ゲネプロ

「ロメオとジュリエット」(@新国立劇場)のゲネプロを観る機会に恵まれたので、行ってきました。

ゲネプロが行われたのは、初日の前日です。

他の作品で1時間程度の舞台稽古見学会に参加したことはありますが、今回は案内状に約3時間とあります。これは、最初から最後まで観られるのでは?

とはいえ、舞台稽古なので中断する可能性もあります。観ているこちらの立場からすると、観劇中は物語の世界に入っているので中断されるのは嫌だな。でも出演者やスタッフにとっては、ダメなところは中断して最終確認した方がいいんだよね、と思いながらの観劇です。

結論から言うと、まるまる1本観られました。そして中断もなし。物語の世界に入ることができて、最後はじんわり涙が浮かんできました。踊りも軽く流すという感じではなく、本番同様の熱演でした。ちなみにキャストは初日と同じです。

ゲネプロは、本番と同じように進行します。違うのは客席はポツポツと関係者ばかりで、一般のゲネプロ見学者以外は観客は無し。指揮者が入ってきて、最後のカーテンコールまで本番通りに進行します。

見学していて悩んだのが、拍手をしていいのかどうかということです。普通に観劇しているのだったら、指揮者が入場してきたら拍手で迎える、自分が感動したところでは感情の赴くままに拍手をします。

一部に一般の見学者がいるとはいえ、ゲネプロ中のスタッフの方々は厳しい目で集中しチェックをしているはずです。ご厚意で見学させていただいている立場で、感情の赴くままに拍手して良いんだろうかと迷いました。邪魔してしまうのではないだろうか、と。

他の見学者も積極的に拍手をしている人は稀。そんな感じで舞台は進行していきました。そんななか、幕が代わり、楽屋からオーケストラピットに登場してきた指揮者のマーティン・イェーツさんが、指揮台に載り、客席に向かって「ん?拍手が聞こえないよ?」というように、手を耳にあてるポーズをしました。これで、疑問が解消しました。ゲネプロ見学者は拍手しても良いんだ!指揮者のイェーツさんの粋なはからいは、さすがです。

舞台の転換については、ゲネプロならではといったこともありました。3幕のジュリエットの部屋から霊廟への転換の間、どうやら幕の内側では霊廟の設営に手間取っていたようでした。幕の内側から声や音が聞こえてきて、その間、オケのヴァイオリンのキィーンという音が長く、長ーく響いていました。本番ではこの部分のヴァイオリンの音はもっと短いですが、演奏を止めるのではなく、こうやって間を繋ぐのか。

さて、ゲネプロの感想をちょっとだけ。

まずジュリエットの小野さん。

一夜を過ごした翌朝、泣いてすがって、ロメオが去るのを引き留めようとし、ロメオとジュリエットが相対する場面があります。ジュリエットが散々引き留めた後、静かに向かい合う二人。

今回のゲネプロで座った席からは、ロメオと向き合うジュリエットの表情だけが見えたのですが、この場面のジュリエットの表情が、ロメオの決意を雄弁に語っていました。「ロメオを翻意させることは出来ないんだ。ロメオは固く決意しているんだ。」と。

ジュリエットの表情しか見えませんでしたが、この時のロメオの表情はどんなだったのだろう。客席の位置によって見えるところに違いがあり、見えない部分を想像するのも面白いです。

キャピュレット夫人の本島さん。キャピュレット夫人の見せ場といったら、2幕最後のティボルトの死の場面です。

迫力がありました。キャピュレット夫人の悲しみや怒りが、迫ってきて、観る者の心を掴んで離しません。きれいに見せようなんて、ちっとも思っていない演技です。物語の人物になりきって、その役柄に感情が入っています。

形だけ振付をこなしても、こういったドラマティックバレエでは、そこに感情が入っていなければ、観る者の感情を揺さぶることはできません。一見、同じ振付でも、観ていて何故だかつまらないときがあります。おかしいなと思っていると、実は演じている人が違っていた、響いてくるほどの感情が発されていなかったから、なんてこともあります。というわけで、本島さんはまたしても演技力抜群なところを見せてくれました。

最後には殺されてしまう、踏んだり蹴ったりの人、パリスを演じるのは渡邊さん。申し分ない貴公子のはずですが、巡り合わせが悪い気の毒な人。

墓所ではジュリエットの亡骸の傍らに立ち、一人残ってジュリエットの亡骸を見つめ続けます。その立ち姿からは、ジュリエットの死を悼み、叶わなかった未来をあれこれと想い、惜しんでいるように見えます。おそらく役柄になりきって、その場面に相応しいことを考えているはず。決して、この場面はとりあえずジュリエットの亡骸のそばに立っていればOK、とは考えていないはず。

そして、娼婦の3人。それぞれキャラクターが違うようです。ダンサー自身の個性と役が融合して、三者三様です。

娼婦その1、寺田さんはリーダーっぽい。娼婦その2、奥田さんは、3人の中で最も若くて明るく、妹分的な感じ。娼婦その3、中田さんははすっぱ。

3人の娼婦の中で観ていて一番面白かったのは、中田さんの娼婦です。下品で、奔放、開けっぴろげで、性格が悪い。(←褒めてます)

すれ違いざまに町の女を蹴っ飛ばしたりして、大抵の場面で町の女たちといがみ合っています。こんな人がそばに居たら嫌だ、きっとこの人はロクな死に方はしないと思わぜてくれるほど、役柄になりきっていました。キャピュレット側の男性に乱暴に扱われ、地面に転ばされる場面がありますが、数あるリハーサルで青あざ作りまくりだったのでは?演技面だけでなく、踊りも良く、踊りにも奔放さが表れていました。

以上がゲネプロの感想です。初日も行ってきたので、初日の感想はまた後日。