ロメオとジュリエット(初日)

「ロメオとジュリエット(@新国立劇場)」に行ってきたので、メモ。

ゲネプロ見学翌日の「ロメオとジュリエット(初日)」、2日連続での観劇です。2日連続同キャストの観劇なので見飽きるかなと思いましたが、やられました。2日連続で泣かされた舞台でした。(自分でもバカだと思う・・・。)

悪ガキトリオのロメオ(福岡さん)、マキューシオ(奥村さん)、ベンヴォーリオ(福田さん)は本当に仲良さそう。前回の2016年の時は、福田さんがマキューシオで奥村さんがベンヴォーリオだったので、ついつい今回も同じ役で見てしまいがちでしたが、舞台に漂う3人の関係性が良いです。

小野ジュリエットの登場シーン。元気があって幼さの残るジュリエットです。踊りもいつもの姫系の踊りより、明らかに幼い踊り方。婚約者のパリスを紹介され、初めて男性から一人の女性として見られ、少女らしい恥じらいを見せます。パリスのことは気になる感じ。ですが、パリスが去ると、再び幼さを見せて人形遊びをはじめ、乳母に窘められ、ハッとします。

舞踏会の場面。ロメオとジュリエットが出会う運命の場所です。始まりは、重厚な音楽に重厚な踊り。大人の中に、少女ジュリエットが登場すると、重厚な舞踏会場に春のような柔らかさが加わります。

春の雰囲気を纏わせたまま、ジュリエットはパリスと柔らかに踊り始めます。一方のロメオは、憧れのロザラインを口説こうとして、まったく相手にされずじまい。運命の瞬間まで不自然なほど、互いの存在が眼に入りません。

そして、2人の運命の瞬間が訪れた!一瞬で恋に落ち、互いから目が離せなくなる2人。小野さん演じるジュリエットは、微笑みかけるのでもなく、ロメオを食い入るように見つめ続けます、人生で初めて見た男性であるかのように。

福岡さん演じるロメオもジュリエットに声をかけることすら出来ず、ただただ見つめ返します。ほんの少し前のロザラインへの恋心など、みじんに吹き飛んでいるようです。

何も考えられない運命の出会いの衝撃から、徐々に自分を取り戻す。ジュリエットの踊りは軽やかでいきいき、ステップが浮き浮きとして、喜びに溢れています。舞踏会冒頭でのパリスとの踊りとは、まったく違います。何と形容したらいいのか、パリスとの踊りは守られ庇護された繭の中にいるような感じ、ロメオと出会ってからの踊りは繭を破り、あふれ出てくる初めての感情に身をゆだねたという感じです。

舞踏会は進み、ロメオがティボルトに誰何され気まずい思いをしたり、ロメオの正体を乳母に知らされ驚愕するジュリエットの場面があったりしますが、次の見せ場、バルコニーのパ・ド・ドゥ。

ロメオとジュリエットのバルコニーのパ・ド・ドゥは、これほど恋の喜びや高揚感を余すことなく表現した場面はないのではないか、という位の名場面です。

冒頭はジュリエットとロメオが静かに互いの視線を合わせ続けます。この後の間断なく続く流れるようなダンスに比べると、ただ視線を合わせているこの時間は、長い。視線を合わせているだけなのですが、その間2人の思いが高まっていくようで、見入ってしまいます。舞踏会の場面もそうですが、身体の動きはないけれど登場人物の内面の動きがある場面は、ドラマティックバレエならではの見どころだと思います。

動き始めると、上昇から下降、上手から下手へと縦横無尽に展開される踊り。小野・福岡ペアは、動きに淀みがなく流れるようなパ・ド・ドゥを見せます。質が高くて、違和感やひっかかりがなく、観ている者にストレスを与えません。そして、踊りの中に感情が込もっています。大音量の金管が、2人の恋心の燃え上がり表現し、観ているこちらは小野・福岡ペアのレベルの高い踊り・演技を観られる幸せを噛みしめます。

幕が変わって、2幕。2幕はジュリエットの出番は控えめ。マキューシオの死にざまと、ロメオとティボルトの決闘、キャピュレット夫人の嘆きが見どころだと思います。キャピュレット夫人の嘆きについては、ゲネプロの感想の方でメモしたので、それ以外を。

いつものような他愛ない、いがみ合いを広場で繰り広げていたマキューシオとティボルト。そこに現れたジュリエットと秘密の結婚をしたロメオに止められ、背中を見せたマキューシオは、その隙にティボルトに刺されて絶命してしまいます。

初日のマキューシオは奥村さん、ティボルトは貝川さんです。

貝川さんのティボルトは冷酷なイメージです。マキューシオにからかわれてプライドを傷つけられた腹いせに、冷酷にマキューシオを刺しにいった感じ。

奥村さんのマキューシオは、踊りも演技も悪くない。踊りは軽やかで、爽やか系です。ですが、何というか、実生活で他人を小馬鹿にすることないんだろうなという奥村さんの人が良さそうな人間性が垣間見えてきて、血の気の多いマキューシオより、ちょっととぼけたようなベンヴォーリオの方が似合っていたと思うのです。ベンヴォーリオは老年になったあかつきには、血気盛んな若者たちに「自分の若いころにはこんな哀しい恋物語があった」と語って諫めるような、そんな個人的なイメージを持っています。そういうベンヴォーリオの人物像に、奥村さん演じるベンヴォーリオが合っていたなぁと思っていたもので。

そうは言っても、死の場面はマキューシオの見せ場です。ティボルトに刺されたのなんか何でもないよと見せかけたものの、多量の出血によりせん妄状態となり、最後の気力を振り絞ってティボルトとロメオに呪いの言葉を吐いて亡くなります。ここで奥村マキューシオは、ティボルトに向けては憎しみのこもった表情、ロメオに向けてはとても悲し気な表情を見せました。おまえが止めなければこんなことにはならなかったと責める気持ち、でも気の合う友人で憎みきれない気持ちがない交ぜになった感じでしょうか。

マキューシオが無くなった事実を受け、ロメオのリミットが外れます。1幕冒頭の福岡さんのロメオは仲間とバカ騒ぎはしていても知性があって大人になりかけ、それがジュリエットと出会って一段階大人になり、秘密の結婚をしてさらに大人に近づいた感じ。益の無いいがみあいはやめようと決意しているロメオです。それが理マキューシオの死で理性が吹き飛び、怒りの感情に飲み込まれます。

怒りと悲しみで我を忘れた福岡ロメオと、貝川ティボルトの闘いの迫力がすごかったです。ロメオの全身から発せられる怒りのオーラと、繰り出す剣の力の込め方。剣と剣がぶつかり合う音が、それまでの場面のどの出演者の闘いシーンより強くて大きい。リミットが外れた人間の凄まじさを感じます。その証拠に福岡ロメオの持つ剣は、闘いの途中で曲がりました。これは受け止める貝川ティボルトも、相当大変です。ロメオの怒りの剣の覇気に気おされ劣勢にたち、ついには仕留められるティボルト。この場面は、演技とは思えないリアルがありました。

3幕は2幕と代わり、ジュリエットに焦点が当たる幕です。

ロメオと一夜を過ごした後の別れの場面。ロメオはジュリエットの寝顔を見て、静かに旅立ちの決意をします。また一段と大人になったようなロメオ。この後ジュリエットが気づき、ロメオを引き留めます。前日のゲネプロではジュリエットの表情を観て、是非とも相対するロメオの表情も観てみたいと思っていましたが、座っていた席からはよく観えませんでした。右側ブロック席からだったら、観えたかも。

ロメオが去り、ジュリエットは悲しい気持ちを抱えたまま寝台へ。寝そべる小野ジュリエットは、寝台の中央より若干ロメオが寝ていた場所寄りに位置していました。ロメオの残り香で恋しい気持ちを慰めているのでしょうか。

乳母や両親、婚約者のパリスが現れ、ジュリエットに結婚を迫る場面。

パリスとの結婚を拒絶する、小野ジュリエットの気迫がすごかったです。脚を広げて立ち、強い視線で拒絶の意思を表します。1幕でパリスに恭しく扱われて、恥じらいをみせていた少女の姿はどこにもありません。あの少女の内面に、こんなに激しいものがあったのかと驚きます。感情の振り幅が大きい。ロメオと出会わず、親に言われるままパリスと結婚していたら、こんな激しさは見せない人生を送っていたのかも。

拒絶の意思を見せても、周りの大人の圧力に一人で抵抗し続けるのは難しく、ジュリエットはパリスの手を取ります。この場面が可哀想で・・・。魂が死んでいるってこういう状態をいうんだな。人形のようにだらんとしたジュリエット。虚ろな目で求めるのはロメオのみです。

初日のパリスは渡邊さん。いやいやするジュリエットに腹を立てています。申し分ない貴公子のパリス。出会い時の印象は悪くなかった、自分が何かしたわけでもないのに、いつの間にか嫌がられている、わけ分からんという感じでしょう。巡り合わせが悪かったのですね。

さて結婚を表面的には了承し、両親やパリスが部屋を出ていき、一人取り残されるジュリエット。憔悴してベッドに腰かけます。

ベッドに腰かけたジュリエットは、 始めは何も考えられない状態です。ですが人間は何もしないではいられないもの。何もしないでいると勝手にとめどもない考えが脳内を巡るものです。そして、徐々にジュリエットの目に灯がともる。希望の灯です。秘密の結婚に立ち会った神父様なら良い考えを授けてくれるのではないかと。思い立ったジュリエットはショールを羽織り、風のように教会へと向かいます。

神父様から渡された仮死の薬を、恐る恐る自室に持ち帰るジュリエット。どうしても怖くて薬の入った小瓶を投げ出しますが、ロメオとの幸せな未来を信じて、腰がひけながらも薬に近づき、意を決して飲み込みます。意識が混濁してきて、吐き気をもよおす。ロメオが去った窓辺に腕を伸ばす姿が、泣けてきます。ロミオへの愛を頼りに、一人で重い決断をするけれど、愛する人は身近に居ない。

亡骸(仮死の状態)を発見され、霊廟に葬られるジュリエット。参列者の中に姿をやつしたロメオがいます。ここの場面は、参列者の中に紛れたロメオを探せクイズといった感じで観ています。答えは、下手側から現れる参列者の最後尾、ロウソクを持たず歩いている人がロメオです。といっても、ロウソクの有無を見なくてもロメオと分かります。うつ向きがちに歩を進め、背中が泣いているように見える人物が、福岡さん演じるロメオ。

ジュリエットの亡骸を目にし、信じられない思いでいるロメオ。こんなのは嘘だと言わんばかりにジュリエットを抱きしめ、揺り動かしても、全く反応はありません。ロメオの絶望は深い。ロメオの心情と音楽が相合わさって、観ている方もつらいです。静かにジュリエットの亡骸を見下ろし、彼女の手を自らの胸にあてて、毒薬を口にしたロメオはこと切れます。

ロメオが亡くなり、仮死状態からジュリエットは目覚めます。地下の霊廟は暗く、周りには死体が横たわっています。驚きおののくジュリエットですが、ふと、見るとロメオが横になっています。愛しいロメオ、知らせを聞いて来てくれたのねと喜びをあらわにして近づきます。待ちくたびれて寝ているのかしらといった感じで抱き起してみると、何だか様子が変です。

ロメオが死んでいることに気付いたジュリエット。あらん限りの声をあげ、慟哭します。ちっともきれいに見える場面ではないのですが、ジュリエットの叫びが胸に迫ってきます。そして、2日連続同キャストだから今回は泣かないんだろうなという予想は見事に外れ、落涙しました。周りからはすすり泣きが聞こえてきます。

短剣を腹(胸ではない)に刺し、瀕死の状態でロメオの亡骸に近づいていく。力尽きて横たわり、冷たくなっていくジュリエット、で幕です。

濃密なドラマを観ました。そして難しいパ・ド・ドゥの流麗さは、長く組んでいるこのペアならではで、うっとりしました。小野福岡ペアの2月下旬から3月上旬にかけての「マノン」も楽しみです(2人が初役の時は泣かされました)。年末の「くるみ割り人形」と年始の「ニューイヤー・バレエ」は箸休め的に、何も考えずにキラキラバレエを楽しめそうです。

ゲネプロ

「ロメオとジュリエット」(@新国立劇場)のゲネプロを観る機会に恵まれたので、行ってきました。

ゲネプロが行われたのは、初日の前日です。

他の作品で1時間程度の舞台稽古見学会に参加したことはありますが、今回は案内状に約3時間とあります。これは、最初から最後まで観られるのでは?

とはいえ、舞台稽古なので中断する可能性もあります。観ているこちらの立場からすると、観劇中は物語の世界に入っているので中断されるのは嫌だな。でも出演者やスタッフにとっては、ダメなところは中断して最終確認した方がいいんだよね、と思いながらの観劇です。

結論から言うと、まるまる1本観られました。そして中断もなし。物語の世界に入ることができて、最後はじんわり涙が浮かんできました。踊りも軽く流すという感じではなく、本番同様の熱演でした。ちなみにキャストは初日と同じです。

ゲネプロは、本番と同じように進行します。違うのは客席はポツポツと関係者ばかりで、一般のゲネプロ見学者以外は観客は無し。指揮者が入ってきて、最後のカーテンコールまで本番通りに進行します。

見学していて悩んだのが、拍手をしていいのかどうかということです。普通に観劇しているのだったら、指揮者が入場してきたら拍手で迎える、自分が感動したところでは感情の赴くままに拍手をします。

一部に一般の見学者がいるとはいえ、ゲネプロ中のスタッフの方々は厳しい目で集中しチェックをしているはずです。ご厚意で見学させていただいている立場で、感情の赴くままに拍手して良いんだろうかと迷いました。邪魔してしまうのではないだろうか、と。

他の見学者も積極的に拍手をしている人は稀。そんな感じで舞台は進行していきました。そんななか、幕が代わり、楽屋からオーケストラピットに登場してきた指揮者のマーティン・イェーツさんが、指揮台に載り、客席に向かって「ん?拍手が聞こえないよ?」というように、手を耳にあてるポーズをしました。これで、疑問が解消しました。ゲネプロ見学者は拍手しても良いんだ!指揮者のイェーツさんの粋なはからいは、さすがです。

舞台の転換については、ゲネプロならではといったこともありました。3幕のジュリエットの部屋から霊廟への転換の間、どうやら幕の内側では霊廟の設営に手間取っていたようでした。幕の内側から声や音が聞こえてきて、その間、オケのヴァイオリンのキィーンという音が長く、長ーく響いていました。本番ではこの部分のヴァイオリンの音はもっと短いですが、演奏を止めるのではなく、こうやって間を繋ぐのか。

さて、ゲネプロの感想をちょっとだけ。

まずジュリエットの小野さん。

一夜を過ごした翌朝、泣いてすがって、ロメオが去るのを引き留めようとし、ロメオとジュリエットが相対する場面があります。ジュリエットが散々引き留めた後、静かに向かい合う二人。

今回のゲネプロで座った席からは、ロメオと向き合うジュリエットの表情だけが見えたのですが、この場面のジュリエットの表情が、ロメオの決意を雄弁に語っていました。「ロメオを翻意させることは出来ないんだ。ロメオは固く決意しているんだ。」と。

ジュリエットの表情しか見えませんでしたが、この時のロメオの表情はどんなだったのだろう。客席の位置によって見えるところに違いがあり、見えない部分を想像するのも面白いです。

キャピュレット夫人の本島さん。キャピュレット夫人の見せ場といったら、2幕最後のティボルトの死の場面です。

迫力がありました。キャピュレット夫人の悲しみや怒りが、迫ってきて、観る者の心を掴んで離しません。きれいに見せようなんて、ちっとも思っていない演技です。物語の人物になりきって、その役柄に感情が入っています。

形だけ振付をこなしても、こういったドラマティックバレエでは、そこに感情が入っていなければ、観る者の感情を揺さぶることはできません。一見、同じ振付でも、観ていて何故だかつまらないときがあります。おかしいなと思っていると、実は演じている人が違っていた、響いてくるほどの感情が発されていなかったから、なんてこともあります。というわけで、本島さんはまたしても演技力抜群なところを見せてくれました。

最後には殺されてしまう、踏んだり蹴ったりの人、パリスを演じるのは渡邊さん。申し分ない貴公子のはずですが、巡り合わせが悪い気の毒な人。

墓所ではジュリエットの亡骸の傍らに立ち、一人残ってジュリエットの亡骸を見つめ続けます。その立ち姿からは、ジュリエットの死を悼み、叶わなかった未来をあれこれと想い、惜しんでいるように見えます。おそらく役柄になりきって、その場面に相応しいことを考えているはず。決して、この場面はとりあえずジュリエットの亡骸のそばに立っていればOK、とは考えていないはず。

そして、娼婦の3人。それぞれキャラクターが違うようです。ダンサー自身の個性と役が融合して、三者三様です。

娼婦その1、寺田さんはリーダーっぽい。娼婦その2、奥田さんは、3人の中で最も若くて明るく、妹分的な感じ。娼婦その3、中田さんははすっぱ。

3人の娼婦の中で観ていて一番面白かったのは、中田さんの娼婦です。下品で、奔放、開けっぴろげで、性格が悪い。(←褒めてます)

すれ違いざまに町の女を蹴っ飛ばしたりして、大抵の場面で町の女たちといがみ合っています。こんな人がそばに居たら嫌だ、きっとこの人はロクな死に方はしないと思わぜてくれるほど、役柄になりきっていました。キャピュレット側の男性に乱暴に扱われ、地面に転ばされる場面がありますが、数あるリハーサルで青あざ作りまくりだったのでは?演技面だけでなく、踊りも良く、踊りにも奔放さが表れていました。

以上がゲネプロの感想です。初日も行ってきたので、初日の感想はまた後日。

 

タカネビランジたくさん、鳳凰三山②

8月下旬、1泊2日の鳳凰三山登山ツアー2日目。

この日の行程は、南御室小屋から鳳凰三山に登り(地蔵岳オベリスクには登りません)、御座石温泉に下りてくるというものです。

帰りの時間の関係上、夜明け前から出発になります。真っ暗な小屋内の食堂で、前日夜に用意してもらったお弁当を食べ、身支度を整えたら出発です。

南御室小屋の敷地を出ると、すぐに樹林帯です。小屋のある所だけ、森林が切り開かれています。

外は真っ暗、ヘッドランプをつけて樹林帯の中を行きます。ヘッドランプをつけているとはいえ、夜明け前の山道は正規のルートが分かりずらい。ガイドさんに導いてもらっているので、例え間違ったルートに入ったとしてもすぐに正規のルートに戻れますが、一人だととんでもないところに迷い込んでしまう恐れもあります。ここは単独でも来れるかどうか考えながら登山ツアーに参加していますが、夜明け前の単独行動は自分のレベルでは厳しいなと思います。

辺りが徐々に明るくなってきて、樹林帯を抜けると、いきなり視界が開けます。1日目の夜叉神峠の時もそうでしたが、2日目もこのパターンです。登山道が続く前方には花崗岩の岩、開けた片側には白峰三山、その反対側には富士山が見えます。暗い樹林帯の中を歩き続けていたので、開放感が半端ありません。

砂礫の登山道のすぐそばには、お目当ての一つ、タカネビランジがそこここに咲いていました。もっともったいぶった感じで咲いているのかと勝手に想像していましたが、開けた稜線に出た初っ端から惜しみなく咲き誇っていました。タカネビランジはナデシコ科の可愛らしくて目立つ花。この後、砂礫の稜線上や岩石のそばでたくさん見ましたが、色は個体差が大きいようで、かなり白っぽいものから薄いピンク、濃いピンクまで。

花崗岩の岩場を登って下りて抜けていくと、その先は薬師岳小屋。薬師岳小屋は南御室小屋より少々小規模な感じですが、建物が新しくきれいです。ちょっと雰囲気があり、小屋の入り口に暖色系のライトがともっていて、小屋名とホウオウシャジンらしき花をかたどった金属製立て看板が設置されています。稜線上の小屋なので、飲み放題の湧き水はありません。

南御室小屋ではなく薬師岳小屋に泊る登山ツアーもあるようですが、薬師岳小屋まで行くのは1日目の行程はキツくなりますが、2日目は多少楽、そして施設がきれいで薬師岳がすぐ近く。南御室小屋は1日目の行程は多少楽で、2日目はキツくなりますが、湧き水があります。どちらもそれぞれ魅力があります。が、登山していると本当に水の貴重さが分かるので、個人的にはおいしい湧き水飲み放題の南御室小屋宿泊のツアーで良かったと思っています。

鳳凰三山一つ目の薬師岳はサクッと。観音岳もサクッと。ここまでは特に急いで歩いているわけではありませんでしたが、コースタイムと同じくらいか早いペースで進みました。

観音岳から地蔵岳まではコースタイムより多めに時間がかかりました。岩々っとした登りや急な下りがあったり、他の登山者の追い越しやすれ違いで道を譲っていたりしたため。そして、ホウオウシャジンを見たいとガイドさんにリクエストを出していたため、ガイドさんがお花を探しながら歩いてくれたから、ということも理由の一つです。

そんなガイドさんのお取り計らいもあり、自分では見つけられなかったホウオウシャジンを観音岳地蔵岳の間で見ることが出来ました。岩場の下でひっそりと、下向きに咲く青紫色の花。桔梗に似た感じの花ですが、花を吊るす茎が細くて花も小さく、もっとつつましい感じです。

地蔵岳に到着すると、ここ、すごい。特徴的なオベリスクはあるし、何十体もお地蔵さんが置かれています。

鳳凰三山の一つ目の薬師岳では少し雲が出ていたものの、観音岳地蔵岳は雲一つない快晴。地蔵岳では青空をバックにしたオベリスクが映えます。青い空と南アルプスの山を背景に撮影した何十体ものお地蔵さんの画像はここはどこ?という感じです。もっと引いて撮ると、白い砂の稜線上にお地蔵さんが並び、背景は青空だけになると、シュールな感じもしてきます。

絵になる地蔵岳オベリスクですが、ツアーでは登りません。一般の登山者の方々は登っていますね。ガイドさんによると、オベリスクにロープ等が設置されていても、誰かがしっかりと管理して設置しているものではないそうです。それじゃぁ、ツアーでは登らないよね。

鳳凰三山に登った!とミッションが終わったような気になりますが、実はこれから先の下山が長くて脚にくるのです。

下りの行程最初の目的地は、鳳凰小屋です。地蔵岳から、細かい砂の中を下りていきます。富士山に登ったことのある人の話しでは、富士山の下りのような道だとか。「富士山はこんな砂の中をずっと下りていくから、それに比べればここは全然短くて、楽よ。」だそうです。スイーッ、スイーッと下っていく人もいましたが、足をとられて尻もちをつく人もいたので、ご用心。

砂の道が終わり、樹林帯を下っていくと花がたくさん咲いている鳳凰小屋に到着です。ここでテント場の隅をお借りして昼食休憩させていただき、トイレ(200円)も使わせてもらいました。ここもお水が豊富で、ジャバジャバと流れ続けています。飲み水が汲める山小屋って、やっぱりいい!そして小屋の方がオカリナを吹いていて、素朴な音色に懐かしい感じがします。

昼食は南御室小屋で作ってもらったお弁当です。朝食、昼食と小屋でお弁当を用意してもらいましたが、一つはご飯の上に昆布の佃煮を載せ、卵焼きやしゅうまい(だったかな?)が入った折り詰め弁当、もう一つはゆかりご飯2つ・わかめご飯1つの俵型のおにぎり弁当(ソーセージや漬物添え)でした。折り詰めの方を朝食に、おにぎりの方を昼食に食べました。おにぎり弁当は山小屋側からしたら手間がかかりますが、登山者から見ると食べやすくて、登山中に失った糖質と塩分を手軽に補給できるのでありがたいのです。

昼食後もひたすら下ります。小石がコロコロしているところもある整備されている道で、多少のアップダウンはあるものの、とにかくひたすら下ります。そのうち膝にくる人が出てきたり色々で、コースタイム通りにいかなくなりました。樹林帯の中でレンゲショウマが咲いているのを見つけたり、谷側の木が生えていない登山道から地蔵岳甲斐駒ヶ岳が見えたり、楽しいこともありましたが、全体の行程が登りほどサクサクいきません。

下り続けると、西ノ平というかなり広く真っ平らな場所に出ます。ここだけ木が生えてなくて真っ平ら。何だろう、ここ。工事のために人工的に山を切り開いたのでしょうか。ここで長めの休憩になり、熱を持ってきた膝にエアーサロンパスをスプレーしておきました。もっと強力な医薬品もあると思いますが、エアーサロンパス、結構良いです。

西ノ平を出発してちょっと登ってから、結構な傾斜を梯子で下っていくと、山の斜面の崩壊を防止する工事が施されているのが見えてきます。この工事のために西ノ平は切り開かれたのかなと想像しましたが、どうなんでしょうかね。

御座石温泉はまだかなと思いつつ下っていると、フシグロセンノウの朱色の花が見えてきました。そして木々の合間から建物も見えてきました。やった、御座石温泉です!やっと着いたよ。これで8月下旬、鳳凰三山登山ツアーは終了です。

 

タカネビランジたくさん、鳳凰三山①

8月下旬に1泊2日の登山ツアーで鳳凰三山に行ってきたので、メモ。

1日目は夜叉神峠登山口から南御室小屋までの行程です。

登山道が整備されていて危険個所がなく、歩きやすいです。さすが、南アルプス入門編の山です。

南御室小屋までの行程のほとんどが、樹林帯の中。もくもくと樹林帯を進むと、夜叉神峠でいきなり視界が開けます。ちょうど登山口から1時間ぐらい歩いた先にあり、夜叉神峠小屋もあって、平坦な土地、目の前には白峰三山。休憩に最適な場所です。

南アルプス国立公園 夜叉神峠」の看板前が記念写真スポットらしく、白峰三山をバックに写真を撮る人、多し。この日は青空でしたが、白くて大きな雲が多く、山頂が多少隠れているところがあるのはご愛嬌です。

夜叉神峠の先も、登山道の両側は木で覆われ、南アルプスの山々を見ながら楽しく登山というわけにはいきません。木の隙間からチラチラッと見える箇所もありますが、白峰三山の姿がよく見えるのは、山火事があったという表示を少し過ぎた辺りぐらいでしょうか。

1時間に1回のペースで休憩を取りつつ歩んでいきますが、1日目の最後の休憩場所は苺平というところ。ここも樹林帯の中で、明るくはありません。

苺平という名称から、白い苺の花が咲き乱れるメルヘンな場所を想像していましたが、ちっともメルヘンな場所ではありません。行ったのがそもそも苺の花が咲く季節じゃなかったので、苺の花が見られなかったということもありますが。

そして「苺平」という道標を正面につけ、金属製のパイプを四角錐状に積み上げたものは何?苺平に来るまでにも、道標をつけた同様のものがありましたが、金属パイプで作ったケルンでしょうか?

苺平を過ぎたら南御室小屋まではあと少し。相変わらず樹林帯の中ですが、道の様子が白っぽい砂礫状になってきたなと思いつつ歩き続けると、森林の中にぽっかり開けた場所が。そこが南御室小屋です。

南御室小屋は年季の入った外観です。野草が咲き乱れ、小屋の前には流れ続ける湧き水があります。冷たくて美味しい湧き水です。日中は湧き水の所で、小屋で販売している飲み物が冷やされています。小屋の脇にはへび苺のような苺もなっていました。苺平でもよく観察していたら、こういう苺がなっていたのかもしれません。

北アルプスの山小屋に比べ、こじんまりとした感じの南御室小屋ですが、広大ではない敷地にヘリの荷揚げスペースもあります。山あいのこんなスペースにもヘリが荷揚げしているのかぁ。年季の入った小屋内に、缶ビールの自販機があるのが謎でしたが、自販機もヘリで運んだのかも。荷揚げスペースのそばにテント場もあります。

トイレは工事現場に設置してあるような簡易トイレが、外に何台か設置されてます。山小屋のトイレに入るときは緊張します・・・。人気がある山の近くの山小屋のトイレは、使用者が多くて処理が追い付いてないと思われる、使用するのが気が重くなるようなところもあるからです。さて南御室小屋のトイレは・・・、(泊まった日が良かったのかもしれませんが)全然大丈夫なレベルです。

8月最後の土曜でしたが、部屋では一人一枚の布団を使えることが出来ました。事前の天気予報が悪かったので宿泊キャンセルがあり、ゆったり寝られることになったのです。

夕食はビーフシチュー、乾燥パセリを上に散らしたライス、ポテトサラダ、味噌汁、高野豆腐、千切りキャベツ、煮豆などです。翌日は夜明け前に出発するので、夕飯を食べたら早々に就寝です。

オーレン小屋

6月の下旬に八ヶ岳ツアーでオーレン小屋に泊ったときのことを、メモ。といってもだいぶ前のことなのでうろ覚え・・・。

天候不良のため行程変更で、急遽、宿泊することになったオーレン小屋。赤岩ノ頭から硫黄岳には行かず、てくてく、黙々と登山道を下っていきます、雨の中、オーレン小屋が見えたときは、ホッとしました。

到着したのは朝の9時半ごろだったでしょうか。前日の宿泊者が朝に出発して、部屋の掃除等々が終わり、小屋のスタッフの方々は一仕事終わった、ちょっと休憩でもしましょうかという頃合いだったと思います。

そこへ現れたのは、ずぶ濡れの登山ツアー一行。迎え入れてもらうにも大人数なため準備が必要で、しばしの時間がかかりました。もしかして泊めてもらえない?そんなことはないよね?と若干不安になりながら、小屋の外で待ちます。準備が出来ました!とのことで、着用していた雨具等を脱いで、大人数でお邪魔します。

まずは部屋に入る前に、ずぶ濡れの雨具やザックをどうにかしなくては。オーレン小屋には乾燥室がありません。玄関を入ると、薪ストーブのあるホールの脇に針金がめぐらされていて、床にビニールシートを敷き、乾燥室の代わりになっていました。ツアー一行がハンガーにかけた雨具等からは、ポタポタとしずくが落ち、ビニールシートにはすぐに水たまりができました。

薪ストーブに火をいれると、ホールの温度も上がって、徐々に雨具等も乾いてきます。宿泊者もストーブの周りで温まれて、一石二鳥です。

火を落としていた薪ストーブは、急な訪問者のために、火を入れることに。まず割りばしで火をつけます。割りばしは火がつきやすいとのことで、割りばしについた火から薪へ。ストーブの上にはやかんが乗っていましたが、夕刻には大きなお鍋も乗っていました。翌日の仕込みでしょうか?

ホールや談話室、食堂の壁には写真パネルが飾られています。オコジョが可愛い。ちなみに受付では、オコジョが描かれた山小屋バッジも売っています。ついでに言うと、可愛いのか判断に迷うけれど、ネタにはなるかもしれないフェルト(?)で作られたオコジョキーホルダー、カモシカキーホルダーも売っていました。時間帯によっては手作りケーキも販売していて、この日は寒天入りのチョコレートチーズケーキが売られていました。お味は甘さ控えめな、さっぱりしたチョコレートチーズケーキ。

飛び込みでの宿泊だったツアー一行ですが、他の宿泊予定者が少なかったためか、個室に入れてもらえました。入ったのは4人部屋。畳敷きの部屋でした。1階部分がない2階部分だけの1人用ベッドがあり、そこに1名。ベッドの下の1階部分のスペースも使って畳の上に三枚布団を敷き、そこに3名。一人につき一組の布団セットと二枚の毛布があり、きつきつではなく、ゆったり寝られます。

トイレは水洗で清潔、お風呂もあります。湯船は檜を使っていて、芳香がします。雨の中を歩き続けて疲れた身体を湯船にゆだねると、生き返る心地がします。この日は当初は黒百合ヒュッテに宿泊の予定で、お風呂には入れないと覚悟していましたが、思いもよらずオーレン小屋に泊ることになり、お風呂に入れて極楽、極楽。

夕食は、オーレン小屋といえば「桜鍋」。この日、雨の中、歩荷さんが食材を運んできてくれたそうです。一人に一つの鉄鍋。味付けは濃い目の割り下で、すき焼きの肉が牛肉ではなく馬肉になったという感じです。馬肉は煮込み過ぎると固くなるので、色が変わったらすぐに食べるのが良いと教わります。あっつあつの桜鍋。はふはふと食べます。味濃いけど、美味しいです。天ぷらやひじきの煮物などの副菜、ついでに紫いも餡の水まんじゅうがデザートも出ました。

実はオーレン小屋に泊ることになった時に、小屋の管理人のおじさんからツアー一行の女性の人数を聞かれました。何のために聞かれたか分からず、女性陣は「もしかしたら女性にだけ夕飯にデザートが出るのかな?」とわくわくしていました。が、夕飯の席では、女性・男性関係なく、すべての人のお皿にデザートが載っています。

はて?デザートじゃないとしたら、何のために女性の人数を聞かれたのだろう?「きっと、歩荷さんが食材持ってきてくれたから、当初は女性分だけしかなかったデザートが男性にも振舞われたんだよ。」と無理に納得する女性陣。

その理由は、翌朝判明しました。前日の強い雨はすっかりやみ、曇天ではあるものの登山するには充分な天気。この日は前日消化できなかった天狗岳に登り、にゅうにも登って、白駒池入り口まで下山するという行程をこなせそうです。さぁ、出発するぞという段になって、小屋の方から女性陣にだけプレゼントがあるといいます。

これです!これが前日、女性陣の人数を聞いていた理由だったのです。何をいただいたのかは敢えて書きませんが、旅の安全を祈るもので、前々からずっと女性にだけプレゼントしているといいます。

思わぬプレゼントをいただき、楽しく嬉しい気持ちになったところで、今度こそ本当に出発です。ありがとう、ありがとうオーレン小屋(のスタッフの方々)!プレゼントをもらったから持ち上げているのではなく、濡れそぼって意気の下がった登山者には、温かく受け入れてもらえて、とても嬉しかったのです。

 

 

オーチャード・バレエ・ガラ

今年の夏は、登山に時間とお金をつぎ込んでいるので、バレエ公演の鑑賞は少なめです。観たいなと思うものはあるのですが、行きません。ルグランガラとか、フェリボッレ&フレンズとか、アステラスとか、吉田都さんの引退公演(これはチケットが取れなかった・・・)とか。そんななかで行ってきたのが、オーチャードホールで催された「オーチャード・バレエ・ガラ」です。

最初の演目は「海と真珠」。海外のバレエ学校で学んでいたり、ローザンヌコンクールでファイナリストになったりした、まだプロとして活動していないアマチュアのダンサーが登場です。昨年オーチャードホールで行った世界の名門バレエ学校入学特別オーディションに出ていたダンサーらしい。飯田ゆにかさんか、西山菜月さんか、どちらか不明ですが、二人のうち小柄な方のダンサーが音感が良く、好きなタイプの音の取り方でした。男性ダンサーの淵山隼平さんは粗削りな感じもしましたが、ジャンプが高く、ピルエットの軸もしっかりしています。身体つきがまだまだ少年っぽく、更なる成長が見込めそうなダンサーでした。

2演目めは「ラ・シルフィード」。演者は前田紗江さんと隅谷健人さん。ラ・シルフィードを観ていて思うのは、結婚式を前に婚約者を放っておいて、シルフィードと楽しく森でダンスしている場合じゃないでしょうよ、ジェイムズ!

3演目め、菅井円加さんの「ヴァスラフ」よりソロ。オーチャード・バレエ・ガラに行ったメインの理由は、菅井さんを観たかったからです。

何故だか菅井さんのダンスは目が離せません。その踊りは、妖精のような細い身体つきのダンサーが、ただただ軽やかに踊るダンスとは一線を画します。体重や重力を感じさせながら(動きが重いという意味ではありません)、助走なしで高く飛ぶ。喜びや強さを表現して踊っているわけではないのに、生命力をものすごく感じます。

4演目めの金原里奈さんと二山治雄さんの「コッペリア」のグラン・パ・ド・ドゥ。これもとても良かった演目です。

金原さんはタマラ・ロホ率いるイングリッシュ・ナショナル・バレエのダンサー。アラセゴンドに上げた脚を、丁寧に次のポジションに戻していました。脚を出すときは、爪先の先の先まで、どこまでも伸びるように丁寧に動くけれど、戻す時は出す時ほど丁寧じゃないダンサーは多いです。金原さんは出す時も戻す時もとても丁寧で、細部まで神経が行き届いていて、脚の動きにニュアンスがありました。丁寧だからといって、戻す時に音に遅れるわけでもありません。さすが、ロホのところで研鑽しているダンサーです。

二山さんを観るのは、2015年の田北志のぶさんのガラ公演以来です。ローザンヌで1位を取っているし、上手なダンサーだなという印象はありましたが、さらに磨きがかかっていました。ジャンプは軽く、高いです。動作の終わりで5番に収めるべきところは、きっちり5番に収めます。動作の一つ一つが美しく、曖昧に流すところがありません。

そして半端ではない柔軟性と体幹の強さを見せる、片脚を上げた状態でのキープ。二山さんの身体をを時計に見立てたら、脚は5時55分を指しています。(ギエムのシックスオクロックのポーズのような感じです。二山さんはトウシューズ履いてないけど。)瞬間芸ではなく、軸足と180°の角度になるように片脚を上げ続け、それが嫌みにならない品の良さ。菅井さんと二山さんがドン・キホーテを踊る、横浜バレエフェスティバルに行けないのが残念です。

5演目めのスタントン・ウェルチ版「ロメオとジュリエット」のバルコニーのパ・ド・ドゥ。演じるのは飯島望未さんと中野吉章さん。ウェルチ版は初見なので、振付や踊りについて感想は特になし。飯島さんの容姿が美しく、中野さんが恵まれたスタイルをしていました。ちょっと大人っぽい2人だったかもしれません。チュッチュと何回もキスする振付。マクミラン版のようなバルコニーのセットはありませんでした。(後で調べたら、2019NHKバレエの饗宴でカリーナ・ゴンザレス&吉山シャール ルイ・アンドレのペアで同演目を踊っていたようです。)

第1部最後は矢内千夏さんと山本雅也さんの「チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ」。2人の踊りを観ていても、他のダンサーの踊りが浮かんできてしまい、舞台上の踊りに集中できませんでした。チャイパドを踊った米沢さんは、桜の花びらのように軽やかで、キュート、小気味よかったなとか、いろいろ。以前観た米沢さんと奥村さんのチャイコフスキー・パ・ド・ドゥが楽しすぎた・・・。

休憩挟んで第2部の1演目めは「海賊」のグラン・パ・ド・ドゥ。近藤亜香さんと高橋裕哉さんです。実はキャスト表もサイトのお知らせも見ていなかったため、観劇後まで男性ダンサーが変更になっていたことに気付きませんでした。当初の予定はチェンウ・グオさん。

観ていて、組んで踊っている時にしっくり来ていない感じだし、男性ダンサーの見た目やテクニックから変だなとは思っていました。近藤さんは口元は笑顔をキープしているものの、眉毛が困り眉のような形になっていて、晴れやかな感じがしない。硬い表情で踊るダンサーなのかと思っていましたが、パートナーが違うからだったのかもしれません。男性ダンサーと組んでいるところでは押さえていた感じがした近藤さんですが、ソロで踊るときは本領発揮。最後のフェッテは、前半はシングルとダブルで回り続け、後半はスピードを落とさずシングルで回り続ける。32回転以上していたような気がします。舞台下手奥から上手手前に向けての連続スートゥニュ(なのかな?)も連続ピケターンも、早い。

第2部2演目め。石丸ニコルさんと福士宙夢さんの「Wir Sagen uns Dunkles」。コンテンポラリーダンスです。コンテンポラリーは良く分からないので、観ていると眠くなるのですが、良く分からないことに変わりはないのですが、これはちっとも眠くなりませんでした。というか、よくぞオーチャード・バレエ・ガラに持ってきてくれました。プログラムを買っていないので解説読んでおらず、どういった作品なのか分かりませんが、振付はマルコ・ゲッケ。ゲッケってどこかで聞いた振付家ですが、どこで聞いたのか覚えていません。

最初はボーカルのBGMが流れる中、男性ダンサーが踊り続けます。身体を上下左右に大きく動かすというわけではなく、1m四方の中で完結するような動きです。が、細かく速く動き続ける。次はどんな動きになるのだろうと気になって、寝落ちしている暇はありません。そのうち女性ダンサーも加わり、男性ダンサーは退場し、女性ダンサーのソロと続く。女性ソロの時は、クラシック音楽が流れています。詳述はしませんが、最後の方で女性ダンサーの表情が変化し続けるのが面白かったです。オペラグラスで表情の変化を観続けましたが、きれいに見せようといった表情では一切ない。コンテンポラリーダンスは、素の人間の諸々の感情を肯定しているのですかね?

ちなみに、Google先生に作品タイトルを翻訳してもらったところ、「お互いに暗く言う」と出てきました。Google先生の翻訳で、さらに分からなくなりました・・・。

第2部3演目めは、寺田翠さんと大川航矢さんの「タリスマン パ・ド・ドゥ」です。ロシア系のダンサーのガラ公演でたまに観るパ・ド・ドゥですが、たまに観るだけなので見どころがいまだに良く分かりません。寺田さんはほっそりした身体つきで笑顔がかわいい、大川さんは動きが大きくて、舞台奥のホリゾントにぶつかりそうになっていた?

次はフィナーレ前の最後の演目、「ラ・バヤデール影の王国」。佐々晴香さんと石田浩明さんのパ・ド・ドゥと、金原さん・前田さん・矢内さんによる第1~3ヴァリエーションです。佐々さんは初見のダンサーですが、安定したテクニックを持つダンサーですね。男性ダンサーが持つ長いヴェールを使ったシーンでの、佐々さんの安定感が半端なかったです。完全に自身の身体をコントロールしている感じです。

フィナーレは出演した全ダンサーが出演しました。「海と真珠」を踊ったバレエ学校で修行中の3人の若手アマチュアダンサーが、プロダンサーたちに迎え入れられる。ゆくゆくはプロとして活躍していくことを暗示しているのでしょうか。そして菅井さんに迎えられて、総合監修の熊川哲也さんがチョロッと挨拶。こんな感じで楽しいガラ公演は終了です。

 

蛇紋岩滑る谷川岳

7月中旬の3連休の初日に谷川岳に行ってきました。

今回が初・谷川岳です。ずっと天気をてんくらでチェックし続けていて、3連休の初日がちょうど天気が良さそうだということで、前日に急遽、新幹線の切符を取りました。

新幹線で上毛高原駅まで、関越交通で往復の路線バス代とロープウェー代がセットになった得々乗車券(3,950円)を使ってロープウェー乗り場に行き、天神平~オキノ耳までの往復登山という行程です。

上毛高原駅に着いたのは朝の7:53。乗っていた車両はガラガラだったのですが、他の車両から下車する人は多く、思ったより多くの人が下車します。中には団体旅行のハイカーらしき人たちもいます。

人が多いな、とのんびりしている暇はありません。8:04の路線バスに乗る前に、駅舎の一角にある得々乗車券販売所(駅舎からバス停に行く出入り口のそばにある)で得々乗車券を買わなくては。

得々乗車券を買い、発車数分前に谷川岳ロープウェー乗り場行きバスに飛び乗ったら、座席は既に満席、数人立って乗車している人も。上毛高原駅で降りた人たちのうち、6割ぐらいは尾瀬に行くバスに乗ったようです。といっても、出発時間までに客が乗り込み続け、そこそこ満員になって、バスは定刻通り出発です。

途中、JRの水上駅土合駅にバスは停車し、水上駅では数人のグループも乗ってきました。今回は往復新幹線にしましたが、時間に余裕があったら下山後は水上の辺りで降りて温泉に入り、水上駅からローカル線に揺られて帰るのも良さそうです。

9時前にロープウェー駅に到着し、すぐさま天神平駅へ。ロープウェーの中から見える景色は、どんよりと曇っています。画像でよく見るような青い空とくっきりとした稜線の谷川岳ではありません。でもいいんです、雨が降っていない、それだけでありがたいのですから。

ロープウェーの駅には、デカデカとした「熱中症注意」の注意喚起が所々、目立つように掲げられています。乗車駅でも降車駅にも。(分かってますよー。)と内心思い、準備運動をしたら登山開始です。

天神尾根の木道の上をサクサクと進む。しばらく行くと木道は終わり、鎖がかけられた岩場が見えてきます。この最初の岩場で既に渋滞が発生していました。年配女性だけの登山ツアーの団体さんが、難儀しながら岩場を登っています。

ここら辺は、リフトの頂上駅からぐるっとロープウェーの天神平駅まで周回するウォーキングコースなので、鎖を使わなくても登れる箇所です。ウォーキングコースなのでスニーカーで来てしまう人もいるため、念のため鎖が設置されているのでしょうか。岩もまだ蛇紋岩ではなさそうですが、岩場経験の少ない登山者にとっては、ファイトー!いっぱーつ!という感じかもしれません。

ですが、ここは序の口。この後も岩場は続く。登山道の岩場近辺に到着するたびに、渋滞は発生。上毛高原駅発の路線バスで谷川岳ロープウェー駅まで行く一番早い便に乗ってきましたが、先行者が多いことに驚きます。登山ツアーの人たちだけでなく、ファミリー、若者グループ、中高年グループ、私と同じく単独行の人と、谷川岳ってこんなに人が来るの?

登山の楽しみ、肝心の展望ですが、登山開始前に懸念したように良くありません。天狗のトマリ場で岩の上に立ち、周囲の景色を撮ってみましたが、ガスに覆われ、クリアに写っているのは足元近くの岩場のみ。晴れてたらどんな景色が広がっていたのでしょうか。その後は、雲の合間に青空がチラッと見える数分間もありましたが、肩の小屋につくまでに青空はかき消されました。

渋滞続きでノロノロと進みますが、それにしても暑い。曇りでそれ程気温の高くなかったこの日でも、ムシムシして風もなく、暑いです。途中に水場もないし、好天でもっと気温が高い日だったらさらに厳しそうです。ロープウェー駅で目立つように「熱中症注意」と掲示されているのも分からないでもないです。

肩の小屋が近づいてくると、階段状になった登山道を登って小屋まで行くことになりますが、残雪が溶けた雪解け水が登山道の端を流れています。端を勢いよく流れる雪解け水が涼し気で、思わず手を伸ばすと冷たくて気持ちいい!飲むことはできませんが、手をつけるだけでひんやりとして、その一瞬だけ暑さを忘れます。

さて、肩の小屋は見えますが、陽を遮るものが一切ない肩の小屋までの階段状の登山道は、地味にきつい。スイスイとは進めませんが、一歩ずつ確実に足を運べば、その先は肩の小屋前の広場です。

肩の小屋前も結構な人出です。みんな一体、どこから来たんでしょう?昼食取るため座るに良い場所は・・・と見まわし、朽ちた細い丸太の端に座ります。おにぎりを頬張りながら稜線を見て思うことは、ガスが消えないねぇ・・・。

かなりのんびり肩の小屋前で昼食を取ったら、トマノ耳、オキノ耳を向けて出発です。肩の小屋から山頂まではハクサンチドリやヨツバシオガマがたくさん咲いていて、気分があがります。ウスユキソウも咲いていたらしいのですが、気づきませんでした。トマノ耳まで少しの登り、また下って再度登ってオキノ耳に到着しますが、登山道が狭いのと岩(蛇紋岩?)が滑り易いのが相まって、安心安全な場所に目立つように生えている花以外、目に入れる余裕がありませんでした。

トマノ耳、オキノ耳でもガスが広がり、青空は見えません。オキノ耳まで到着したら、後はサッサと降りるだけ。肩の小屋に下りるまでに、晴れそう、と思わせておいてほんの少しだけ青空を見せ、また曇天が広がる小憎らしい谷川岳

実は下山時の方が、蛇紋岩のやっかいさは身に沁みます。乾いてても滑る蛇紋岩。濡れていたらもっと滑る蛇紋岩。ほぼ岩は乾いていましたが、所により濡れている箇所もあり。

蛇紋岩の岩場の下りが続きます。岩は乾いているけれど、滑り易い。後ろを歩く人のズルッと滑る音が聞こえてきます。自分が滑らなくとも、他の人の滑っている姿、滑った音を聞くとヒヤッとします。

蛇紋岩の岩場で、どこに足を置こうかなと上から見て、ちょっと遠いけどここに置こうと決めた箇所に右足のつま先をのせ、体重をかけたら・・・。

右脚の内転筋がつりました。

ええっ?内転筋ってつるの?と焦りましたが、体重は掛けられそう。なので、そのまま右脚に体重をかけ、また少し遠いけど次の足場に左足つま先を置いたら・・・。

今度は左脚の内転筋がつりました。

内転筋がつるのが初めてで、しかも両脚?とかなり焦りましたが、岩場の下まで来て、両脚をブルブル震わせてたら、大丈夫そうな状態になりました。

これがもっと危険な岩場だったらと思うとゾッとします。思うに、登山前の準備運動が少なすぎた、渋滞に遭遇した遅れを取り戻そうとペースをあげた、不安定な姿勢の大きな一歩で体重をかけた、辺りが原因ではないかと。

その後は問題なく下山できました。晴れそうな期待を持たせながら、結局厚い雲に覆われ続けた谷川岳登山でしたが、いい経験になりました。

天神平に到着して、ニッコウキスゲを見て、写真を撮り、天神平駅そばの靴洗い場で靴を洗ったら、初めての谷川岳登山は終了です。それにしても、暑かったなぁ。