オーチャード・バレエ・ガラ

今年の夏は、登山に時間とお金をつぎ込んでいるので、バレエ公演の鑑賞は少なめです。観たいなと思うものはあるのですが、行きません。ルグランガラとか、フェリボッレ&フレンズとか、アステラスとか、吉田都さんの引退公演(これはチケットが取れなかった・・・)とか。そんななかで行ってきたのが、オーチャードホールで催された「オーチャード・バレエ・ガラ」です。

最初の演目は「海と真珠」。海外のバレエ学校で学んでいたり、ローザンヌコンクールでファイナリストになったりした、まだプロとして活動していないアマチュアのダンサーが登場です。昨年オーチャードホールで行った世界の名門バレエ学校入学特別オーディションに出ていたダンサーらしい。飯田ゆにかさんか、西山菜月さんか、どちらか不明ですが、二人のうち小柄な方のダンサーが音感が良く、好きなタイプの音の取り方でした。男性ダンサーの淵山隼平さんは粗削りな感じもしましたが、ジャンプが高く、ピルエットの軸もしっかりしています。身体つきがまだまだ少年っぽく、更なる成長が見込めそうなダンサーでした。

2演目めは「ラ・シルフィード」。演者は前田紗江さんと隅谷健人さん。ラ・シルフィードを観ていて思うのは、結婚式を前に婚約者を放っておいて、シルフィードと楽しく森でダンスしている場合じゃないでしょうよ、ジェイムズ!

3演目め、菅井円加さんの「ヴァスラフ」よりソロ。オーチャード・バレエ・ガラに行ったメインの理由は、菅井さんを観たかったからです。

何故だか菅井さんのダンスは目が離せません。その踊りは、妖精のような細い身体つきのダンサーが、ただただ軽やかに踊るダンスとは一線を画します。体重や重力を感じさせながら(動きが重いという意味ではありません)、助走なしで高く飛ぶ。喜びや強さを表現して踊っているわけではないのに、生命力をものすごく感じます。

4演目めの金原里奈さんと二山治雄さんの「コッペリア」のグラン・パ・ド・ドゥ。これもとても良かった演目です。

金原さんはタマラ・ロホ率いるイングリッシュ・ナショナル・バレエのダンサー。アラセゴンドに上げた脚を、丁寧に次のポジションに戻していました。脚を出すときは、爪先の先の先まで、どこまでも伸びるように丁寧に動くけれど、戻す時は出す時ほど丁寧じゃないダンサーは多いです。金原さんは出す時も戻す時もとても丁寧で、細部まで神経が行き届いていて、脚の動きにニュアンスがありました。丁寧だからといって、戻す時に音に遅れるわけでもありません。さすが、ロホのところで研鑽しているダンサーです。

二山さんを観るのは、2015年の田北志のぶさんのガラ公演以来です。ローザンヌで1位を取っているし、上手なダンサーだなという印象はありましたが、さらに磨きがかかっていました。ジャンプは軽く、高いです。動作の終わりで5番に収めるべきところは、きっちり5番に収めます。動作の一つ一つが美しく、曖昧に流すところがありません。

そして半端ではない柔軟性と体幹の強さを見せる、片脚を上げた状態でのキープ。二山さんの身体をを時計に見立てたら、脚は5時55分を指しています。(ギエムのシックスオクロックのポーズのような感じです。二山さんはトウシューズ履いてないけど。)瞬間芸ではなく、軸足と180°の角度になるように片脚を上げ続け、それが嫌みにならない品の良さ。菅井さんと二山さんがドン・キホーテを踊る、横浜バレエフェスティバルに行けないのが残念です。

5演目めのスタントン・ウェルチ版「ロメオとジュリエット」のバルコニーのパ・ド・ドゥ。演じるのは飯島望未さんと中野吉章さん。ウェルチ版は初見なので、振付や踊りについて感想は特になし。飯島さんの容姿が美しく、中野さんが恵まれたスタイルをしていました。ちょっと大人っぽい2人だったかもしれません。チュッチュと何回もキスする振付。マクミラン版のようなバルコニーのセットはありませんでした。(後で調べたら、2019NHKバレエの饗宴でカリーナ・ゴンザレス&吉山シャール ルイ・アンドレのペアで同演目を踊っていたようです。)

第1部最後は矢内千夏さんと山本雅也さんの「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」。2人の踊りを観ていても、他のダンサーの踊りが浮かんできてしまい、舞台上の踊りに集中できませんでした。チャイパドを踊った米沢さんは、桜の花びらのように軽やかで、キュート、小気味よかったなとか、いろいろ。以前観た米沢さんと奥村さんのチャイコフスキー・パ・ド・ドゥが楽しすぎた・・・。

休憩挟んで第2部の1演目めは「海賊」のグラン・パ・ド・ドゥ。近藤亜香さんと高橋裕哉さんです。実はキャスト表もサイトのお知らせも見ていなかったため、観劇後まで男性ダンサーが変更になっていたことに気付きませんでした。当初の予定はチェンウ・グオさん。

観ていて、組んで踊っている時にしっくり来ていない感じだし、男性ダンサーの見た目やテクニックから変だなとは思っていました。近藤さんは口元は笑顔をキープしているものの、眉毛が困り眉のような形になっていて、晴れやかな感じがしない。硬い表情で踊るダンサーなのかと思っていましたが、パートナーが違うからだったのかもしれません。男性ダンサーと組んでいるところでは押さえていた感じがした近藤さんですが、ソロで踊るときは本領発揮。最後のフェッテは、前半はシングルとダブルで回り続け、後半はスピードを落とさずシングルで回り続ける。32回転以上していたような気がします。舞台下手奥から上手手前に向けての連続スートゥニュ(なのかな?)も連続ピケターンも、早い。

第2部2演目め。石丸ニコルさんと福士宙夢さんの「Wir Sagen uns Dunkles」。コンテンポラリーダンスです。コンテンポラリーは良く分からないので、観ていると眠くなるのですが、良く分からないことに変わりはないのですが、これはちっとも眠くなりませんでした。というか、よくぞオーチャード・バレエ・ガラに持ってきてくれました。プログラムを買っていないので解説読んでおらず、どういった作品なのか分かりませんが、振付はマルコ・ゲッケ。ゲッケってどこかで聞いた振付家ですが、どこで聞いたのか覚えていません。

最初はボーカルのBGMが流れる中、男性ダンサーが踊り続けます。身体を上下左右に大きく動かすというわけではなく、1m四方の中で完結するような動きです。が、細かく速く動き続ける。次はどんな動きになるのだろうと気になって、寝落ちしている暇はありません。そのうち女性ダンサーも加わり、男性ダンサーは退場し、女性ダンサーのソロと続く。女性ソロの時は、クラシック音楽が流れています。詳述はしませんが、最後の方で女性ダンサーの表情が変化し続けるのが面白かったです。オペラグラスで表情の変化を観続けましたが、きれいに見せようといった表情では一切ない。コンテンポラリーダンスは、素の人間の諸々の感情を肯定しているのですかね?

ちなみに、Google先生に作品タイトルを翻訳してもらったところ、「お互いに暗く言う」と出てきました。Google先生の翻訳で、さらに分からなくなりました・・・。

第2部3演目めは、寺田翠さんと大川航矢さんの「タリスマン パ・ド・ドゥ」です。ロシア系のダンサーのガラ公演でたまに観るパ・ド・ドゥですが、たまに観るだけなので見どころがいまだに良く分かりません。寺田さんはほっそりした身体つきで笑顔がかわいい、大川さんは動きが大きくて、舞台奥のホリゾントにぶつかりそうになっていた?

次はフィナーレ前の最後の演目、「ラ・バヤデール影の王国」。佐々晴香さんと石田浩明さんのパ・ド・ドゥと、金原さん・前田さん・矢内さんによる第1~3ヴァリエーションです。佐々さんは初見のダンサーですが、安定したテクニックを持つダンサーですね。男性ダンサーが持つ長いヴェールを使ったシーンでの、佐々さんの安定感が半端なかったです。完全に自身の身体をコントロールしている感じです。

フィナーレは出演した全ダンサーが出演しました。「海と真珠」を踊ったバレエ学校で修行中の3人の若手アマチュアダンサーが、プロダンサーたちに迎え入れられる。ゆくゆくはプロとして活躍していくことを暗示しているのでしょうか。そして菅井さんに迎えられて、総合監修の熊川哲也さんがチョロッと挨拶。こんな感じで楽しいガラ公演は終了です。