリア」。かわいいけれど、なぜバレエフェスでこの作品を選んだのか・・・。

ヤーナ・サレンコの「瀕死の白鳥」。バレエフェスではどちらかというと、テクニックをばんばんみせるサレンコですが、今回は表現力で勝負。悪くはないです。

メリッサ・ハミルトンとロベルト・ボッレの「カラヴァッジオ」。暗めな照明の中、フォーメーションを変え続ける姿が浮かび上がります。コンテンポラリーは良く分かりませんが、退屈しないので見入ってしまった作品。ボッレの容姿は(遠目には)劣化しておらず、メリッサ・ハミルトンは身体能力が高い。

レオノール・ボラックとジェルマン・ルーヴェの「くるみ割り人形」。ヌレエフ版は細かいところで難しい。動きの中で、この動きの次は右に回転した方がスムーズだろうというところで、あえて左に回転するような細かい難しさ。ボラックとルーヴェの動きが回転速度、腕や脚を上げる角度などよく合っています。ボラックは正確な技術に裏打ちされた可愛らしい美しさ。ルーヴェは雰囲気がよく、もしかしたら現時点で最高の夢の国の王子様かもしれません。

オレリー・デュポンとダニエル・プロイエットの「・・・アンド・キャロライン」。オレリーのコンテンポラリーは初めて観ます。やはりコンテンポラリーは良く分からず、プログラムの作品解説を読んでから観たら、少しは内容が分かったかもしれません。記憶に残っているは、衣装の赤い靴下。

アレクサンドロワとラントラートフの「ファラオの娘」。分からないコンテンポラリーの次に来たのは、ボリショイ組のクラシック。ロシア人の伝統芸能クラシックバレエはいいなぁ。

ロシアの姐御、アレクサンドロワの元気な姿を観られるのは嬉しい。フェッテの回転速度が一定のペースを保って速く、アレクサンドロワ健在という感じです。ラントラートフはビシビシと技を決めまくります。会場は大盛り上がりで、2人の出番は終了。

タマラ・ロホとイサック・エルナンデスアロンソ版「カルメン」。技巧派であり演技派でもあるクレバーなダンサー、ロホのカルメン。強い女に扮したロホがかっこいい。アロンソカルメンは、ロシアの手足の長いダンサーによる上演を観ることが多いのですが、作品の舞台であるスペインの出身であるロホに合わないはずがありません。エルナンデスのホセは伊達男ではないけれど、もっさりした田舎者でもありませんでした。

エリザベット・ロスの「ルナ」。ベジャール作品なのでコンテンポラリーというより、モダンバレエといった方がいいのかな。すみません、疲れてきてあまりよく観てませんでした。

アンナ・ラウデールとエドウィン・レヴァツォフのノイマイヤー版「アンナ・カレーニナ」。 上演中は何の作品か分からず観ていましたが、物語を感じる作品です。後の休憩時間中に確認したところ、物語を感じるのはさもありなん、ノイマイヤー作品だったからです。

舞台上には現代的な衣装を身に着けた男女。心残りがあるような、物思いをしているような女性(アンナ)に、強引に自分に向き合わせる男性(ヴロンスキー)。2人の演劇的なパ・ド・ドゥが続く中、男の子(アンナの息子)が電車のおもちゃで遊ぶ幻影がアンナの心に浮かんでくる。ハッとして息子を失いたくない思いを溢れさせるアンナ。といった感じでしょうか。全幕を観てみたい作品です。

アシュレイ・ボーダーとレオニード・サラファーノフの「タランテラ」。この作品は大好き。テンポの速いピアノの音と、小気味のいい男女の踊りの掛け合い、ピアノと踊りの掛け合いが、とても楽しい。テクニックに不足のあるダンサーが踊ると作品の持つ軽妙洒脱さが無くなってしまいますが、テクニシャンの2人が踊ると爽快です。お祭りを盛り上げてくれる2人でした。

アレッサンドラ・フェリとマルセロ・ゴメスの「アフター・ザ・レイン」。以前英国ロイヤルバレエの映像を観たときは、ながら見で内容をよく覚えてませんが、こうしてガラで一部を観てみると情感があって素敵。40代で踊ったジゼルもジュリエットも素晴らしかったフェリは、50代になってもこんなに踊れるんだと目を見開かされます。ゴメスは見た目から受ける印象とは違い、相変わらず端正なダンサーです。しかし舞台上のゴメスを見ると、以前ファニーガラで踊ったバヤデールのニキヤ(女装姿を舞台で見せることが出来て、内心の嬉しさが滲み出ていた)の一連のパフォーマンスが どうしても浮かんできてしまいます。舞台上のパフォーマンスに集中しようとしても、あの衝撃のニキヤが頭から離れません。ファニーガラは楽しいけれど、こんな弊害があります・・・。

シルヴィア・アッツォーニとアレクサンドル・リアブコの「ドン・ジュアン」。表現力とテクニックを兼ね備えた2人が何か物語っているのですが、ドン・ジュアンの物語自体知らないので、どんな場面なのか今一つ分かりません。リアブコが一人残されるので、袖にされたんだなとは分かりますが、作品解説を事前に読んでおけば良かったと後悔です。

アリーナ・コジョカルとヨハン・コボーの「シェエラザード・パ・ド・ドゥ」。バレエのシェエラザードというとフォーキン振付のものを思い出しますが、今回コジョカルとコボーが踊るのは、リアム・スカーレット振付(世界初演)のもの。フォーキン振付の金の奴隷と寵姫ゾベイダの濃厚な色気を放つパ・ド・ドゥとは違う、恋の喜びをうたうかのような作品でした。役柄設定はコボーは金の奴隷、コジョカルはゾベイダでなのだよね、もしかして違う役柄?と思う程、フォーキン振付のものとは雰囲気が違います。コボーはヅラを取り、サイドやバックの頭髪も刈ってスキンヘッド。コジョカルのリフトに安定感があります。一方、コジョカルはコボーへの愛を隠そうとせず、ラブオーラを放ち、喜びを溢れさせるように舞う。コジョカルって分かりやすいダンサーだと思います。コボーと踊っている時が、他のダンサーと踊っている時とは段違いに輝いています。ラブオーラにあてられた演目でした。

ポリーナ・セミオノワとフリーデマン・フォーゲルの「ヘルマン・シュメルマン」。どこかで観たことあるな、フォーサイスっぽい作品だなと思っていたら、やはりフォーサイス作品。バンバン踊ってカッコよく、クスっと笑えるところもあって、セミオノワとフォーゲルに似合っていた作品でした。

ドロテ・ジルベールマチュー・ガニオの「マノンより第1幕のパ・ド・ドゥ」。この辺からかなり疲れてきて、ボケーっと観ていてあまり記憶にありません。

マノンとデ・グリューの寝室のパ・ド・ドゥです。ベッドから起き上がりデ・グリューに近づいていくジルベール演じるマノンがなまめかしさを漂わせていて、存在感あり。マチューは・・・老けた?

ミリアム・ウルド=ブラームとマチアス・エイマンの「ドン・キホーテ」。バレエフェスのトリはドン・キホーテ第3幕のグラン・パ・ド・ドゥ。キトリの衣装は黒、マチアス・エイマンの身のこなしが軽やかだった、盛り上がった、という印象です。

トータルで4時間半ぐらいかかったので、腰が痛くなるわ、眠くなるわ、疲れるわでしたが、世界バレエフェスのお祭り感はやはり良いです。大物スターがいなくて、随分小粒のダンサーだけになっちゃったねという意見もあるのでしょうが、わたしは充分楽しめたフェスティバルでした。

 

尾瀬沼経由して大清水へ

7時過ぎに桧枝岐小屋から大清水に向かって出発。尾瀬沼方面は行ったことがないので、どんな景色が待っているのか楽しみです。

尾瀬沼方面に行く道も木道が整備されています。木道の両側は笹が生い茂り、広葉樹や針葉樹が生えた普通の低山の中を進んでいく感じです。茶色と緑色でいっぱいの森の中で目に付く花は、黄色いマルバダケブキ。木道を横切って流れるちょっとした沢の流れが涼し気で、瑞々しい黄緑色の苔が生えています。

と、最初の方は森の中の景色を楽しんでいる余裕もありますが、意外に次の沼尻休憩所までが長い(見晴から沼尻休憩所までルートタイムで2時間15分位)。木道が終わり、両側を木々に挟まれた岩場を下ります。そして岩場が終わると・・・。

突然、視界が開け、山間にぽっかりと小さな湿原が広がっていました。白砂湿原に到着です。森の中の木道上では見上げても空は狭く窮屈な感じがしましたが、到着した湿原では空は青く高く、解放感を感じます。

岩場が終わって平坦になった道は再び木道が敷かれ、先へ先へと繋がっています。白砂湿原の間を通る木道には休憩スペースも設けられています。尾瀬ヶ原で終わりかけのようだったワタスゲが、ここではたくさん咲いています。尾瀬ヶ原の方では細長いナガバノモウセンゴケが多かったのですが、この辺りでは細長いものに混じって楕円形のモウセンゴケもわりあい目につきます。

さらに歩いていくと沼が見えて、沼のそばに新し気な建物が建っています。沼尻休憩所です。

階段を昇った先に大きなパラソルがいくつか設置された、ウッドデッキのテラスがあり、その先に缶ビールや清涼飲料水の自販機、店頭でアイスやお菓子などを売っています。わたしは給食で食べたことがある(と思う)クレープアイス(中に挟まれたクリームが冷蔵なら冷たく、冷凍にすれば固まってアイスにようになる)を購入(200円)。

尾瀬沼から渡ってくる風で涼しさを味わいながらクレープアイスを食べていると、桧枝岐小屋で出会った人が懐かし気に語った話を思い出しました。「何年も前に尾瀬沼方面に行ったときに、沼尻に年季を感じる休憩所があって、そこでお蕎麦を食べた。あの休憩所はまだあるのかなぁ。」

年季を感じる建物は見当たらないので、沼尻休憩所の店舗スタッフのおじさんに「お蕎麦を食べられる所があったと聞いたのですが」と尋ねてみると、

「3年前に発電機から発火して、周りに燃料をたくさん置いてあったので、火事ですべて燃えてしまいました。この建物は今月(7月)出来たばかり。今は太陽光発電になっています。お役所と水の問題で意見が合わなくて、ここで作ったものは提供できなくて・・・。」

そういえば、新しい休憩所のそばに焼けただれた木材が少し残っていました。この焼けた木片は何だろうと思っていたのです。火事で燃えてしまった跡だったんですね。水の問題というのは、塩素を入れた水でないと使ってはいけないと指導されていることのようです。そのままで美味しい水に塩素を入れるのも何だかなという気がしますし、お役所側が衛生面の心配から塩素を入れろというのも分かるし、うーん・・・。

という次第で、今のところ休憩所でお蕎麦を食べることはできません。おじさんが一人で切り盛りしていてとても忙しいらしいので、水の問題が解決してもお蕎麦を提供するようになるのかは不明です。売っているアイスや飲料は休憩所のおじさんが運んできているとのことで、懐かしいアイスのチョイスはさすがだなと思います。ちなみに休憩所のトイレも新しい。使用しなかったので中の様子は分かりません。

沼尻休憩所を後にし、大江湿原へ。シーズンには多くのニッコウキスゲが見られるという大江湿原ですが、尾瀬ヶ原同様、ここでもニッコウキスゲは終わりかけ。といっても尾瀬ヶ原より多くのニッコウキスゲが咲いています。そしてニッコウキスゲ以外の花もたくさん。コオニユリ、ヤナギラン、コバギボウシ、ミヤマシシウド、名前の分からない白い花。橋の上からは、小川の中に多くのヤマメがみえ、木道から離れた小川にはサギが1羽いました。来てみたかった大江湿原ですが、コンパクトに多くの花を楽しめました。

 大江湿原から尾瀬沼ビジターセンターはすぐ近く。

突然ですが、トイレのチップについて書いておきます。ビジターセンター近くの公衆トイレ外で、しばし荷物整理をしていました。そのあいだ観察していたたら、トイレのチップ払わない人が結構いる。それは沼尻休憩所の公衆トイレでも同じでした。荷物整理中に、トイレを利用しに来た人は5人。5人目の年配女性はチップを払ってましたが、その前の4人は払わず。チップ制に気付いていないわけではなく、チップ入れの箱をジッと見たのに無視です。どういったタイプの人が払うか否かは、年齢や見た目に関係ありませんでした。確実にチップを払ってもらう良い仕組みがないものだろうかと、考えてしまいます。強制的に徴収するようになると、チップ惜しさにそこら辺で用をたす人が出てきてしまうかもしれないしねぇ。

ビジターセンターの外には望遠鏡が2台設置してあって、燧ケ岳の山頂を見ることができます。望遠鏡を覗くと、岩っとした俎嵓(だと思う)に立っている人が見えます。今回尾瀬沼方面に来たのは燧ヶ岳の情報収集(どの登山道から登ったら良いか)のためでもありました。登頂している人を望遠鏡で見てしまうと、「登りたい!」という気持ちが強くなってきます。湿原を歩いていても暑かったのだから、燧ケ岳に登っている人たち相当暑いだろうなという気もしましたが。

肝心の燧ヶ岳登山おすすめルートですが、結局良く分かりません。山小屋の人は御池から登るのがおすすめ(登山口がアクセスしやすく、登山途中の湿原が素晴らしい)と言いますが、ビジターセンター情報では長英新道からが、なだらかで比較的登りやすいとのこと。一方で、御池からは長時間で大変、迷いやすいといった意見もあり、長英新道はぬかるみがあると言います。ナデッ窪は管理者がいない道で荒れている、見晴新道は新しい道なのでぬかるみ易いとも言います。さて、どういうルートで登って下りるのが良いのか。

ビジターセンターから三平下の尾瀬沼山荘は比較的近い。ここから先は一ノ瀬休憩所まで、ゆっくりとくつろげるところはありません。そのため、尾瀬沼休憩所で昼食をとることにします。イエローココナツカレーがおすすめと掲示されていたので、注文(確か900円)。タイ風カレーで、具は細切りのタケノコと、チキンと思しき謎の加工肉。味は普通です。

尾瀬沼山荘から先は木道があったりなかったり。そして木道は新しいものを設置工事しているものの、以前からあるものは破損しているものが多い。石を埋め込んだ階段があり、滑らないように気をつけて下っていきます。普通の山の中を下っていくように、延々と下り続けるのが想像していたよりつらくて、山小屋で出会った人の言葉を思い出します。「大清水まで行くの?頑張ってね。」とエールを受けた意味が分かった気がします。途中で湧き水の岩清水をコップで受けて、一飲み。

思ったより消耗してたどり着いた一ノ瀬休憩所内は、無人。休憩所内に虫がたくさん入り込んでいて、これなら外で休憩した方が良さそうです。

ここから大清水まで低公害乗り合いバスが出ていますが、大清水の集合時間までかなり時間に余裕があるので、旧道を下っていくことにしました。旧道は最初は瀬音が聞こえる気持ちのよいハイキングコースですが、ところによりぬかるみありで足元が汚れ、寄ってくる虫が煩い。近くの林道を走る乗り合いバスの音が聞こえてくると、バスに載っておけばよかったかという思いも頭をもたげてきます。

大清水に到着すると、あれ、あまり人がいない。14時半過ぎのこの時間帯、鳩待峠だったらハイキングや登山を終えて帰ろうという人で賑わっているはず。ここ大清水にはハイカーは10人もいません。入山の分散化を図ろうとしているそうですが、大清水に下りてくる人は鳩待峠に比べまだまだ少ないようです。

バスの到着時間まで大清水の休憩所で、同じツアーの人に草笛のレクチャーを受けたのもいい思い出です。前日、見晴近くの湿原で夕日や夜空を見ていたときに、「見上げてごらん夜の星を」の曲が聞こえてきました。レパートリーは坂本九さんの曲だけでなく色々。山小屋のスタッフさんがサービスで草笛を吹いていると思っていたのですが、実は同じツアーの人だったことがここで判明です。宿泊していた山小屋でも草笛は大人気で、教えを乞う人がたくさん集まってきたとか。一芸があるのはいいな。

旅行会社のバスが来て、帰宅の途につきます。帰りのバスは満員です。バスに乗っていると、車道を一匹の鹿がのんびりと横切っていきました。害獣扱いされている鹿ですが、随分のんきなものです。

こんな感じで尾瀬ハイキングは終了です。今度尾瀬に行くときは、満開のニッコウキスゲを見るんだ、燧ケ岳に登るんだと決意して。