ロメオとジュリエット(初日)

「ロメオとジュリエット(@新国立劇場)」に行ってきたので、メモ。

ゲネプロ見学翌日の「ロメオとジュリエット(初日)」、2日連続での観劇です。2日連続同キャストの観劇なので見飽きるかなと思いましたが、やられました。2日連続で泣かされた舞台でした。(自分でもバカだと思う・・・。)

悪ガキトリオのロメオ(福岡さん)、マキューシオ(奥村さん)、ベンヴォーリオ(福田さん)は本当に仲良さそう。前回の2016年の時は、福田さんがマキューシオで奥村さんがベンヴォーリオだったので、ついつい今回も同じ役で見てしまいがちでしたが、舞台に漂う3人の関係性が良いです。

小野ジュリエットの登場シーン。元気があって幼さの残るジュリエットです。踊りもいつもの姫系の踊りより、明らかに幼い踊り方。婚約者のパリスを紹介され、初めて男性から一人の女性として見られ、少女らしい恥じらいを見せます。パリスのことは気になる感じ。ですが、パリスが去ると、再び幼さを見せて人形遊びをはじめ、乳母に窘められ、ハッとします。

舞踏会の場面。ロメオとジュリエットが出会う運命の場所です。始まりは、重厚な音楽に重厚な踊り。大人の中に、少女ジュリエットが登場すると、重厚な舞踏会場に春のような柔らかさが加わります。

春の雰囲気を纏わせたまま、ジュリエットはパリスと柔らかに踊り始めます。一方のロメオは、憧れのロザラインを口説こうとして、まったく相手にされずじまい。運命の瞬間まで不自然なほど、互いの存在が眼に入りません。

そして、2人の運命の瞬間が訪れた!一瞬で恋に落ち、互いから目が離せなくなる2人。小野さん演じるジュリエットは、微笑みかけるのでもなく、ロメオを食い入るように見つめ続けます、人生で初めて見た男性であるかのように。

福岡さん演じるロメオもジュリエットに声をかけることすら出来ず、ただただ見つめ返します。ほんの少し前のロザラインへの恋心など、みじんに吹き飛んでいるようです。

何も考えられない運命の出会いの衝撃から、徐々に自分を取り戻す。ジュリエットの踊りは軽やかでいきいき、ステップが浮き浮きとして、喜びに溢れています。舞踏会冒頭でのパリスとの踊りとは、まったく違います。何と形容したらいいのか、パリスとの踊りは守られ庇護された繭の中にいるような感じ、ロメオと出会ってからの踊りは繭を破り、あふれ出てくる初めての感情に身をゆだねたという感じです。

舞踏会は進み、ロメオがティボルトに誰何され気まずい思いをしたり、ロメオの正体を乳母に知らされ驚愕するジュリエットの場面があったりしますが、次の見せ場、バルコニーのパ・ド・ドゥ。

ロメオとジュリエットのバルコニーのパ・ド・ドゥは、これほど恋の喜びや高揚感を余すことなく表現した場面はないのではないか、という位の名場面です。

冒頭はジュリエットとロメオが静かに互いの視線を合わせ続けます。この後の間断なく続く流れるようなダンスに比べると、ただ視線を合わせているこの時間は、長い。視線を合わせているだけなのですが、その間2人の思いが高まっていくようで、見入ってしまいます。舞踏会の場面もそうですが、身体の動きはないけれど登場人物の内面の動きがある場面は、ドラマティックバレエならではの見どころだと思います。

動き始めると、上昇から下降、上手から下手へと縦横無尽に展開される踊り。小野・福岡ペアは、動きに淀みがなく流れるようなパ・ド・ドゥを見せます。質が高くて、違和感やひっかかりがなく、観ている者にストレスを与えません。そして、踊りの中に感情が込もっています。大音量の金管が、2人の恋心の燃え上がり表現し、観ているこちらは小野・福岡ペアのレベルの高い踊り・演技を観られる幸せを噛みしめます。

幕が変わって、2幕。2幕はジュリエットの出番は控えめ。マキューシオの死にざまと、ロメオとティボルトの決闘、キャピュレット夫人の嘆きが見どころだと思います。キャピュレット夫人の嘆きについては、ゲネプロの感想の方でメモしたので、それ以外を。

いつものような他愛ない、いがみ合いを広場で繰り広げていたマキューシオとティボルト。そこに現れたジュリエットと秘密の結婚をしたロメオに止められ、背中を見せたマキューシオは、その隙にティボルトに刺されて絶命してしまいます。

初日のマキューシオは奥村さん、ティボルトは貝川さんです。

貝川さんのティボルトは冷酷なイメージです。マキューシオにからかわれてプライドを傷つけられた腹いせに、冷酷にマキューシオを刺しにいった感じ。

奥村さんのマキューシオは、踊りも演技も悪くない。踊りは軽やかで、爽やか系です。ですが、何というか、実生活で他人を小馬鹿にすることないんだろうなという奥村さんの人が良さそうな人間性が垣間見えてきて、血の気の多いマキューシオより、ちょっととぼけたようなベンヴォーリオの方が似合っていたと思うのです。ベンヴォーリオは老年になったあかつきには、血気盛んな若者たちに「自分の若いころにはこんな哀しい恋物語があった」と語って諫めるような、そんな個人的なイメージを持っています。そういうベンヴォーリオの人物像に、奥村さん演じるベンヴォーリオが合っていたなぁと思っていたもので。

そうは言っても、死の場面はマキューシオの見せ場です。ティボルトに刺されたのなんか何でもないよと見せかけたものの、多量の出血によりせん妄状態となり、最後の気力を振り絞ってティボルトとロメオに呪いの言葉を吐いて亡くなります。ここで奥村マキューシオは、ティボルトに向けては憎しみのこもった表情、ロメオに向けてはとても悲し気な表情を見せました。おまえが止めなければこんなことにはならなかったと責める気持ち、でも気の合う友人で憎みきれない気持ちがない交ぜになった感じでしょうか。

マキューシオが無くなった事実を受け、ロメオのリミットが外れます。1幕冒頭の福岡さんのロメオは仲間とバカ騒ぎはしていても知性があって大人になりかけ、それがジュリエットと出会って一段階大人になり、秘密の結婚をしてさらに大人に近づいた感じ。益の無いいがみあいはやめようと決意しているロメオです。それが理マキューシオの死で理性が吹き飛び、怒りの感情に飲み込まれます。

怒りと悲しみで我を忘れた福岡ロメオと、貝川ティボルトの闘いの迫力がすごかったです。ロメオの全身から発せられる怒りのオーラと、繰り出す剣の力の込め方。剣と剣がぶつかり合う音が、それまでの場面のどの出演者の闘いシーンより強くて大きい。リミットが外れた人間の凄まじさを感じます。その証拠に福岡ロメオの持つ剣は、闘いの途中で曲がりました。これは受け止める貝川ティボルトも、相当大変です。ロメオの怒りの剣の覇気に気おされ劣勢にたち、ついには仕留められるティボルト。この場面は、演技とは思えないリアルがありました。

3幕は2幕と代わり、ジュリエットに焦点が当たる幕です。

ロメオと一夜を過ごした後の別れの場面。ロメオはジュリエットの寝顔を見て、静かに旅立ちの決意をします。また一段と大人になったようなロメオ。この後ジュリエットが気づき、ロメオを引き留めます。前日のゲネプロではジュリエットの表情を観て、是非とも相対するロメオの表情も観てみたいと思っていましたが、座っていた席からはよく観えませんでした。右側ブロック席からだったら、観えたかも。

ロメオが去り、ジュリエットは悲しい気持ちを抱えたまま寝台へ。寝そべる小野ジュリエットは、寝台の中央より若干ロメオが寝ていた場所寄りに位置していました。ロメオの残り香で恋しい気持ちを慰めているのでしょうか。

乳母や両親、婚約者のパリスが現れ、ジュリエットに結婚を迫る場面。

パリスとの結婚を拒絶する、小野ジュリエットの気迫がすごかったです。脚を広げて立ち、強い視線で拒絶の意思を表します。1幕でパリスに恭しく扱われて、恥じらいをみせていた少女の姿はどこにもありません。あの少女の内面に、こんなに激しいものがあったのかと驚きます。感情の振り幅が大きい。ロメオと出会わず、親に言われるままパリスと結婚していたら、こんな激しさは見せない人生を送っていたのかも。

拒絶の意思を見せても、周りの大人の圧力に一人で抵抗し続けるのは難しく、ジュリエットはパリスの手を取ります。この場面が可哀想で・・・。魂が死んでいるってこういう状態をいうんだな。人形のようにだらんとしたジュリエット。虚ろな目で求めるのはロメオのみです。

初日のパリスは渡邊さん。いやいやするジュリエットに腹を立てています。申し分ない貴公子のパリス。出会い時の印象は悪くなかった、自分が何かしたわけでもないのに、いつの間にか嫌がられている、わけ分からんという感じでしょう。巡り合わせが悪かったのですね。

さて結婚を表面的には了承し、両親やパリスが部屋を出ていき、一人取り残されるジュリエット。憔悴してベッドに腰かけます。

ベッドに腰かけたジュリエットは、 始めは何も考えられない状態です。ですが人間は何もしないではいられないもの。何もしないでいると勝手にとめどもない考えが脳内を巡るものです。そして、徐々にジュリエットの目に灯がともる。希望の灯です。秘密の結婚に立ち会った神父様なら良い考えを授けてくれるのではないかと。思い立ったジュリエットはショールを羽織り、風のように教会へと向かいます。

神父様から渡された仮死の薬を、恐る恐る自室に持ち帰るジュリエット。どうしても怖くて薬の入った小瓶を投げ出しますが、ロメオとの幸せな未来を信じて、腰がひけながらも薬に近づき、意を決して飲み込みます。意識が混濁してきて、吐き気をもよおす。ロメオが去った窓辺に腕を伸ばす姿が、泣けてきます。ロミオへの愛を頼りに、一人で重い決断をするけれど、愛する人は身近に居ない。

亡骸(仮死の状態)を発見され、霊廟に葬られるジュリエット。参列者の中に姿をやつしたロメオがいます。ここの場面は、参列者の中に紛れたロメオを探せクイズといった感じで観ています。答えは、下手側から現れる参列者の最後尾、ロウソクを持たず歩いている人がロメオです。といっても、ロウソクの有無を見なくてもロメオと分かります。うつ向きがちに歩を進め、背中が泣いているように見える人物が、福岡さん演じるロメオ。

ジュリエットの亡骸を目にし、信じられない思いでいるロメオ。こんなのは嘘だと言わんばかりにジュリエットを抱きしめ、揺り動かしても、全く反応はありません。ロメオの絶望は深い。ロメオの心情と音楽が相合わさって、観ている方もつらいです。静かにジュリエットの亡骸を見下ろし、彼女の手を自らの胸にあてて、毒薬を口にしたロメオはこと切れます。

ロメオが亡くなり、仮死状態からジュリエットは目覚めます。地下の霊廟は暗く、周りには死体が横たわっています。驚きおののくジュリエットですが、ふと、見るとロメオが横になっています。愛しいロメオ、知らせを聞いて来てくれたのねと喜びをあらわにして近づきます。待ちくたびれて寝ているのかしらといった感じで抱き起してみると、何だか様子が変です。

ロメオが死んでいることに気付いたジュリエット。あらん限りの声をあげ、慟哭します。ちっともきれいに見える場面ではないのですが、ジュリエットの叫びが胸に迫ってきます。そして、2日連続同キャストだから今回は泣かないんだろうなという予想は見事に外れ、落涙しました。周りからはすすり泣きが聞こえてきます。

短剣を腹(胸ではない)に刺し、瀕死の状態でロメオの亡骸に近づいていく。力尽きて横たわり、冷たくなっていくジュリエット、で幕です。

濃密なドラマを観ました。そして難しいパ・ド・ドゥの流麗さは、長く組んでいるこのペアならではで、うっとりしました。小野福岡ペアの2月下旬から3月上旬にかけての「マノン」も楽しみです(2人が初役の時は泣かされました)。年末の「くるみ割り人形」と年始の「ニューイヤー・バレエ」は箸休め的に、何も考えずにキラキラバレエを楽しめそうです。